第34話 飛蝶の新ターゲット

 飛蝶のマンションを住人に見つからないようにこっそり出た後、早津馬の車に向かう途中、飛蝶の悪事の現場の天井裏に残してきた鼠達が気になる求美が「やっぱり、鼠達が気になるんだけど」と言うので4人は早津馬の車でそのビルがある中野に向かうことにした。向かうその車の中で早津馬が「鼠達のことも気になるけど、あの部屋に残していった泥酔客達、大丈夫だったかな?」と言うと求美が「窓に大きくHELPって書いといたから、もうとっくに誰かに見つけてもらったと思うよ」と答えた。すると早津馬が「じゃ、事件として警察が現場検証してるかもしれないな」と言った。求美が「現場検証って何?良く分かんないけど何か問題でも?」と聞くので早津馬が「警察が事件と判断すれば、もしくは一連の昏睡強盗事件だと気づけば現場検証って言うんだけど、事細かにあの部屋に犯人逮捕の手掛かりがないか調べるんだよ」と答えた。そして続けて「その間、あの部屋には入れないよ」と言うと求美が「じゃ、あの鼠達がどうなったか分からないじゃない。凄く気になるのに」と言った。早津馬が「念のため聞くけど、警察に逮捕されるような手掛かり、残してないよね?まあ警察が求美と華菜を逮捕するなんて絶対無理だと思うけど」と言うと求美が笑いながら「ご心配なく。何かに触っても残るのは狐の痕跡なので、人間の警察官はどうしてここに狐の…ってなって、それこそ狐につままれたようになるだけだから」と答えた。それを聞いて早津馬も「そりゃーそうだ」と言って笑った。そして続けて「じゃ無駄足覚悟でこのまま行くね」と言うと求美が「うん、やっぱり気になるからね」と言い、華菜とアーチも「行ってみよう」と賛同し、最初に決めたとおり事件現場のビルに向かった。警察が来ている可能性が高いと考え、ビルからやや遠い駐車場を探して車を止め歩いて行くと、道路脇にしゃがみ込んでいる男がいた。なぜか天然水の空のペットボトルを抱えていた。かなりげっそりした様子なので、心配した早津馬が声をかけると、語気弱く「やっと声をかけてもらえた。みんな知らんぷりで冷たいなと思ってた。もっとも声をかけられても返す気力がなかったけど。救急車を呼んで欲しかった」と言った。そして「何処かでやたら飲まされて、気がついたらここに、その場所が何処だか分からない」と答えた。「あの時の泥酔客の一人だ」すぐに気づいた早津馬が「よく非常階段から転落しなかったな」と不幸中の幸いを喜んでいると、その男が続けて「やっと歩けそうなんだけど持ち物が何もかも無くなっていて、金もなくなっていて家に帰れない」と言った。一瞬、お金を貸そうと思った早津馬だったが「このまま帰したら飛蝶の犯罪を見逃すことになる。どうしよう」と考えていると、求美がずば抜けた視力で、やや距離があり反射や写り込みで見にくいビルの窓を見て「HELPの文字が消えてる」と言った。早津馬が「おかしいな。警察が現場検証に入ってるなら現場保存が基本、消す訳ないんだけどな」と言うと求美がどうやって探ったのか「部屋の中に人間はいないよ」と言った。早津馬が「警察は来ていないということか。それにしても誰が消したんだろう」とつぶやくと求美が「分かった!私達が出て行った後、飛蝶が戻って来たんだ。人間にも稀に妖怪を倒す凄い能力を身に付けた陰陽師って呼ばれる人がいる。飛蝶なら簡単に倒されたりしないけど、それでも、余り事件が大きくなってそういう人達に目を付けられると面倒だから、昏睡強盗の痕跡を消しに、部屋も元通りにしに戻って来たんだ」と言った。早津馬が「窓の文字を消したのは飛蝶ってこと?」と聞くと求美が「そう」と答え、そして目の前の男を見ながら「そしてこの人がここにいるのは自分で歩いて来たんじゃなくて飛蝶が妖力で移動させた。一カ所に何人もいるとガード下の時みたいにまた事件が発覚するから。