第42話 退治?

 美夏がGの死骸を箒で掃いてまとめていた。

 他の各グループも殺虫剤でGを退治していく。

 そして、死骸の掃除を始めだす。


 「山の中だと、こんなにGが出るんだね。知らなかった」


 「「「そんなことはない!」」」


 驚く彩矢に、俺と姉貴、美夏は声を揃えて否定した。


 「そうなの?」


 「出るには出るけど、こんなにまとまって出るなんて、異常だから」


 俺の言葉に、姉貴と美夏は大きく頷く。


 「今年は異常発生?」


 「『妬みのG』の仕業に決まってるじゃないですか!」


 首を傾げる彩矢に、込山さんが呆れるようにツッコんだ。


 「でも、お化けのGは現れていないよ」


 「「「「「そう言えば……」」」」」


 『妬みのG』を体験していた俺たちメンバーは、彩矢を見て青ざめた。


 「師範! まだ照明が点きません」


 男性会員がスイッチの前から姉貴に報告をしてくる。

 本物のGを退治しただけで、まだ何も終わってはいない。

 大量発生したGのせいで、そのGたちを退治すれば解決すると、誘導されたように思い込んでいた。

 そのことに気付かされた俺たちは、身震いをする。


 「まだ、これからが本番ということか?」


 尋ねてくる姉貴に、俺たちは大きく。


 「本番はこれからだ! まだ、警戒を解くな!」


 姉貴の掛け声で、道場内は緊張感に包まれて行った。




 皆は周囲を警戒しながら、自然と、死骸を掃除する者、奴を見つけるために集中している者に別れていた。

 俺たちの中では、美夏と美紀先輩が掃除をしていて、他の者は周囲に気を張っている。


 バサササササ。


 来た! 羽音は近い距離で聞こえた気がする。

 俺は暗闇の中、外から差し込むわずかな光を頼りに、音のした方向へ目を向けた。


 バサササササ。


 羽音は視線の先から聞こえてくるのだが、目視は出来ない。


 「ヒィッ! い、いました」


 込山さんが悲鳴と共に見つけたことを報告する。


 「「「「「どこに?」」」」」


 俺たちは見つけられず、奴を刺激しないように小声で尋ねた。


 「上です」


 視線を上にずらす。


 「うげっ!」


 奴の姿を確認した俺は、思わず呻いた。


 「なんか、前よりもデカくないか?」


 以前の通常サイズとは違い、小鳥よりも大きい。

 その姿を目にした武術研究会の皆からは、男女問わずに悲鳴や呻き声が上がったが、彩矢たちは、その大きさに恐怖し、悲鳴すら上げられないでいた。


 「臆すな! 的が大きければ狙いやすい。好都合だ!」


 姉貴の喝で、恐怖心が和らいだ。


 美夏が、彩矢に弓と破魔矢を渡す。

 なるほど。あんなに大きな的なら、射落とせばいいのか。


 「あれを凝視するのが嫌なんだけど……」


 泣き言をいう彩矢。


 「彩矢、頼む」


 「でも……」


 俺が頼んでも、彩矢は渋っている。


 「彩矢お姉ちゃん。腕の見せ所、いや、嫁の見せ所だよ」


 「うーん。そういうことなら」


 何故、訳の分からないことを言い出した美夏には納得するんだ……。


 キリキリキリ。


 呼吸を整えた彩矢は、弓を引き絞る。


 ヒュン。


 そして、矢が放たれた。


 バサッ。


 奴は、その矢を寸前でかわすと、その場をユラユラとおちょくるように飛ぶ。


 「なんか、バカにされてますね」


 込山さんの言葉で、恐怖心よりも怒りが込み上げてくる。


 キリキリキリ。


 彩矢が二射目に入った。

 おちょくられたのが、頭にきたのだろう。

 奴に狙いを定める彼女の顔は、真剣過ぎて怖いくらいだ。


 ヒュン。


 再び、矢が放たれる。

 またしても、矢はかわされてしまった。


 「ヒャヒャヒャヒャヒャ」


 「「「「「ヒィッ!!!」」」」」

 「「「「「キャァァァー!!!」」」」」

 「「「「「いやぁぁぁー!!!」」」」」


 奴から気味の悪い笑い声が聞こえると、道場内には悲鳴や叫び声が轟く。

 そして、恐怖のあまり、布団にくるまる者があちらこちらに見受けられた。

 笑い出すなんて反則だ!

