第3話 歓待式


 朝。陽六の刻。

 

 幸人は孤児院の鐘の音を聞いて目を覚ました。起きて体を起こすと汗でびっしょりとシーツが濡れていた。昨晩は悪夢に魘されてたからか、今でも心臓がバクバクと音を立てている。

 異種族が暮らすこの孤児院では朝の習わしも異なる。獣亜人種ならば朝の毛づくろい。鱗亜人種なら鱗磨き。…蛙人種などは胃の洗浄があるらしい。

 幸人は洗面所で歯を磨いて顔を洗うと、皆より一足早く食堂についた。


「今日はリンジャ稲のお粥か。質素だな」


 リンジャ稲は日本で育ったコメと似ているが、品種改良という技術が伝達されていない為、味の質は劣る。お粥も牛の乳を混ぜた手抜き感満載のものだし、あと牛も…乳牛用じゃないから、うん。


「よう。相変わらず、顔色悪いね」

「いやいやニンゲンってどいつもそんなもんでしょ?」

「見たことないからわかんないニャー」


 猫人種が短く鳴きながら、幸人を皮肉る。

 ストレートな犬に対して猫はねちっこい。幸人は彼らを無視して黙々と食事を続けた。



 陽八の刻。


 大量の馬を引き連れた給仕が孤児院の前にやってきた。旗には赤の布が使われていて精霊を示す紋様。

 火の大精霊スカーレットが率いていると噂される冒険者ギルド『火燕』だ。


「私はスカーレット様が側近。武のユビレアだ」

「私はスカーレット様が側近。文のブレア」


 双子らしき羊の獣亜人種が下馬する。片方の武を名乗るユビレアは羊人種特有のもこもこした毛がなく、代わりに歪な羊角が爛々と輝いている。魔力を大量に取り込んだ、獣亜人種の中でも強者の証「伏魔」だ。難易度が七十を超える魔獣、有毒大蠍スコーピオルの外皮を加工した鎧を纏っていることからも強さが伺える。

 もう片方の文を名乗るブレアは所謂メイド服に身を包んでいた。角は控えめ。こっちも毛が生えていない。まるで幸人と同じ人間のようであった。


「…ユビレア、ブレア。下がりなさい、私が話をするわ」


 平服する孤児院の子供たちと事務員たち一堂に火が苛烈に燃え盛るような声が聞こえた。

 幸人は遠目でその顔を見た。スカーレットは幸人の視線に気がついたのかこちらに振り返った。美人だ。赤から褐色のグラデーションがかった髪。精霊なのにその姿は人間のようで…それこそが大精霊の証だった。

 国王が羽織るようなローブを纏ったスカーレットは大量の給仕や供回りを連れて、マイアンの前にたった。


「こ、これは…尊き火の神よ…!」

「あーそんな前置きどうでもいいから。早く奴隷を見せなさい。気に入ったのいたら連れてくから」


 スカーレットは値踏みするように子供たちをみた。嫌味な犬人種も猫人種も毛が縮みあがっている。あのレイクですら冷や汗を流していた。

 

「はっ!では一様に並べますので。お定めを」

「早くしなさいよね。遅かったらこの寺院焼き尽くすから」


 スカーレットは手のひらに爆炎を生み出した。それを見たマイアンは恐怖に顔を引きつらせながら急いで準備に取り掛かる。

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