第2話 舞い上がっていたことに間違いありません

 それから、ぎゅうぎゅう詰めのバスを乗り換えて、私立水美みずみ学園に到着した。


 こんなにたくさんの人がいるなんて知らなくて、ちょっとだけ人酔いしちゃったけど、門の前で理事長先生が待っていてくれたのだった。


「ようこそいらっしゃいました。本日は見学、ということでよろしいのですよね?」

「はい。よろしくお願いいたします」


 ママがよそ行きの顔でそう言って頭を下げたので、あたしもそれにならった。できればすぐにでも噴水を見たかったのだけれども、そうはいかない。


「うちは昨年できたばかりの新設校なのですよ。生徒が増えてくれると助かります」

「ふふっ。とても綺麗な設計なのですね?」

「ええ。かつて、わたしの教え子だった者が建築デザイナーになりましてね。彼に一任したのですよ。ですからほら。あのような噴水もあるのです」


 噴水、と聞いて、ぐったりしかけていたあたしの体は電気が走ったみたいにぴしゃりととなった。


 けど。今は噴水が出ていなくて。ただの、浅いプールみたい。


「噴水は、時間で出るようになっておりましてね。普段はあのように、体操部の練習場となっているのですよ」


 体操部? なのに、噴水? なんだか頭の中がこんがらがってきちゃって、なんだかよくわからなくなってた。


 そんなあたしの目の前で、とても綺麗な黒髪をお団子に結わえた女の子が噴水の中で走り始めた。早い。だって、水張ってあるんだよ?


「あれは、なにをしているのですか?」


 ママが代わりに聞いてくれた。


「なんでも体幹を鍛えているのだとか。体操部の顧問は少し変わっておりましてね。体操部であるにも関わらず、水風船を使ったり、なかなか凝ったことをしているのですよ」


 水風船? なんに使うの?


 動揺するあたしの目の前で、お団子頭の子が休みなく噴水の脇で倒立をした。その時初めて、彼女が体操着の中に水着を着ていることに気づいた。もちろん、スクール水着なんだけど。


 倒立をするお団子頭の子の足に、合計十個の水風船が挟まれる。うわー、足がつりそう。


 だけど、お団子頭の子は綺麗に倒立したまま、水風船を離すことなく、噴水の周りを一周してきた。


「さっすがみやび!! 今日も完璧だね!!」


 お団子頭の子の仲間なのだろう。一人の女の子が水風船をはずしながら、褒め称えた。


「遊んでいるわけじゃないのよ。これは、れっきとした練習なんだからっ!!」


 そうして、みやびと呼ばれたお団子頭の女の子は、また噴水の上を優雅に走る。と、その時午前十一時の時報が鳴った。


「噴水が出ますよ」


 理事長先生が言うと、みやびさんを取り囲むように噴水が湧き出た。


「わぁー、綺麗」


 あたしは思わず口に出していた。


 つづく

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