第21話 親の心、子にだけ知らされず

「んふ、んふふふ、んふふふふ・・・・・・」スリスリスリスリ・・・・・


何やら怪しい笑いを浮かべながら、美由紀は小次郎の胸板に頬擦りを繰り返す。


「みゆ、ちょ、おま、待てっつーのぉ!」

痛む後頭部に意識を持って行かれつつ、必死に逃れようとする。


「やーだ!待たない!やっと会えたんだもん。どれだけ我慢したと思ってるの?」

そう言いながら、絶対に逃がすまいと力を込める。


「あのなぁ、“もん”じゃねぇよ“もん”じゃ・・・・」


ダメだこりゃ。

ため息をつき、脱力。


脱出を諦めた小次郎は、まるでクッションの如く頬擦りされ続けたのであった。


「た、たすけてぇ・・・・・」




「まったくもう・・・いくら数年振りとは言え、暴走しすぎだぞ美由紀?」

「そうよ、ホント貴女は小次郎の事となると人格変わるんだから・・・」


「はぁい・・ゴメンナサイ」


駆け付けた母・彩羽いろはに引っぺがされ、父・宗重むねしげから絶賛お説教中の美由紀。

自分の行動がよほど恥ずかしかったようで、顔を真っ赤にして小さくなっている。


「まぁまぁ、宗重も彩羽も、それ位にしてやれよ。余程嬉しかったんだろうからさ」

どんどん小さくなっていく美由紀を見かねて、隆一郎が助け舟を出す。


「そうよ、この子にはあれ位が丁度良いんだから。そんなに気にしなくて大丈夫。

 小次郎、全然顔出しに行かなかった罰と思いなさいよ?」

息子に対して容赦無いのは環菜。


「まぁ・・・確かに暫く顔出さないのは俺も悪かった。許してくれよ、な?」

そう言って手を伸ばし、美由紀の頭を優しく撫でる。


「んもぅ・・・すぐそうやって子ども扱いするぅ。特別に今回は許すけどさ」

口を尖らせ、ぶーぶー言いつつも満更ではない様子の美由紀。


「ハハハハ・・・あ、そうそう。さっき話はしましたが、改めて紹介しますね」

すっかり蚊帳の外だった弥生と裕美子に話を振って近衛夫婦と美由紀を紹介し、

近衛夫婦と美由紀には弥生と裕美子を紹介した。



通常、大学卒業後はどこかの神社で数年修業を積み、実家の神社に戻る。

修行先は國學院大學がっこうからの紹介もあるが、個人的伝手コネを使う学生も多い。

実家が神職であるならば尚更の事。



修行先を決めあぐねていた小次郎に、最後の一押しをしたのは両親だった。

「規模云々で躊躇する程、お前が背負う物は軽くはないぞ」と。

「繋がりを深くしておく事は後々必ず力になるから、迷わず行きなさい」と。


母・環菜の実家で、幼い頃から面識があるからという理由だけではない。

隆一郎と宗重が剣道部の先輩後輩という間柄だからという理由だけではない。


将来を見据えるために己の視野を広げ、人間的に大きく成長して欲しい。

そんな、単純な親心が主な理由であった。



実のところ、両親の本心は「「ガッチリ揉まれてから帰郷しろ」」だったのだが、

余りにも直球過ぎるので本人には知らされていなかったのはここだけの話。

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