第12話①

 約束の一時間前に集まってしまった俺たちは早めにデートを始めることにした。電車に乗っている間に会話はなかったけど、繋いだ手は離さなかった。そうこうしていると、降りる駅に到着した。


 「じゃあ、降りよっか」

 「うん」


 今日の目的地は大型のショッピングモールだった。6つも階がある地元で有数のそこは、まだ開店したばかりだというのに既に人でごった返していた。


 「…うわ〜!すごいね、りゅー君!」

 「ははっ、そうだね」


 はーちゃんは初めて来たのか、いつも以上にテンションが上がっていた。瞳をキラキラさせて握った手を引っ張る勢いではしゃいでいた。クラスではお淑やかで大和撫子という言葉がピッタリの彼女が、俺にだけ年相応のあどけない表情を見せてくれるのが嬉しかった。


 「も、もう!笑わないでよ!」

 「ごめんごめん。はしゃいでるはーちゃんが可愛くて」

 「か、かわっ!?…不意打ちはズルい」

 「ちょ!は、はーちゃん?」


 そう言ってはーちゃんは俺の胸に頭を擦り付けてきた。動物がマーキングするような行動に可愛いなと思う……余裕は俺にはなかった。一気に近づいてきたはーちゃんに俺の早くなった鼓動が聞こえてしまうんじゃないかと気が気でなかった。漂ってきた甘い香りに意識の大半が持ってかれてしまった。彼女には好きな人がいるんだから、俺のこの気持ちは気付かれちゃいけないのに……。


 「…ドキドキしてる」

 「!ご、ごめん」

 「ううん。気にしないで。……」


 はーちゃんに俺が緊張しているのがバレてしまった。優しい彼女は気にしてないと言ってくれたけど、すぐに俺から離れてしまった。


 「あっ…」

 「ふふっ、早く行こ!」


 急になくなったはーちゃんの温もりが恋しくて俺は無意識に声を漏らしてしまった。すると、彼女は俺の手を引いてくれた。彼女の温もりが戻った嬉しさと、気付かれてしまった気恥ずかしさで無言になった俺は彼女に導かれるままお店に入った。


 1階は食料品売り場になっていて、俺たちは素通りして2階の日用品売り場にやって来た。まずはーちゃんが目を付けたのは服屋さんだった。


 「これかこっち、どっちが似合うと思う?」


 慣れない女性ものの服の売り場で手持ち無沙汰になっていた俺に試練がやってきた。ここでどっちでもいいなんて返事は論外だと理解できる。


 右手に持っているのは、真っ白な生地にピンクのリボンが付いている可愛い系のもので、下の三角形の方も両端にリボンがあしらわれていた。左手の方は反対に真っ黒なセクシーなものだった。こんなのは透けるんじゃないかというほど網目の細かいもので、柄などはないシンプルなものだった。……うん、まじまじ見た後だけど、これはアウトなのでは?


 「……な、なんで、下着?」

 「なんで、って勝負下着だよ。そろそろ持っといた方がいいかな、って。…あっ!これじゃ分からないよね。試着してくるね」

 「ちょ、ちょっと待って!それは流石に無理だって!」

 「し、仕方ないな〜。じゃあ、両方買ってくるね」


 はーちゃんはそう言ってレジに向かっていった。そのとき、耳まで真っ赤になっていたような気がしたけど、気のせいかもしれない。


 ……勝負下着を用意するほどはーちゃんの恋は進んでいるのかもしれない。そう思うと胸の奥がズキンと痛んだ。彼女に協力している俺は喜ばなくちゃいけないのに、心がそれを拒んだ。


 「お待たせ〜!じゃあ、次に行こ?」

 「…今行く」


 …そうだ、今はーちゃんと一緒にいるのは俺なんだ。俺の初恋が叶わなくても今日のデートは楽しまなくちゃ損だ!無理矢理前を向いた俺ははーちゃんの元へ駆け出した。

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