第14話 飛蝶監視開始

 アーチが飛蝶の手先にされた時の経験をもとに「そろそろ一度見に行ったほうが…」と求美に言うと「そうだね」と求美が同意した。「じゃあ私見てきます」と言うアーチに求美が「大丈夫かなあ、もしアーチに何かあったらまずいし、私達も場所を知っとく必要があるし、皆で行こう」と言うと早津馬が「じゃあこの車で行こう。タクシーだから怪しまれないし」と言った。求美が「早津馬さん仕事中ですよね。それにもし飛蝶に見つかったら早津馬さんにも危険が及ぶんですよ。私も常に早津馬さんのそばにいられるとは限らないんですから」と強く言う求美に「覚悟はできてる。手伝わせてくれ」と落ち着いた口調で早津馬が言った。早津馬の覚悟が相当なものであることを確信した求美が「分かりました」と早津馬に言いアーチに「案内して、とりあえず近くまでよ」と言うと「了解です」とアーチが答えた。静かに走り出したタクシーはアーチの指示ですぐに右折して路地に入り、少し進んで左折した直後「ここです」と言うアーチの指示で停車した。「もう着いたの、近いねー」と早津馬が少し驚きながら言った。求美が「飛蝶の奴、さっきはずいぶん近い所でやってくれたんだね、裏をかいたつもりなのかな?私ならバレないとでも思って…」と言うと華菜が「飛蝶になめられてるからね、ボスは」と求美をイジった。求美が「そうだね…、おい!」とノッタので皆で大笑いした。車内とはいえ飛蝶に聞こえる可能性があるのを全員分かっていたので、全員が慌てて指を口に当て「しー」とやった。飛蝶に気付かれてないか確認のため少し間をおいてから求美が「早津馬さん、ありがとう」と言った後「華菜、アーチ行くよ」と二人を促しタクシーを降りた。求美が「アーチ、ここから近いんだよね」とあらためて聞くとアーチが「歩いてすぐです。あっ…、このビルです」と指差した。目の前だった。タクシーを降りてすぐだったので求美と華菜が慌てて道端の物陰に隠れ、アーチを自分達の方に引っ張り込んだ。「アーチの感覚、鼠のままなんだね」と言う求美にアーチが体を小さくして「そうみたいです」とうなずいた。その後、気を取り直したアーチが「このビルの2階です」と言って2階の左端の窓を指差した。その目の前を早津馬のタクシーが静かに通りすぎた。求美が「この時間だとエントランスが施錠されてるはずだから、出入りするのはあの非常階段ね」と言ってビルの左端を指差した。華菜が「エントランス、壊してないかな?」と言うのを聞いた求美が「それもないとは言えないけど、壊すとセキュリティシステムが働くから警備会社への対策が必要だし、あの大ざっぱな飛蝶がそんな面倒なことしないと思うよ」と言った。「そりゃそうだ飛蝶だもんね」と華菜が納得した。求美がビルの非常階段を見張れて身を隠すこともできる所を探し、周辺を見まわした後「あそこなら見つからないと思うから、あそこで交代で見張ろう」と言って今いる所から少し南へ進んだ人気のないビルの少しへこんだ所を指差した。飛蝶に気付かれないように細心の注意をはらって華菜、アーチ、求美の順で移動した。見張りの順番を決めることにした。求美が「ジャンケンにしようか?」と言うとアーチが「ジャンケンてなんですか?」と聞いてきた。求美がアーチに念を送った後「ジャンケン…」と言いだすとアーチも一緒に「ジャンケン…」と言いだし普通にジャンケンをした。求美がアーチに一瞬でジャンケンのやり方を教えたのだ。手が4つ出ていた。求美がアーチが間違えて両手を出したのかと思ったが良く見ると1つは男の手だった。早津馬だった。求美が「さっき仕事に行ったんじゃないんですか?」と聞くと早津馬が「仲間はずれは嫌なんだ」と子供のように答えた。求美が早津馬を思い危険なめにあわせたくなくていろいろ言ってもそれが無駄なことを悟り、一計を案じた。「早津馬さんには別の任務があります。私と華菜とアーチの食料の補給をお願いします。それがないと私達作戦遂行できないですから。長期戦になる可能性が高いのでお仕事をして稼いできてください。お願いします」と言って頭を下げた。半分は本音だった。これを早津馬が了承してくれると食料問題が解決する。なので求美は渋る早津馬に了承してもらうため華菜とアーチに目配せして三人声を合わせて「お仕事に行ってください。お願いします」と重ねて言った。更に求美が「困った時は頂いたスマホで応援要請しますから」と言うのを聞いて観念した早津馬は「分かった」と言ってその場を離れた。その姿を見届けた後、改めて三人でジャンケンをした。アーチ、華菜、求美の順番になった。最初の見張り役になったアーチに「2時間後、交代だから」と言い残し、飛蝶に見つからないように慎重にその場を離れた求美と華菜は暖かい場所を求め中野駅の方に向かった。求美が「スマホがあると助かる。これで交代時間が分かる」と言うと華菜が求美のお尻辺りから「そうだね」と答えた。求美が「華菜、楽?」と聞くと華菜が「うん、少しだけ」と答えた後、求美の直後から現れ「超久しぶりにお酒飲みたいな」と言った。それを聞いた求美が「早津馬さんの援助が受けられそうだから、お酒飲んじゃおうか」と言うと華菜が笑顔で「いいんじゃなーい」と言った。

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