 俺は全身に広がる鳥肌と寒気を堪えるように、腕をこすって温める。


 「うろたえることはない! これで、Gの姿をしているだけで、奴の中身が人であることがはっきりしたんだ。恐れることはない!」


 姉貴は皆を鼓舞しながら、奴の前に立ちはだかると、鞘から抜かれた御神刀を構えた。

 この状況を、冷静にとらえられる姉貴の神経の図太さのほうが、よほど怖い。そして、心強い。

 奴は、立ちはだかる姉貴を小馬鹿にしているのか、彼女の前で八の字を描くように飛行した。

 姉貴が激怒していると、その後ろ姿を見ているだけでも分かる。


 「きぃえぇぇぇー!」


 耳をつんざくような掛け声をあげながら、姉貴は奴に斬りかかった。


 ビクッ。


 その掛け声に驚いたのか、奴の動きが一瞬鈍る。


 シュン、ズサ。


 姉貴の閃光のような斬撃に、奴の身体はお腹の辺りで真っ二つにされ、その分断された上部と下部が青白い炎を上げた。


 「ギィヤァァァー!!!」


 そして、断末魔のようなかなぎり声が轟く。

 退治できたのか!? 

 俺はGのしぶとさを頭の片隅に留めながら、半信半疑の希望を抱いた。

 奴の分断された身体は、手品で燃やされた紙のように灰すら残さず、青白い炎と共に消えてしまう。


 「「「「「やったー!!!」」」」」

 「「「「「やっしゃー!!!」」」」」


 歓喜の声が道場内を埋め尽くす。

 俺は安堵と喜びから彩矢と抱き合った。

 遠崎と武岡さんも抱き合い、込山さん、早紀さん、美紀先輩の三人も抱き合っている。


 パッ。チカチカ、パッ。


 道場内の照明が点きだす。

 終わったんだ。

 俺がその場にへたり込むと、彩矢は寄り添うように座り、遠崎たちが集まってくる。

 そして、輪になって座ると、『妬みのG』の退治ができたことを喜ぶのだった。




 姉貴と美夏も俺たちのもとへ来て、座った。


 パッ、パパッ。


 二人が座るのと同時に、照明が点滅を始め、消える。


 道場内は、再び薄暗くなった。

 退治できたんじゃないのか?

 俺が不安を抱くと、皆も不安そうに辺りを見回していた。

 俺たちは、ゆっくりと立ちあがる。

 そして、周りを警戒した。


 バサッ、バサササササ。


 あのおぞましい羽音が、上空で響く。

 安堵したばかりのせいか、全身に痛みを感じるような寒気と恐怖が襲ってくる。


 バサバサバサ。


 別の方向からも羽音が聞こえた。

 また、一匹じゃないのか?

