第19話 幸せな時間
私達3人の時間は穏やかに過ぎていった。
季節は何度も何度も、私達の間を通りすぎていく。桜の花が咲き花びらを拾う。ジリジリと暑い夏はかき氷を食べた。足元に転がっているどんぐりを大事そうにポケットに入れて、チラチラと降る雪を手のひらに乗せて微笑んだ。
私達3人の誕生日と母親の誕生日を何度も一緒にお祝いをした。
そして、小学生だった娘は中学生になろうとしていた。
ある日、私が洗濯物を干していると、勇二が口にした。
「もしも、僕と瑠璃が結婚したら、結ちゃんは僕の娘になるの?」
唐突な質問だった。
「えっとー、勇二と結が養子縁組をしたら、書類上だけど結は勇二の娘になると思うけど?」
「そっか」
そこから勇二は暫く黙っている。
「どしたの?急に」
私は勇二に尋ねた。
「島で母親が1人で住んでるって言ったよね?」
「あ、うん」
初めてお茶をした時の事を思い出していた。
あの頃は、こんなに長く一緒にいるとは思ってもいなかったな。
「親父も居なくて、1人で寂しいみたいなんだ。それで……」
勇二はしばらく言葉に詰まっている。
「それで?」
私は何となく聞いてみた。
「……籍を入れて、結ちゃんも一緒に島で住んでもらえないかな?」
……ん?
なんか短い時間で色々言われたような……。
「私達が結婚するってこと?」
「そう」
「結と養子縁組するってこと?」
「そう」
「んとー……し、島で???」
私は驚いた。
「そう。無理かな……」
勇二は真面目な顔で聞いてきた。
確かに、勇二は前の旦那とは全然違う。私の母親とも一緒に食事に行ったりもする。
気は短い所もあるが、暴力は絶対にしない。
家事だって手伝ってくれるし、『料理も無理にしなくていいよ』とお弁当を買いに行ってくれるような人だ。
痛ましいニュースがテレビで流れると、
「もしも、俺が被害者側だったら、警察に捕まってもいいから同じ事をして仕返しをしてやるな!!絶対に、許せないわ!!!」
と、自分の事のように腹を立てていた。
私は勇二のそんな優しい所が大好きになった。
出会った頃のような丁寧な言葉使いはしなくなったけれど、私のドジな所は笑ってくれたし、職場で嫌な事があって凹んでいると自分の事のように『腹立つわぁ』と怒ってくれる。
娘が体調を崩すと、病院に一緒に連れていってくれた。
勇二と出会って7年経っていた。
勇二から以前の旦那のように、偉そうに文句を言われた事もない。
(前の旦那が桁外れに酷かったのだけど)
たまに喧嘩はするけれど、以前の結婚生活のような苦痛を感じる事はなかった。
(この人なら大丈夫かな……)
私は考えていた。
娘は自分の父親の写真を1度だけ見たことがある。
それ以外は何も知らない。
高い高いをして貰ったのは、私のパート仲間で行ったバーベキューの時。
子供が大好きな仲間のご主人が子供達を集めて遊んでくれていた。
「ほら、結ちゃんもおいで!」
と呼ばれて嬉しそうに走って行った。
「結ちゃんも、高い高ーーい!」
「キャッキャッ」
とどんぐり保育園に通っていた頃の事だった。
娘には荷が重い判断をさせてしまうかもしれないが、結が嫌と答えたならやめておこうと私は心に決めていた。
そして、私の両親と娘と5人で話をした。
「瑠璃さんと結婚させてください」
私の両親にとっては2回目のやり取り。
「そして、結ちゃんと養子縁組をして、僕の娘として生活させてください」
勇二は私の両親に伝えた。
「結は、それでいいか?」
と父親に訪ねられた娘は、答えた。
「別にいいけど……」
娘は思春期真っ最中。もともとそんなに感情を表に出さないタイプだ。
「この人がお父さんになるんだよ?いいんだね?」
と父親が確認をする。
「うん」
短い沈黙のあとだった。
「じゃあ、喜んで!」
父親は勇二に言った。
父親を知らない娘に父親ができた瞬間だった。
そして、中学生になるタイミングで勇二の母親が住む小さな島へ引っ越す事になった。
父親の事は全く心配はしなかった。
ただ、母親と離れてしまうのは寂しかった。
苦しい時に私を助けてくれた。
本当に母親と離れても大丈夫だろうか……。
それだけが気がかりだ。
娘が一番大変で、一番可愛いい時間を助けて貰った母親を置いていく。
だからこそ、今度こそ、私は。
私と娘は幸せにならなくてはならない。
1人で子供を育てる為に苦労をしていた私は、少し心が軽くなった。
男が居ない家庭は、ナメられる。
そんな経験を人知れず重ねてきていた私は、心からそう感じていた。
娘の小学校の卒業式を終えると、勇二と私は入籍をした。
そして、娘は勇二と養子縁組をして親子になった。
(大丈夫!今度こそ、幸せになれる。)
私の選んだ人は優しくて強い。
私と娘を守ってくれるだろう。
私達は家族として新たな生活がスタートした。
バタバタと荷物をまとめて、私達家族は、小さな島へと引っ越しをした。
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