十話 夏休み

 前期が終わった。

 夏休み前のテストが全て終了した私に、待ちに待った夏休みが待っていた。

 大学になると夏休みは7月の後半から9月中旬まである。その間の休み期間といったらあんな事やこんな事が堪能できる期間だ。

 私は何も計画などしていないが、やる事と言ったらアルバイトと家の中でゲームする事くらいだ。

 留年さえしなければいいのだ。私は気長に結果が来るのを待つ事にする。

 さて、早速もう夏休み2日目なわけだが、何をしようか。

 昨日なんてテストが終わった事で楽に感じた私は、アルバイトも入ってなかった為に家で速攻寝た。

 無気力というかとにかく何も用事がないから寝た。

 今日も同じ事してもいいのだが、何かそんな事続けてたら勿体無い気がする。

 

 「暇だし、ゲームでもしよっか」


 ゲームと言っても、私がやるのはオンラインネットワークで行う、パルクールアクションゲームだ。

 実家から持ってきたパソコンを立ち上げると、すぐにパスワードを入力する。

 この学生寮には専用のWi-Fiが設置されている為、気長にパソコンが使用できる。

 インターネット完備も完璧だった。だからすぐにレポートを仕上げないといけないとなっても、こうして簡単に自宅で出来るのだ。

 そしてゲームも出来る。

 こんなライフスタイル、親にバレたらまぁ黙ってないだろうな。でもそんな親の目の届かない所で自分だけの空間を作り、好きなだけ堪能できる。それが一人暮らしのいい所だ。

 

 「えーと。今日のプレイヤーは?っと」


 早速ゲーム画面で本日の対戦相手を発見した。

 数人いる中、私を指名した人が一人いた。


 『aiueo』


 なんだ?この適当なネームは。

 今日の対戦相手はこの人だった。

 今現在お昼1時。昼は大体こんな感じで対戦相手が殆どいない状態だ。夜が大勢のプレイヤーが参加する事が多い。

 本日の『aiueo』さんは私と同じ、学業、仕事もなく休みの人なんだろう。

 

 「レベル50かぁ。まぁまぁ実力がありそうな人だな」


 私は適当に相手を遇らうようにそう言った。私はレベル65であり、このゲームでなん度か流行りのゲーム実況配信者とバトルを行った事もあった。まぁ勝てなかったけど。

 だがその実況者に『センスがいいねぇ』と褒められた事がある。

自分でも上手いのかどうかか分からないが、結果的に国内外問わず何度も対戦を行ってきて勝利数の方が上回っている。


 「よっしゃ、かかってこいや」


 私は趣味で買ったゲーミングチェアに何度か上下にバウンドする。

 特に深い意味はないが、軽いフットワークのようなものだ。

 

 このゲームは、選んだキャラクターにそれぞれ武器が備わっており、重力を自在に操れる為、浮遊したり、壁をよじ登ったりしてアクロバティックな動きをしながら相手を翻弄し、戦闘を繰り広げるゲームだ。

 武器には銃火器や刃物など様々に至る。だだし、選んだキャラクターと武器との相性というのがあり、間違った選択をすると、攻撃力が弱くなったり、アクロバティックな動きを行っても攻撃できなかったりする為、ちゃんと相性を見極めなければならない。


 「はっ!?はっ!?」


 思わず相手キャラの攻防が上手すぎて、暴言を吐きそうになった。

 一つ一つの動きに無駄がない。フェイントも上手い。

 恐らく相当使いこなしてあるキャラクターなんだろう。

 悔しさの余り、パソコンデスクを手の平で叩く。いわゆる台パンってやつだ。

 私が敵に翻弄されながらも、こちらからも相手の動きを見極め反撃する。

 しかし相手の動きがまるで自分の動きを予測しているかのように交わしていく。

 

 「はっ!?ちょっ!」


 そして私は気がつけばゲーム終了画面になって圧倒的な差をつけられ敗北したのを、ゲーム終了の画面になって気がついた。


 「何コイツ!ありえない!朝から嫌だわぁぁぁぁ」


 また台パンをした。

 本当朝からこんな事でイライラして全て嫌になる。

 だからもうパソコンをシャットダウンして、ベッドに仰向けに飛び込んだ。


 「はぁ…………寝よ」


 結局再度寝ることにした。

 しかしあの『aiueo』と呼ばれるプレイヤーは一体誰なんだ?

 レベルの割には相当強かった。まさかプロの人?と疑ったが、負けた事によりどうでもいいと思うようになった。

 そして軽くため息を吐き出して瞼を閉じた。

 

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ミステリアスなみすてり明日奈 森ノ内 原 (前:言羽 ゲン @maeshin

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