第7話 嗜虐姫の使用人

 幸人たち新たな使用人候補七名はスカーレットの屋敷で雇用されることとなった。馬車に揺られること体感にして三、四時間ほど。到着したのは森林の中に聳え立つ巨大な建造物。童話でしか見ないような―西洋風の城だった。

 円形の中庭には噴水があり、植物も手入れが行き届いている。その庭の中には他の場所から移植してきたであろう、割と博識な幸人ですら知らない花が咲いている。


「供回りはスカーレット様のお着替えを―使用人は待機所で指示通りに―」


 テキパキと文を担当するブレアが指揮を執る。ちなみに武のユビレアはここには居ない。

 『火燕』の本拠地はリンジャ国王都にあり、武のユビレア率いる旅団とその候補(レイクなど戦場で活躍できそうな奴隷)は別れてそちらに向かった。


「そして候補は私について来てください。これから屋敷での生活を教えます」


 幸人たちはそう言われて先行するブレアの後ろを追って屋敷の中に入った。


「すっげ」

「うお」

 

 犬人種や猫人種の感嘆する鳴き声が屋敷に小さく木霊した。

 それもそのはず。屋敷は今まで生活していた孤児院より遥かに設備が整っていた。

 廊下には火のランプが灯され、地面にはマットが敷いてある。階段から二階には沢山の部屋があり、正しく貴族、王族の生活圏と言った具合。


「…見惚れるのは結構ですが、時間がないので」

「は、はい」


 ブレアに連れてこられたのは衣装室だった。今にして気づけば幸人たちは薄汚いボロ布を纏っているだけ。屋敷の使用人としては相応しくない格好だ。


「サイズ合わせをしますので、その場に立っていてください」

  

 ブレアがそう言った次の瞬間だった。

 魔力が流れる感覚―魔術が行使される。


「―っと、魔術名を先に言うのが常識でしたね」


 皆、慣れない感覚に虚を突かれて怯えていた。

 そんな周囲の反応を見て、ブレアは「こちらの不手際です」と頭を下げた。


「第四干渉魔術―メトリ―」


 干渉魔術。魔術の授業に参加していなかった幸人は何となく「魔力で触診するのかな?」と楽観的に捉えていたが、他の候補たちは違う。


「四だって…」

「まじか」


 魔術の階級を表す数字がある。十段階評価で例外は幾つかあるが、基本的に数字が低ければ低いほど高難易度という扱いだ。

 孤児院で暮らす子供が教習課程を終えて扱えるようになる魔術は最も使用し易い第十段階。

 高い魔力生成器官をもつ竜人種のレイクで六段階の魔術を数回に一階成功させるのでやっとだった。

 白い髪にヤギのように捻れた角を額から覗かせるメイドーブレアは涼し気に高難易度の魔術を行使すると、全員分の使用人服を持ってきた。


「大きさは合っているので心配なさらず。あと獣亜人種の方々はなるべく毛を剃ってください、仕事に支障が出るので」


 ブレアは何人かの体毛が多い獣亜人種の奴隷を見て言った。


「これから各自に割り振られた使用部屋で着替えてきてください。そのあとは会食になります。偉大なるスカーレット様のご厚意ですので感謝するよう」


 スカーレットの庇護を受けた証―火色の瞳で新たに「使用人となった」七名を見た。


 (この人、スカーレット様に負けず劣らず怖い)

 

 強さで圧倒した武のユビレアとはまた違った恐怖を幸人は感じたのだった。

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