第12話②

 移動するために電車に乗った私は隣に座ったりゅー君を意識してしまい、上手く喋ることができなくなってしまいました。歩いているときはあまり気にならなかったけど、肩がぶつかるくらいの近場に好きな人がいるこの状況で緊張しない方が無理でした。


 「じゃあ、降りよっか」

 「うん」


 30分ほど電車に揺られていた私はりゅー君の言葉を聞いて、ハッと我に戻りました。


 「…うわ〜!すごいね、りゅー君!」

 「ははっ、そうだね」

 「も、もう!笑わないでよ!」


 今日のデート場所は地元最大規模のショッピングモールです。来たことのなかった私は子供のようにはしゃいでしまいました。それが恥ずかしくなった私はりゅー君に非難するような目を向けました。


 「ごめんごめん。はしゃいでるはーちゃんが可愛くて」

 「か、かわっ!?…不意打ちはズルい」

 「ちょ!は、はーちゃん?」


 すると、りゅー君は私に可愛いと言ってきました。私は真っ赤になった顔を隠すためにりゅー君の胸に顔をうずめました。りゅー君は焦っていたようだけど、私をドキドキさせた罰です!気付かないフリをしましょう。


 しばらく大好きなりゅー君の匂いにひたっているとだんだん彼の鼓動が早くなってきました。私は彼も意識して緊張してくれてるんだと嬉しくなりました。


 「…ドキドキしてる」

 「!ご、ごめん」

 「ううん。気にしないで。…私も一緒だから」


 最後の言葉は彼には伝わらないように小声で言いました。いつかは伝えたいけど、まだ早いので、私の心の中にしまっておかなくてはいけません。


 「あっ…」

 「ふふっ、早く行こ!」


 名残惜しいけど、移動するために体を離すとりゅー君は寂しそうな声を漏らしました。彼も私と同じ気持ちだったのが嬉しくて、好きという気持ちを抑えるために微笑みという形で外に追い出しました。それでも、私も寂しいので手だけを握りなおしました。今はまだ普通に握るだけしかできないけど、いつか指を絡めて握れるようになりたいです。


 私たちは食べ物だけの1階を抜け、2階にある服屋さんにやってきました。あまりこういうオシャレな服屋さんに来た私は何が何だか分かりませんでした。それでも、せっかくりゅー君にドキドキしてもらえてるんだから、もっとドキドキしてもらいたいと思った私はある一点に目を留めました。そこは下着売り場です。自分のセンスに自信のない私は彼が見たことないであろうものを選びました。これで私のセンスには気付かれないはずです。私はその中から2つ取り出して、彼に聞いてみました。


 「これかこっち、どっちが似合うと思う?」

 「……な、なんで、下着?」


 私が見せた下着に彼はあまり動揺しているように思えません。…もしかして、誰か別の女性と下着を見るような親密な間柄になっているのでしょうか?焦った私は更に畳み掛けることにしました。


 「なんで、って勝負下着だよ。そろそろ持っといた方がいいかな、って。…あっ!これじゃ分からないよね。試着してくるね」

 「ちょ、ちょっと待って!それは流石に無理だって!」


 ようやく動揺した彼を見ることができました。それに満足した私は少しだけ冷静になりました。……初デートで、彼氏でもない異性に下着を選ばせる私って…もしかして、痴女?


 「し、仕方ないな〜。じゃあ、両方買ってくるね」


 急に恥ずかしくなった私は慌てて戦略的撤退をすることにしました。それから何とか気持ちを落ち着けた私は結局何も買えずに彼の元に戻りました。


 「お待たせ〜!じゃあ、次に行こ?」

 「…今行く」


 …まだまだデートは始まったばかりです。しっかりと気持ちを引き締めた私は近づいてきた彼の手を握りました。なるべく長くこの幸せな時間が続くことを願って。

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