第13話 飛蝶は子持ち

 「飛蝶には子供がいるの」突然求美が言った。そして「子供に罪はないし、あの子達本当にいい子だからあんな親でもいなくなったら悲しいだろうと思うと…」と言った後に華菜が「あの子達なついてるからねー、親の飛蝶よりボスに」と言った。「ボスって?」と聞く早津馬に華菜が「分かるでしょ、私のボスは私の本体のこと」と言った。早津馬が「初めて聞いた」と言うと華菜が「初めて言った」と返した。早津馬が「子供達って言ったよね。複数?」と聞くと求美が「はい、三人です。三つ子です」と答えた。続けて華菜が「子供といっても何百歳だったかな?忘れたけど人間の感覚じゃ追いつけないでしょ」というのを聞いて早津馬は「俺よりはるか年上じゃねえか」と思いながら、あまりのことに逆に顔は笑っていた。求美が「私と華菜の冤罪さえ晴らせればいいので出来れば倒したくないんですけど、そこそこ強いのでそこが難しいんです」と言って沈黙した。早津馬がその沈黙を破りポツリと「何百歳って…子供じゃない」と言うと求美が「子供ですよ、すごく可愛いの。百の代の妖怪なんてまだまだ幼い子供です」と言った。求美の「幼い子供」に反応した早津馬が「見てみたいな」と言うと華菜が「興味本位はやめてくださいね。子供でも妖力を持ってるし、特にあの子達は親の飛蝶以上の力を持っている可能性があるので」と言った。華菜が華菜らしくない真面目な表情で、とんでもないことを言うのを聞いた早津馬が自分の不安を打ち消すように華菜に「子供達とは戦わないんだよね」と聞くと華菜が「子供達はボスになついてるから攻撃してくることはないはずです。怒らせたりさえしなければ」と答えた。早津馬が「いい歳なんだから怒らせたりしないよ」と言った後気がついて「俺の方がはるか年下だったっけ」と訂正した。求美が「そんなに心配しなくて大丈夫ですよ。あの子達本当にいい子ですから。飛蝶から生まれたのが信じられないくらい」と言うのを聞いた早津馬は半分くらい安心した。「そもそも妖怪に子供がいるイメージがなかったんだけど、三つ子となるとただの普通の狸の親子だね。でもそんなに妖力が強いのか…三つ子だと三分の一になりそうだけど」と言う早津馬に求美が「不妊治療したんですよ飛蝶、なかなか子供ができなくて。その治療がどう働いたのか三つ子で妖力が凄くて可愛い女の子が結果として生まれたんです」と言った。早津馬が「妖怪にも不妊てあるんだ…。でもどうやって治療を?」と聞いた。求美が「妖怪の中には医者もいるんです。妖怪には人間のような病気はないんですけど病気以外の体の不都合がおきたりするので、私も一度受けたことがあります」と答えると「不妊症って病気じゃないの?」と早津馬が聞いた。求美が「不妊症は病気ではなく症候群だと思います」と言うのを聞いて「症候群か…」と言った後、今や求美の全てが気になる早津馬が「求美ちゃん詳しいけど治療受けたの?子供いるの?」と聞いた。求美があわてて「いません」と答えると早津馬が「伝説だとずいぶん人間にモテたようだし、きっと妖怪にも…」と少し、くやしそうに言った。すると求美が「私はずっと独身です。周りに恋愛対象になるような人がいなかったので」と早津馬に訴えるように言った。早津馬が笑顔になり「求美ちゃん凄い美人だからなかなか似合いの人なんかいないよね」と言った。その直後、求美が「恋愛対象になる人」と言ったのに気がついた早津馬が「自分達の仲間じゃなくて人間でいいの?」と聞いた。すると求美が少し恥ずかしそうに、しかしきっぱりと「早津馬さんに信じてもらえるか不安ですけど、妖怪に生まれてしまったけど私の心は人間なんです。だから人間が好きです。人間の男性と結ばれたいです」と言った。早津馬の顔がニコニコになった。しばらくニコニコしていた早津馬が急に真顔になり「飛蝶の子供達の父親って誰?まあ俺の知らない妖怪なんだろうけど加勢してくるよね」と言うと求美があっさり「その心配はないです。飛蝶に浮気がバレて命からがら逃げてったらしいので」と答えた。続けて華菜が「飛蝶はプライド高いですからねー。生きてるかなあ」と言った。求美が「逃げ足の速さで有名だったから逃げのびたんじゃないかな」と続けた。

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