第22話 穏やかな島

 小さな島の役場へ行き、色々な手続きを済ませた。

 すれ違うひとりひとりと会話をして挨拶をしていく。車もバスも通っていたが、今まで住んでいた場所とは全く違う世界のようだった。


 横断歩道なんてなくても、歩行者がいれば車もバスも必ず止まってくれる。


 聞いた事のない鳥の鳴き声が山の方から聞こえてくる。

 漁港がある方角からは海猫の鳴き声が風にのって聞こえてくる。


 とにかく島の時間は穏やかだ。

 とびきり綺麗な青色の絵の具で塗ったような空。

 のんびり流れてくる白い雲。


 沖を通る船がたくさん浮かんで見える海。

 太陽の光を浴びてキラキラと輝く波。


 日向ぼっこをするのら猫達。

 畑仕事をする夫婦の姿。


 海に沈んでいく夕陽はとても優しく。太陽と入れ違いに白い月が浮かびあがってくる。静かな夜の空は、見たこともない星がこぼれ落ちそうにちりばめられている。



 次の日も片付けを済ませてのんびりとする。

 娘とふたりで手を繋いで散歩をしながら島を巡った。

 そして、娘が通う学校。

 島の子供の人数が少ない為に、小学校と中学校は同じ敷地にある。


「えーーっ!校庭が広ーーーい!こっちが中学校かなぁ?」

「そうみたいだね、楽しみ?」

 私は娘に聞いてみた。

「うん!でもさ、高校とかあるのかな?」

「1つだけあるって勇二が言ってたけどな」

 すると、娘はニヤリと笑った。

「勉強しなくても入れるかな?」

 私は娘に軽く拳骨をした。



 1ヶ月もしないうちに、娘は学校にも慣れて、近所に住む小学生と一緒に帰宅してくるようになった。




「ねー、お母さーん!」

 娘のこの感じで話し始める時は要注意だ。

「なんじゃい?」

 わざと冷たい態度を取ってみるが、娘に効果はない。


「学校制服ってないじゃーん。服が欲しいなぁー。

島に売ってるのんはちょっとさぁー」

 口を尖らせている。

 島の学校には制服がないので、みんな私服で通っている。

「だから、なあに?」

 私は忙しいふりをして、その場から逃げようと試みる。

……無理だった。


「買ってーーーーー!!!」

(やっぱりそうきたかぁ……)

「私服を1つ制服に決めたら?」

 私は意地悪をしてみた。

「なぁーいーもーーーん!!!」

(何の動き?)

 娘は両手をブラブラとさせながら、後ろを付いて回る。


「わかった!じゃあ、ネットであれ買えば?学校のじやない制服みたいなやつ!それを制服にして、洗ってる時は私服で行けば???」


 娘は黙り込んだ。

 私は仕方なく携帯の画面を操作して娘に見せた。

「ほらっ、こーゆのならいーっしょ?」

 携帯を覗き込んだ娘の表情が変わった。

「いヒヒ!!」

「勝手に購入しないでよ!ちゃんと見せてからだよ!」

「わかった!」

 娘は嬉しそうに、真剣に選んでいた。


(やれやれ……ちょっと不便だな)

と私は思ったが、娘が嬉しそうにしているのでそっとしておいた。



 島に荷物が届くのは週に1回だ。

 ポチっとして、早ければ翌日に届くような都会とは違って時間がかかる。


 娘の荷物はタイミングが悪かったのか、3週間かかって島に届けられた。

 それ以外にも私服をいくつも購入した。

「細田さーん!お荷物ですよぉー!」

 この島はピンポンなんてめったに押さない。

「はーい!」

 私は大きな声で返事をして玄関に向かった。

「たくさん頼んだねぇー」

 いつも配達してくれる杉田さんが笑っている。

「すみません。娘がうるさくて」

 私は申し訳なく思って言った。

「いやぁー、島には店がないし。どこもおなじさぁー!ここに置いてて大丈夫かい?」

「はい、ありがとうございます!」

「ほじゃねー!」

 それから杉田さんは、細田家にちょくちょく荷物を運んで来ることになった。



「細田さーん!今日はアイドルのCDかなんかだべ」

 今日もまた、娘の荷物が届いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る