最終話 妬みのGの犯人?

 武術研究会の合宿は最終日を迎えたが、あれから、『妬みのG』が現れる夜は一度もなかった。

 込山さんの提案で、母屋の客間にも俺と彩矢を中心に、込山さんたちいつものメンバーと一夜を過ごしたりもしたが、奴が現れることはなかった。

 もう、大丈夫だろう。


 俺と遠崎は、皆の荷物を車に積み込む。


 「「「「「お世話になりました」」」」」


 彩矢、武岡さん、早紀さん、込山さん、美紀先輩は、姉貴と美夏に別れの挨拶をしていた。


 「また、いつでも来るといい。私も美夏も歓迎する。次回は祖父母と父母も紹介できることだろう」


 「そうだよ。それに、お兄ちゃんは、今回のように誰かが連れてこないと戻ってこないから」


 苦笑しながら、皆は俺に視線を向ける。


 「……」


 美夏の奴、言いたい放題言いやがって……。だが、否定できないのが悔しい。


 荷物を積み込み終えると、皆は車に乗り込んでいく。

 俺と遠崎も、姉貴と美夏に別れを告げると、車に乗り込んだ。

 そして、美紀先輩が運転する車が走りだすと、二人はいつまでも手を振って、見送っていた。


 

 ◇◇◇◇◇



 実家から戻った俺は、残りの夏休みを彩矢とのデートや遠崎たちと遊ぶことなどに費やしていた。

 去年とは違う楽しく充実した日々は、あっという間に過ぎていく。

 そして、新学期を目前に控え、夏休みが終わることを惜しんでいると、込山さんから連絡が入った。

 俺、彩矢、武岡さん、早紀さん、美紀先輩は彼女に呼ばれ、大学のそばのファミレスに集まることとなった。


 俺と彩矢は、一緒にファミレスへ向かうと、すでに、遠崎と武岡さんが待っていた。

 俺たちは、手を振る二人の元へ行き、席に座る。


 「新学期が始まっちゃうね」


 そんな彩矢が切り出した話題に、四人で会話をしていると、早紀さんと美紀先輩も合流した。


 「集合を掛けた込山さんが、一番遅いって……」


 俺の愚痴に、皆は苦笑する。


 待ち合わせの時刻から三〇分が過ぎた。

 やっと、込山さんが姿を現す。


 「「「「しおりん、遅い!」」」」


 「いやー、ごめんなさい。アハハハハ」


 女性陣の文句を、彼女は笑って誤魔化すと、席に座った。


 「それで、何のために皆を集めたの?」


 武岡さんが、込山さんに尋ねる。


 「実は、『妬みのG』のことで、耳寄りな情報を入手しまして、皆に報せようと集まってもらいました」


 得意げな笑みを浮かべる込山さん。

 俺たちは少し顔を強張らせながら、彼女に注目する。


 「と、その前に、先に注文をしちゃいますね」


 この子は、こういう子だった……。

 メニューを広げると、真剣な表情で悩んでいる彼女を見つめる俺たちは、そのまま頭を抱えるのだった。




 ケーキを食べ終えて、アイスティーをすすった込山さんは、俺たちの顔を順に見ていく。

 ずっと待たされていた俺たちは、少しイラッとしていた。


 「コホン。では、話しますね」


 俺たちの表情に気付いた彼女は、少し気まずそうに苦笑しながら切り出す。


 「まず、『妬みのG』を仕掛けた犯人は、察しがついていると思いますが、花園と寄居で間違いないと思われます」


 美紀先輩以外の皆は、同意するようにコクリと頷いた。

 『妬みのG』のあんな捨て台詞を耳にすれば、さすがに気付く。

 二人とは面識のない美紀先輩に、早紀さんが説明を始める。

 込山さんと俺たちは、その話しが終わるのを待った。


 早紀さんの説明が終わると、込山さんは、「コホン」と咳ばらいをして、皆の視線を集める。


 「花園と寄居が犯人だと分かっても、証拠がありませんでした」


 俺たちは頷く。


 「しかし、合宿から帰った後、色々と情報を集めたところ、二人が犯人である証拠となりえそうな情報を入手しました」


 パチパチパチパチ――。


 ドヤ顔を見せる込山さんに、俺たちは拍手を贈った。


 「それで、その証拠って?」


 武岡さんさんが尋ねると、込山さんはフッと笑みを浮かべる。


 「私が入手した情報では、合宿で『妬みのG』が退治された後、花園と寄居の二人が意識不明になり、病院へ運ばれたそうです」


 「「「「「……?」」」」」


 俺たちは、理解できていなかった。


 「ピンと来ていないらしいですね」


 彼女に、俺たちはコクコクと頷く。


 「『妬みのG』は呪術です。その向けられた呪いが防がれるなりして、無効にされたらどうなりますか?」


 彩矢以外は首を傾げる。


 「彩矢ちゃんは、分かったみたいですね」


 「うん。呪詛返しになったんだ」


 「その通りです!」


 彩矢を指差す込山さん。


 「呪詛返し。すなわち、こちらを呪っていた本人たちに、呪いが返されたんですよ」


 「「「「「な、なるほど……」」」」」


