第1話 明日はオークション
リンジャ国 アーズム孤児院
幸人が生まれ育った孤児院は慈善活動の場ではなく、人身売買オークションで売り払われる商品を育てて管理するマーケットであった。幸人もその一人だ。
孤児院には種族関係なく様々な子供がいる。多くは
「おい、あれが噂の
「なんか肌白いけど、もう死ぬんじゃない…?」
「いやいや、そう言われてっけど何年もいるぜ」
「たしか
「え、じゃあ会話とかどうすんのさ」
「こっちから回路繋いでやんないと無理だってさ」
「うわー…」
獣亜人種は独自の鳴き声を駆使した言語で幸人を嘲笑う。当然、これらの会話を拾う術を幸人は持ち合わせていない。多言語化するこの世界では魔力を介しての会話が異種族間では一般的だが、幸人はその魔力を欠片たりとも持っていなかった。それは孤児院に来てすぐの身体検査でわかりきっている。ついでに病弱(病に対する耐性が極端に低く、基礎身体能力も下がる)という生まれ持った体質も。
「くそ。あの犬畜生共、僕を笑ってた」
もっとも幸人は異種族、特に獣亜人種と長く生活を共にしているおかげか彼らの言葉をなんとなくは理解できるようになっていた。あいつらは文字通り鼻で笑う、それが幸人の体験談だった。
「…まあ、いいさ」
幸人は
この地図―リンジャ国にある砦や街を記した紙は顔すら覚えていない両親の形見だった。幸人が孤児院に引き取られる前に持っていたものらしく、個人資産として認められている。
(広大な世界…いつか、ここを抜け出して僕は冒険者になるんだ!)
そうして冒険記を書く。幸人は自分がそうであったように、冒険記を通して人に夢を与えたいと思っていた。その為には勉強をしなければならない。
孤児院では基礎的な科目(商業、兵役、農業、魔術)しか教わらない。魔力のない幸人は魔術授業を受けられないので、その時間は植物や動物が記載された迷宮攻略記録を見て勉強しているのだが、これがまた難しい!まず言語がバラバラ!しかも会話文と筆記文で異なる文法を用いる言語が多々あるのだから…
「よう、人間」
幸人が庭先で孤児院の図書館から借りてきた迷宮攻略記録を見ていると、急に回路がつなげられた。魔力がぶあっと流れてくる感覚。
「…あ、れれれいく」
「ばあさんが呼んでるぜ。たぶん明日のオークションの件だろうよ」
明日はオークションの日だ。この孤児院内で開催されるオークションは一年に一回。年齢が満十歳を超えた子供が対象となる。幸人は今年で十歳だった。
「テメエはどうせ売れ残って処分だろーけど、ま、せいぜいがんばんな」
人間種。これまた一人だけだけど、歴代最悪のハズレ。しかも数百人に一人のデバフ持ち。
…僕は明日には処分されるかも。
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