他の人達も妖力で散り散りに移動させたと思う」と自分の推理を話した。早津馬が「飛蝶も学んだ訳だ。でも物騒なこと言うけど、全員消しちゃえば早いのに、飛蝶なら簡単だよね」と言うと求美が「一度に何人もいなくなったらそれはそれで騒ぎになるじゃないですか」と言った。「なるほど」と皆が納得すると、求美が名探偵のように遠くを見つめ首に手を当てた。「と言うことはもう事件を警察に調べてもらうのは無理ってこと?」と聞く早津馬に求美が「いかに馬鹿な飛蝶でも、証拠になりそうなものは全て妖力で消すので無理だと思うよ」と答えた。それを聞いた早津馬が、目の前のまだまだ二日酔いが治まりそうもない男に何処まで帰るのか聞いて交通費を渡していた。「他の泥酔者達が何処にいるか見つけられる?」と聞く早津馬に求美が「無理!」と答えた。そして続けて「凄く広い範囲を探さなきゃならないから無理だよ。と言うより今の人が残っていたのが特別で、他の人は助けられたか病院に送られてるよ。鼠達の様子を見に行こう」と言った。その求美の言葉に従い、念の為求美が飛蝶の気配を探りながら、鼠達を置いてきた部屋の前まで歩いて移動した。そして中に人の気配がないのを確認しドアを開けると、天井裏に移動させた鼠達が床に下りていて、酔いつぶれ、いびきをかきながら寝ていた。アーチが言ったとおり微量のアルコールで泥酔し、すぐに酔いから復活した鼠達が性懲りもなく、また酒盛りをしたようだ。でもそこには鼠達の飲みかけの酒瓶一本があるだけで、そこそこの数あったはずの未開封の酒瓶がなくなっていた。その事実から求美は、飛蝶がまた戻って来たという自分の読みが当たっていることを確信した。未開封の酒は証拠隠滅のため、そして大酒飲みの自分が飲むために、妖術で極小の物に変えて持ち去ったと判断できたからだ。そして鼠達は彼等特有の勘で飛蝶が気づかず残していった酒瓶を見つけ出し、酒盛りを始めたと判断したのだ。「困った鼠達だなー。また移動させなきゃ。面倒くさいな」と思いながら求美が鼠達に視線を戻すといつの間にか皆いなくなっていた。「あれ?」と思い周りを見渡すと、華菜が酔いつぶれた鼠達を机の上に1列に並べ、突っついて反応を楽しんでいた。求美が「やめな、華菜」と言うと「はーい」と言ってやめて、求美が前回部屋から出る前に、鼠達の脱出用に開けた食器棚の真上の天井の小さな穴から、鼠達を一匹ずつ天井裏に押し込み始めた。「乱暴だな」と思いながらも天井裏の方が人間に気づかれず安全なので、鼠達の生存対策は華菜に任せて求美達3人は、部屋の中で鼠達が酒盛りをして汚した痕跡を消してまわった。それらが終了し鼠達への心配が消えた求美達4人は、早津馬の車で今や求美と華菜の家にもなった早津馬のアパートに向かった。途中、華菜が大好きなコンビニに立ち寄り、夕食と翌日の分の朝食を購入した。早津馬が借りている駐車場に車を止め、アパートの部屋に入ると全員疲れたようで、思い思いの場所に寝転がった。しばらく休むと皆「お腹が空いた」と言いながらおき出した。食べる物が弁当なので電子レンジで温めるとすぐに夕食が始まった。4人なのでいつも以上に騒がし、でなくにぎやかだった。そんな中、早津馬がテレビを点けるとニュースが流れていた。その中で東京都知事が21世紀にふさわしい首都の建設構想を語っていた。

 そのニュースを新宿の高級ホテルの一室で視ている者がいた。自分が指名手配されていないか、一日一回ニュースで確認することにしている飛蝶だった。「この男使える」そうつぶやくと、思いついたら即行動の飛蝶は早速、子供達に「出かけてくる」とだけ言い残し、夜、母親がいないことに慣れている子供達の笑顔に見送られ、街に出て行った。飛蝶はテレビ等の顔の映像を見るだけで、現在の居場所を特定する能力を持っていた。 

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