 俺の不安が増す。


 バサササササ。


 「おのれぇー!」


 「「「「「キャァァァー!!!」」」」」


 奴が呻くような声を発しながら、俺たちに向かってくると、彩矢たちから悲鳴が上がった。

 奴を避けるように、俺たちは屈んだ。


 バサバサバサ。


 「おんなぁー、おんなぁー!」


 「「「「「いやぁぁぁー!!!」」」」」


 別の方向からは、変態のようなことを叫びながら、もう一匹のGが武術研究会の女性会員たちに向かって行くと、彼女たちの悲鳴が上がる。


 「こ、これだと、『妬みのG』じゃなくて、『色欲のG』ですね」


 真っ青な顔をした込山さんが、恐怖を紛らわすためか、軽口をたたく。

 すると、彩矢たちも青ざめた顔で、彼女に向かって頷いた。


 「落ち着け! 今度こそ倒せばいいだけだ!」


 姉貴が喝を入れると、皆は落ち着きを取り戻す。


 バサバサバサ。バサササササ。


 薄暗い中、上空に目を凝らすと、姉貴に倒されたGと同じサイズの奴が二匹飛び回っている。

 真っ二つにされて、二匹になったんじゃないだろうな?

 上空を我が物顔で飛び回る二匹を斬ったら、倍に増えるのではないだろうかと、嫌な憶測が浮かんでくる。

 俺は頭を振り、余計なことを考えないようにした。

 そして、奴らの動きを観察する。

 女性会員たちに狙いを定めていたほうのGが、再び彼女たちに向かって行った。


 バサバサバサ。


 「「「「「キャァァァー!!!」」」」」


 彼女たちの悲鳴が上がる。

 すると、誰かが奴と彼女たちの間に割って入った。

 笹島だ。

 彼は、空手の構えを取ると、向かってくるGを睨みつける。


 ビクッ。


 バサササササ。


 笹島を怖がるように、反転するG。

 ん? 笹島が怖いのか?

 その後も女性会員たちを狙おうとするが、笹島が立ちはだかると、逃げ出す。

 やっぱり、笹島が怖いんだ。


 キリキリキリ。


 隣から弓を絞る音が聞こえ、振り向くと、彩矢が笹島を警戒するように飛ぶGに狙いを定めていた。


 シュン。ズシュッ。


 彩矢の放った矢は、Gの頭に突き刺さる。


 「ギィヤァァァー!!!」


 断末魔が道場内に轟き、奴は青白い炎に焼かれながら床に落ちると、その姿はなくなり、矢だけが残された。


 パチパチパチパチ――。


 彩矢に向かって、武岡さんたちが拍手を贈る。

 すると、彩矢は照れていた。


 バサッ、バサササササ。


 まだ、もう一匹いたんだった。

 こちらの上空を飛ぶGが近付くと、姉貴が御神刀を構え、いつでも斬りかかれる体勢をとる。


 「おのれ、おのれぇー! よくも相棒を!」


 憤慨の言葉を吐きながら飛んでいることから、一匹は倒したと判断できた。

 その確証に喜んでいると、奴と目が合った気がした。


 「女が出来たからって、調子に乗るなー!」


 すると、奴はどこかで聞いたようなセリフを吐きながら、俺に向かってくる。


 「お兄ちゃん!」


 美夏は叫びながら、携帯していた御神刀を俺に投げた。


 パシッ。


 受け取った俺は、すぐに鞘から刀を抜く。


 バサバサバサ。


 奴が加速してくる。


 「お前がリア充なんて、許さん!」


 そして、妬みの言葉を吐きながら飛び込んで来た。


 「うるさい!」


 俺は、周囲に注意を払いながら、刀を振りぬく。


 シュン。


 「ギィヤァァァー! お、お前なんかに……」


 奴は頭から真っ二つになると、青白い炎に包まれる。

 その後、跡形もなく消えてしまった。

 今度こそ、退治できた気がする。

 刀を鞘に納め、その場に座り込むと、彩矢が俺の傍らに座った。


 ナデナデナデ。


 彼女は俺の頭を、何度も撫でまくる。

 その心地良さを満喫していると、生暖かい視線に気付いた。

 皆からの視線に、顔が熱くなってくる。

 は、恥ずかしい……。




 窓からは陽が差し込んできていた。

 皆は、バタバタと布団に倒れていき、動かなくなる。

 そして、限界を迎えた俺も布団に倒れ込むと、そのまま眠りに落ちていくのだった。

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