第10話 逆恨み
「お前のせいで俺がとばっちりを受けたんだぞ!」
意訳すると、こんな感じの言葉だった。
食事を終えて使用人は部屋に戻って休息するようブレアから命じられた後の出来事だった。
幸人はウオウに呼び止められた。「呼び止める」と言っても、犬人語で半分強引に押さえつけられて「ちょっと面貸せよ」みたいな感じで連れ出された形だ。
「この傷を見ろよ。俺はあれから鞭打ちに火責めだ」
ウオウは毛が焼け焦げて表面の皮膚が爛れた生々しい傷を見せる。
スカーレットの怒りをほぼ一身に浴びたウオウは、しかしそのフラストレーションを絶対者である主様に向けるわけにもいかなくて、弱者である幸人に八つ当たりしに来たのだ。
だが、ウオウも被害者ではある。実際に罰せられるのは幸人だったのだ。スカーレットは自分の稿をしっかりと履行したかったのか、匹換算できない幸人を除外した。
仕事が不出来なのは幸人の方。それは誰の目からも明らかだった。
「お前にも同じ…いやそれ以上の苦痛がないと釣り合わねえよな?」
「う、く」
背丈が低く力も矮小な幸人は、この世界では弱者の部類に入るウオウにすら片手で喉を締め上げられる。抵抗するも毛皮に阻まれた腕は、必死に叩いたり、引っ掻いたりしてもびくともしない。
だんだんと脳に血が回らなくなってぼやっとしてきて…意識が薄れる。
「…っと、おとしちゃまずいよな。お前には苦しんで貰わねえと」
「ゲホ…!ゲホ…!」
気絶する寸前にぱっと手を離された。
「…僕が悪かった。だから、もうやめてよ」
「ん、聞こえねーな。まあ、人間の言葉なんざ聞こえてもわからねーが」
ウオウはスカーレットがドモンにしたたように、腹部を思い切り蹴り上げる。
頭が真っ白になった。呼吸が出来ないほど痛かった。獣人と人間の身体能力の差もあるが、ウオウは魔力を込めていた。簡易な魔術。孤児院で迫害されていた頃に獣亜人種の奴らから何度も実験の的にされた記憶を思い出す。
「傷は…見られるとこにつけると厄介だな」
ウオウは動かなくなった幸人を転がす。そしてどこならバレずに鬱憤を晴らせるかを模索する。
「背中なら見えないだろう。…チクるんじゃねーぞ人間」
「…ぅあああ!」
流石に支給された服に爪を立てるわけにはいかなかったウオウは幸人の上着を脱がせると、直接皮膚に爪を立てた。
(熱い…!痛い…!)
ウオウの爪は容易に人間である幸人の皮膚を切り裂き、肉を抉った。
ぼたぼたと血が流れる。背骨まで届くんじゃないかってくらい深く爪を立てられた。
「こんぐらいで許してやるよ。ほら立て」
酸欠に背中に三本線の傷跡。幸人はあまりの激痛に意識を手放すことを選んだ。
それからの記憶はない。
「…痛」
気が付けば幸人は割り振られた部屋の地面で寝ていた。
背中に残る痛みで目を覚ましたようだ。今は何時かわからない。
もしかしたら陽の刻になってるかもと、カーテンを開けて窓から外を見るがまだ暗く月が出ている。思いのほか早く目覚めたらしい。
「…幸人。スカーレット様がお呼びです」
痛みが尾を引いている中、扉がノックされる。
声の主はブレアだった。
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