 俺たちは納得はしたが、まだ理解したとは言えない状態だった。


 「私が調べたところ、『妬みのG』は失敗すると、原因不明の高熱を発して、昏睡状態が続いたりするらしいんです」


 俺たちは、彼女の話しに合わせるように相槌を打つ。


 「花園と寄居が意識不明になったのは、どうやら高熱によるものらしいんです」


 「「「「「なるほど」」」」」


 俺たちはスッキリした表情を浮かべた。


 「それで、二人は今、どうなってるの?」


 早紀さんが尋ねた。


 「えーと……」


 込山さんは手帳を取り出すと、数ページかをめくって、確認をする。


 「たまに意識を取り戻しては、再び昏睡するような状態を繰り返しているようです」


 「そうなんだ」


 早紀さんは頷く。


 「「「自業自得!」」」


 そして、彩矢、武岡さん、美紀先輩は声を揃えた。


 「まあ、病院のベッドに寝た切りの入院生活は、しばらく続きそうです」


 「そうなの?」


 武岡さんが首を傾げた。


 「呪詛返しって怖いんだよ。掛けた呪いが何倍にもなって返ってくるんだから」


 「「「「「……」」」」」


 ニッコリと微笑みながら答える彩矢を見て、俺たちは恐怖した。

 なんで、そんな朗らかに答えるかな……。


 俺たちは、その後も話しを続ける。

 そして、途中からは、込山さんと彩矢の呪い談義の独壇場となっていったのだった。



 ◇◇◇◇◇



 新学期が始まった。

 大学の教室に入ると、俺と彩矢は、『妬みのG』の噂を聞きつけた者たちによって、取り囲まれてしまう。

 半分は野次馬だったが、俺のことを心配してくれている人も多かった。

 嬉しくも照れ臭い。


 チャイムが鳴ると、俺たちに群がっていた群衆は散って行く。

 やっとの思いで席に着くと、俺たちと同じ目に遭ったのか、武岡さんと遠崎が机に突っ伏し、疲れ切っていた。

 二人はこちらを振り向く。


 「いいとばっちりよ」

 「いいとばっちりだよ」


 「「ごめん」」


 俺と彩矢は気まずそうに謝るのだった。




 昼休みになると、込山さんと早紀さんが合流した。


 「いやー、花園と寄居は、悪者として認知されてしまいましたね」


 俺たちは、何だかホクホク顔に見える込山さんを見つめて、苦笑する。


 「込山さん。なんか、皆が知っていたんだけど」


 俺が見つめると、彼女の目が泳ぎだす。


 「えーと、稼がせてもらいました。ありがとうございます」


 「「「「「……」」」」」


 頭を下げる彼女に、俺たちは頭を抱えた。

 やっぱり、犯人はこいつか……。


 学食で、俺たち六人は昼食を取る。

 周りの視線が集まっていて、食べづらい。


 「ところで、花園と寄居は来てるの?」


 注目されていることが気にならないのか、早紀さんが話しを切り出した。

 二人を見かけた記憶の無い俺は、首を横に振る。


 「二人の家族から、休学届けが出されたらしいですよ」


 「「「「「!!!」」」」」


 込山さんの言葉に、俺たちは驚いた。


 「お医者さんでも、いつ完治するか見通しがつかないらしいですよ」


 「まあ、ここまで広まってしまうと、治っても出てこれなさそうだけどね」


 早紀さんは、周りに目を向ける。


 「「「「「確かしに……」」」」」


 被害者の俺たちですら、この状況は居づらいからな……。

 食事を終えると、俺たちは気まずそうに学食を後にするのだった。



 ◇◇◇◇◇



 あれから半年ほどが過ぎ、花園と寄居の留年が決まったことを耳にした。

 彼らは退院できたらしいが、自宅療養ということだ。

 それが本当なのか、大学に来づらいからなのかは、俺には分からない。

 今では『妬みのG』の話しも下火になってしまっている。

 そして、『妬みのG』を行った者は、長い入院生活をすることになってしまうという事実が周知され、真似たり興味を持つ者もいなくなっていた。


 俺は彩矢との交際も、遠崎たちとの関係も良好だ。

 ただ、いまだに『妬みのG』の体験がトラウマになっているのか、大きめの虫が少し苦手となってしまった。

 彩矢、遠崎、武岡さん、早紀さん、込山さんも俺と同じく、大きめの虫に対して敏感気味だ。 

 そのメンバーでの旅行の時は、虫が現れると大騒ぎだ。

 それも旅行が終わると笑い話で済むのだが、虫を見ても気にならなくなるのは、もう少し後になることだろう。


                       ―― FIN ――

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妬みのG とらむらさき @toramurasaki

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