第18話 二人の帰り道

「んじゃ、私達は先に戻ってるね」

「それでは小次郎さん、後程あちらで」


そう言い残し、弥生と裕美子は一足先に鳴見神社へ向かった。

宮内庁への報告内容について、先代も交えた最終精査をするためだ。


自分一人だけとなり、蝉の鳴き声と小川の流れる音だけが聞こえている駅前。


「なんだか、今年の夏は色々と濃すぎた感があるなぁ・・・疲れた」

最後にふぅっと長めに煙を吐き出し、吸殻を灰皿に入れながらぼそりと呟いた。


「次は秋彼岸か。お盆ほどバタバタしないからまだ良いが・・・

 バイクで来るのも少々肌寒いもんな。ジャケット新調しなきゃなぁ・・・」


最終確認も兼ねて再度周囲を確認する中で、ふと駐車場の隅に目をやる。

植栽の陰で気付かなかったが、そこには轢かれたのであろう小動物の亡骸があった。

轢かれたままでは忍びない、せめて土の上にと誰かが移動させてくれたのだろう。



「ありゃりゃりゃ・・・可哀想に」

数秒思案の後、小次郎はその前に跪いた。


「誰も居ない・・・よな?」

周囲をキョロキョロと見回し、自分以外の気配が感じられないのを確認する。


深呼吸し、両手を合わせ「オン カカカ ビサンマエイ ソワカ・・・」と

地蔵菩薩の真言を3度唱え、そのまま深く深く頭を下げる。


すると亡骸は淡い光に包まれ、その姿をすぅーっと消していく。

完全に姿が消えた後には、小さな光の玉が残されていた。


壊れ物を扱うように、フワフワとその場に浮かぶ光の玉をそっと両手で包み、

そのまま立ち上がって自らの顔の高さまで持ち上げた。

そして風船を解き放つように、空へ向かってゆっくりと押し上げる。


光の玉がすぅっと虚空に消えるのを見届け、安堵の息を漏らす。

「よしっ、とぉ。これ位ならお許し頂けるとは思うんだが・・・ね」




ちょっとした番外編もあり、もう一本タバコを吸い終え、いよいよ帰り支度。

首をコキコキと鳴らし、ん~っと伸びをしつつヘルメットを手に取る。

ライディンググローブを装着し、かつて辰弥が大切にしていた車体に跨った。


念入りに手入れがされているCBR1100XX・・・通称 “ブラックバード”

漆黒の車体はスムーズにエンジンを始動させ、次第に回転数が落ち着く。


「さて、と・・・・俺達も帰るとするか・・・行こうぜ、相棒。

 一緒に行きたい所は沢山あるんだ。これからトコトン付き合って貰うぞ」


ライターを大切に胸ポケットに入れ、その上からぽん、ぽんと優しく叩く。

まるで、帰って来た友の温もりを確かめるように。



終わりゆく夏を惜しみつつ、文字通り『相棒と共に』帰路につくのであった。






「親父に詳細報告するのが怖いなぁ・・・・あ~、帰りたくねぇ・・・」



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