♯3 語る会

絵のない絵本。

デンマークの作家、ハンス・クリスチャン・アンデルセンの作品だ。

屋根裏部屋で暮らす貧しい画家は、夜に訪れる月の語る話によって寂しさを慰められていた。その話を画家が書きとめたという設定で、33夜にわたる短い物語を描いた。



ー ベアン講演会場 ー


ここで、1つの丸椅子に座りチャービルは話している。今日は朗読会でもセラピーの仕事でもない。好きな「本」について、語る仕事だ。通称「チャービルの語る会」だ。

今回はアンデルセンの小説を話している。


アンデルセン、デンマークの作家です。知らない人は少ないでしょう。彼の作品にはマッチ売りの少女や雪の女王などがあります。ですが、僕の1番好きな作品はこの絵のない絵本です。


と、チャービルは持参した小説を見せる。


絵のない絵本は、33つからなる短編小説です。最初はインドから始まって、ドイツ、フランス。33つ目の話では、5つのきょうだいというタイトル。実は、僕はこの最後の5つのきょうだいが好きでよく読みます。もちろん、全て読みました。最近は、5つのきょうだいが読みたいがためにズルします。そう、僕はほかの短編を読まずに、5つのきょうだいを読むんです。


すると、お客さんは笑う。今日は52人のお客さんが聴きにきてくれている。この会場は181人収容可能の会場だ。ここで52人はまあまあだろう。


しょうがない、絵のない絵本は好きだけど、もっと5つのきょうだいが好きなんだから。だからいつも飛ばして、見てしまう。みんなはどうですか? 好きな小説読む時、飛ばしてみることは? 僕はしょっちゅうです。


などと、笑いに変えながらも真剣に話した。


講演の時間は大体15分だ。この語る会は15分~30分、朗読会は40分~2時間、セラピーは30分~1時間となっている。これは1人1人時間が違う。人によって、3時間の人もいる。でもそういう人は大体がコメディアンやシンガーソングライター、アーティストが多い。

チャービルはアーティストでもコメディアンでもない。なので、短めの講演時間の設定となっている。

本を読むので、聴いてる人も読んでいる方も疲れるだろう。語る会は久しぶりに依頼が来た。最近はセラピーばかりだった。セラピーは本を読む事でその人の精神を落ち着かせて、治療をすることだ。その人にあった本でなければ、心も身体も落ち着かない。本選びは凄く難しい。その人に合った本でなければいけない。失敗が許されない仕事と言える。

難しい仕事だが、チャービルは仕事に誇りを持っていて、いつも研究をしつつ仕事している。本人は「楽しい」といつも言っている。チャービルは不思議な人間だ。なぜこのような仕事を目指したのか、知る人は少ない。


あっという間に15分が過ぎ、語る会が終わる。チャービルはお客さんに丁寧にお礼を言って、お辞儀をした後、その場を離れた照明も消える。


チャービルは舞台から降りると、2回に上がる。そう、この会場は2階建てだ。さっきの1階が、講演会場、2階がバーになっている。そのバーは、お酒だけでなく、ソフトドリンクも扱っている。チャービルはバーに入ると、紅茶を頼む。


やあ、いつもの紅茶頼む。


ええわかった。


バーテンダーは、珍しい女性でレイラ・ジェン・ズーモンという、中国系アメリカ人だ。髪は長くて一つ縛りしている。身体は細め、身長は165センチほど。女性としては高めだ。

チャービルは171センチだ。そんなに変わらない。チャービルはここの常連だ。


はい、アップルティー。


と、レイラは紅茶を出す。


チャービルは紅茶が好きで、よく飲む。このバーは日替わりで紅茶が変わる。アップルティーの日もあれば、レモンティーの日もあるし、ほかの紅茶が出ることもある。チャービルはそれを面白がって、注文をしている。レイラからは「紅茶人」なんて言われる時がある。もはや民族化している。


ありがとう、レイラ。


今日はどうだった?


今日? 良かったよ、15分みっちり楽しく語れた! まだまだ時間が足りないね!


それはよかった! ごめんね、中々見に行けなくて。


いやいいんだ、いつでも。


ありがとう。


そこに講演会場の責任者がチャービルに話かける。


やあ、ビルじゃあないか!?


ん? やあ! ベアン!


ビル元気か? 今日はどうだった?


それもう聞いたわよ、良かったって。


と、レイラが言う。


そっか。


ああ、順調だよ。楽しかった。ベアンのほうは?


おれも順調だ!


この責任者は ディラン・ベアン。よくディランベアンなんてからかわれる時がある。

高身長のイケメンだ。最近こいつにイラッとくることがある。


あっ! もうこんな時間か。悪い、人待たせてるからもう行くよ!


と、チャービルは時計をみて慌てる。


わかった! グスマンによろしくな!


ああ! レイラもありがとう!


またね! ビル!


と、チャービルは階段降りて、1階に行く。外へ出るには1度講演会場に行かないといけない。


講演会場を出たチャービルは2人の所へとまっすぐ向かった。


今日は仕事も上手くいって、気分が良かった。




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