第4話 オークション 1

 幸人は服を脱いで裸になって礼拝堂の入り口に立った。

 ここがオークションの会場となる。入り口の前にはスカーレットの使用人が数名立っていた。

 幸人と同じ境遇の孤児からか、はたまた奴隷から召し抱えられたのか、貴族の傍流家系が付く役職の使用人にしては貧しい印象。獣亜人種の中でも蔑まれる雑種系(見た目ではっきりとした先祖がわからない、もしくは複数の種と混じった痕跡がある)の青年と子女たちだ。

 嗜虐姫の異名は確かなようで、うち数名には鞭で打ったような痣がある。中には炎で焼かれたのか毛が縮れているものも。

 幸人は生々しい拷問の跡を見て、一層恐怖した。

 

「一番から順に並べ」


 そんな彼らも孤児に対しては強気に出られるようで、スカーレットの前ではビクビクと肩を震わせていた癖に今では偉そうな口調。服を脱いで首元に番号が書かれた名札を下げている幸人たち孤児に一列に並ぶように命令した。


「ん?おい貴様」


 使用人の筆頭なのか、他の使用人よりも身なりがよくて、純潔種の証明である一色の毛色を持つ犬人種の青年が幸人を見て声を上げた。と同時に魔力が繋がれる。


「貴様。もしか人間種か?」

「は、はい…」

「―オスか」

 

 視線を下に向けた青年は淡々と呟く。

 幸人は羞恥心で死にたくなった。


「珍しいな。出自はどこか聞いているか?」

「き、聞いてません」

「…そうか」


 青年は少しだけ残念そうに言った。

 人間種はもう局所的にしか存続していない。リンジャ国では人間種の市民は記録上、五十年は存在していないことになっている。

 おまけにオス。前世の記憶を持つ幸人からすれば信じられない事実だが、人間のオスー男性は限りなく少ない。女性は繁殖能力が高く、また血も強い。世界の多くに様々な種の(詳細に分類すれば数万種はいるとされる)「亜人」がいる理由だ。人間の女性は亜人が主権を握る国家で巫女様として崇められている場合すらある。もっとも、これは特殊な例でやはり人間は種的には最下層にあるとされている。


「…他は、む。そこの全裸蜥蜴」

「俺は竜人種だ。口には気をつけろ犬っころ」

「―こいつも希少だ。しかも上位種」


 竜人種は人間の血が混ざっているのに、唯一「亜人」の区分から逃れられている。

 それは古竜人種の存在があるからだ。古竜人種は他の亜人種よりも遥か昔に人間の血を受け継いだという。その人間も今のような最下層の弱者ではなく、勇者など御伽噺の世界の住人の―竜すら凌ぐ人間だ。

 勇者は種的には人間だが、宗教的な理由で「聖人」と呼ばれる特殊な区分に分けられる。

 余談だが、聖人は最上位種の頂点。竜人は最上位種の最下層に位置する。


「他は雑種ばかりだな。とは言え、今回は『火燕』の迷宮攻略を視野に入れた人員補給の一環だ。やわでなければ召し抱えられるだろう。今のうちに俺たち先輩に媚を売っておくんだな」


 青年はそう言うと獣亜人種特有の「鳴き声」で威圧する。

 迷宮という言葉を聞いて幸人の胸が躍った。憧れの冒険者、世界を探求する幸人の夢がすぐそこにあったからだ。


「―イン。スカーレット様の準備が整いました。商品を中に通すように」


 古く重苦しい扉が開く。スカーレットの隣にいたメイドー文のブレアが出てくる。

 そして使用人のリーダーらしき青年に告げた。


「ブレア様!かしこまりました!」


 イン、と呼ばれた犬亜人種の青年は九十度のお辞儀をすると、幸人たちにこい言う意味を込めて鼻を鳴らしたのだった。

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