第39話 突然丸顔神が

 しかしやはり求美にとって華菜は自身の一部、心の乱れはなかなか押さえ切れなかった。華菜は求美が持つ妖力の一部しか使えない。そしてパワーも求美のフルパワーには遠く及ばないはず…。人間が相手なら圧倒的でも、飛蝶と正面から戦えば結果は歴然だった。今すぐ後を追えば華菜の身の安全は守れるが、求美の存在がばれて尾行が失敗に終わる可能性がある。そして華菜のやる気を削ぐことにも。今すぐの決断を迫られ葛藤している求美のもとに早津馬から電話が入った。本来なら「私達のことはいいから仕事に集中して!」と言うところだったが今は渡りに舟だったので、早津馬に飛蝶との小競り合いの要約を早口で話し「尾行している華菜が心配なんだけどどうしたらいいと思う?」と早津馬の意見を聞いた。すると早津馬が「リスク無しでいい結果を得るのは難しい。とはいえ俺の妻だ、何としても守りたい。仕事なんかしてられない。傍観者ではいられない。何か出来るはず。今すぐそこへ行く」と、案の定、心配した早津馬が合流すると言いだした。地理に詳しい早津馬がいると心強いので、それも止むなしと判断した求美が了解すると、早津馬が華菜が向かった方向を聞いてきた。アーチの家からガード沿いを阿佐ヶ谷駅の方に向かったことを話すと、次に近くに飛蝶がいると思うか聞いてきた。全く無防備な飛蝶の姿を見ている求美が、飛蝶はそのまま目的地に向かったと考え「時間的にみてまあまあの距離離れていると思う」と答えるとすぐに合流する場所を指定してきた。「華菜が進んだようにガードに沿って道を進むとすぐに環七通りに出るのでそのガード下で合流しよう」と言うことだった。そして「環七通りは道幅が広くて車の往来も激しいのですぐ分かる」と言うことだった。了解して電話を切った求美は飛蝶が戻ってきている場合を考え、念には念を入れて気配を探りながら慎重に進みアーチが後に続いた。求美は飛蝶だけでなく、心配な華菜の気配も探り続けていた。だがどちらの気配も感じることなく合流場所が近かったのですぐに着いた。環七通りは確かに車の往来が激しくて間違えようがなかった。早津馬がどれ位離れた所から電話してきたか分からなかったが、自分達がすぐに合流場所に着いたのでさすがに早津馬を待つことになるなと思っていると、既に早津馬はタクシーを止めて待っていた。いつも笑顔の早津馬の、真剣な表情を見て求美がキュンとしているとアーチが「乗りましょう」と求美を急かした。二人は早津馬のタクシーに乗り込んだ。そして求美が早速「都知事が行きそうな場所ってこの近くにある?」と早津馬に聞くと「公務でこの近く…まずないと思うな。全くないとは言い切れないけど。それより可能性が高いのは…」と早津馬が言いかけた時誰かが窓ガラスを軽く叩いた。華菜だった。早津馬がドアを開けると華菜が乗り込んできた。求美が驚いた表情で華菜に「考えてみれば、今まで華菜が気配を消して単独行動して私と途中合流なんてことなかったから知らなかったけど、華菜の気配を消す能力凄いんだねー。私と変わらないレベルだよ。完全に消えてた。これなら飛蝶にも気付かれない、心配することなかったな。でももう消すの止めて大丈夫だよ」と言うと華菜が「へーそうなんだ。知らなかった。気配を消す能力だけはボスと同じか」と笑顔で言いながら気配を消すのを止めた。早津馬が安堵した表情で自分をみているのに気付いた華菜が「あれー、心配してた?私のこと」とわざとおどけて言うと早津馬が「そりゃあ心配するさ、大事な妻なんだから」と素直な気持ちを伝えた。華菜がいつもと違い少し照れたように見えたが、照れ隠しなのか急に早津馬に「ボス、凄いんだよ。飛蝶が外で格好つけてブラックコーヒー飲んでるの当てたんだよ」と言った。何を言ってるのか内容が良く分からない早津馬に求美が「さっきは急いで話したから細かい部分を省いたけど…」と前置きしてことの次第を話すと早津馬が「それは本当凄いなー。でもブラックコーヒー苦手なのか飛蝶は、凄い年齢なのに子供なんだね」と言うと求美と華菜が声を合わせ「私達は飲めるよ」と言った。早津馬が「大人だもんね!二人は」と言うと華菜が正直に「多分、私とボスは殺生石で熊笹茶を飲んでたから飲めるようになったんだと思う」と言った。「妖怪ってブラックコーヒーが苦手なのかな」と早津馬が思っていると華菜が本題を思い出して「飛蝶の奴、ゆっくり歩いてたからこのまま目的のところへ歩いて行くんだろうと思ってたら、突然例の派手な蝶に変身して飛んでった。飛ぶの嫌いなんだからなんか訳があるはず。そう思ったんで、飛んでった方に行けば何か分かるかなと思ってまあまあの距離歩いてみたんだけど、何もそれらしいことがないし気配も消えたままだったんでどうしようもなくて、あきらめてここまで戻って来たらボス達を見つけた」と言うと求美が「読めないよねー、飛蝶のやることって、たまに理由なしってのがあるから、推理しきれない」と言った。その時突然後席の華菜とアーチの間に二人を押しのけるように丸顔神が現れた。太めの体に押され窮屈そうな華菜とアーチとは対照的に丸顔神は満足そうだった。驚いた求美が「人間の早津馬がいるのに神様が堂々とその前に現れるってどういうこと?」と聞くと丸顔神が「この間見られちゃったし、求美君が大丈夫って保証したんだからいいかなって思って…」と答えた。華菜が窮屈そうにぼそっと「いい加減だな」とつぶやくと、それが聞こえた丸顔神が「人間界の歌にもあるじゃないか人生いろいろって。神もいろいろいていいんじゃないの」と言った。求美が「そうですよね、今さら変わりようがないですからね。今年で何歳でしたっけ?」と丸顔神に聞くと「ここ数百年、歳を聞かれたことないから忘れたな。ましてや地球での年齢なんて、地球生まれじゃないからな」と答えた。華菜が興味を持ち「へえー、地球じゃないってどこ?」と聞くのを求美が制し「何か用事があって来たんじゃないですか?」と聞くと丸顔神が「狐と狸の争いのその後を聞こうと思って来たんだが?」と言った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る