第13話 地獄の日々 2
「何で一日中家におるのに掃除できない?」
帰ってきて開口一番に怒られる。
確かに私は四角い部屋を丸く拭いてしまうタイプではあるが……。
よくある姑が、指でタンスの上などの埃をナゾルやつ。
あれを旦那はよくやった。
「私だって大変なんだから!」
と文句を言うと不機嫌になる。
お酒を飲んで、タバコを吸って。
偉そうに上から物を言われた。
必死で家計をやりくりして作ったポテトサラダは灰皿として扱われた。
食べかけのまま(ポンッポンッ)と指で灰を落とされ、グリグリとタバコの火を消された。
そして、どんどんエスカレートする。
時には殴られるようになった。
我が子を抱いたまま殴られて壁にぶち当てられる。
必死で我が子を抱いて落とさないように守った。
時々来ている母親は私のほっぺにできた紫のアザを怪訝そうに見つめて言った。
「そのアザ何?」
「タンスってさー、新しいと勢い良く閉めると違うところが開くよね?痛かったー!」
と、笑いながら言っておいた。
……ごまかしきれてなかっただろう。
いくらタンスが新しくても、そんな丸いアザは出来ない。
その頃から私は謎の体調不良に悩まされた。
吐き気がする。頭が痛い。
すぐに熱が出る。
あまり食べてなかったのか、食べれなかったのか……。
私は結婚してから、2年ほどで10キロ痩せた。
ある日、(私が笑顔を忘れた結婚式)に来てくれた友人が結婚すると連絡がきた。
行きたかったが、飛行機や新幹線に乗るお金がなかった。
そこにご祝儀を追加すると完全にアウトだ。
その頃、私はまだ小さい娘を保育園に預けて短時間のパートをしていた。
少しずつ少しずつお金を貯めていた。
そんなに長い時間は働けない。家事もちゃんとやらなければならないし。私のパートのお給料は、保育園の費用と我が子の為の貯金と食費の足しに使っていた。
「結婚式行きたいけど交通費の余裕がないから、お金を送ってあげたいんだけど」
私は夕食を取りながら話を切り出した。
「送ればいいやん」
いつも通りの素っ気ない返事が返ってくる。
「で、私のお給料で払うから5万ほど……」と言った所でブチギレされた。
金額を言わずに勝手に送れば良かったのだ。
なのに、私はバカ正直に相談してしまった。
「何で5万も送る必要があるん?」
大きな声で怒鳴られた。
でも、この時ばかりは私も言い返した。
「彼女は結婚式に来てくれたけど、こっちからは交通費も宿泊費も払ってないんだよ!それくらいしてもいいでしょ!」
「5万も送る必要はない!」
旦那はどうしても許せないらしい。
「私がパートで働いたお金から出すからいいじゃん!」
さすがに私も黙ってはいられない!滅多に見せない怒った顔で文句を言った。
「あ"ーーー?!
旦那は、ドスの効いた声を出す。
それと同時にお酒の入ったグラスはテーブルに叩きつけられた。
テーブルに用意された食事の上や、床には飲みかけの焼酎が飛び散った。
(臭い。臭い…。とにかく臭い!)
お酒が飲めない私はこの匂いが堪らなく嫌いだ。
大きな声と音で目が覚めたのだろう。
寝室で寝ていた娘の鳴き声が聞こえてきた。
その時、私の中で何かがパリンッと音を立てて崩れた。
……もう何も怖くないや……。
夜はクーラーを切って、窓を開けて扇風機を回せばちょうどいい季節だった。
我が家の大喧嘩はリビングの窓を飛び出してご近所に響き渡っただろう。
その次の日に私はパート先に電話をかけた。
「体調不良でどうしても仕事ができなくなったので、パートを辞めさせて下さい」
「しばらく休んで戻っておいでよ!」
と、ありがたいお言葉を頂いたが、私はパートを辞めた。
旦那には何も言わずに。
そして、その日から毎日少しずつキレイに部屋を片付け始めた。
そして、いつもと変わらずに家事をして、会話のないまま夕食をとる。朝はいつも通りにお弁当を作り、タバコの確認をして見送った。
全部の部屋がキレイになった数日後。
私は可愛い娘の荷物と最低限の自分の荷物を抱えてタクシーに乗って家を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます