ひとりかくれんぼ

 ぬいぐるみ。

 爪。

 米。

 塩水。


 たったそれだけで完成してしまう降霊術。遊び半分で手を出して良いものではない。商業ホラーに成り果てた今でさえも、決して。


 ひた、ひたと足音がする。暗闇の先にはテディベアがあった。フローリングの床を塩水で濡らして、


『かんかんかんかん』『続イてのニューすでス』『テレびヲ見ル時は部ヤを明ルクして画めンかラ離れて──』


 手には少し錆びた包丁が握られていた。指はない。ただ、傍目から見てもその可笑しさは笑えなかった。このぬいぐるみは、然るべき存在を見つけたら、躊躇なくソレを振るうのだろうと思われた。


 フローリングはいつの間にか畳に変わっていた。真緑の床にいくつも染みが生まれる。


「みぃつけた」


 襖を破って、破って、破って。目の前の少女に気付くと、ぬいぐるみの変わらないはずの表情が、ごく自然な笑みになった。



 久しぶりに爪を切った。


 正直、もう何も怖くないつもりだったけれど、こうして襖に隠れていると、足先から徐々に寒気が伝ってくるように感じた。暗いのがただ怖かった。やっぱり。


 どうして私はこんなことを始めたんだろう。自分で自分が分からなくなってきた。別に、今に始まったことじゃないけど。


 子供の頃に買ってもらったぬいぐるみ。あの子を抱かないと眠れなくなったのはいつからだったっけ。ひとりぼっちの夜は寂しくも、冷たくもないけれど、ただ息苦しい──

 

 真っ暗な場所にいると、こんな風になる。色んな言葉が浮かんで、朝になっても残り続けて、夜になると、同じ言葉が別人の顔をして、新しく蓄積されていく。そうやって、心がどんどん狭くなっていくんだ。


 ねえ。あなたにはどう見えた?


 答えを聞いてみようと思ったけど、やめた。多分、私が少し苦しくなるだけだと思ったから。代わりに一つ、お願いをした。


 うん。そうだ。そうだった。道端に咲いている綺麗な花の名前を知ったみたい。私は今まで私が分からなかったけれど、これだけは腑に落ちた。


 やっぱり、私が思うに。


「みぃつけた」


 何だっていい。最期に私は、誰かあなたに見つけて欲しかったのかもしれない。

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