第16話 この土地である理由

「先輩が他の人に役目を譲らない理由、わかりました!

 こんな経験、他では出来ないです。コレは譲りたくないですよ!」


フンスフンスと鼻息荒く、裕美子は熱く語る。

仮に尻尾がついているなら、千切れそうな位振っている事だろう。


「お、おぉぅ・・・うん。そ、ソウデスカ・・・」

「あ~・・・やっぱりこうなっちゃうかぁ。そりゃそうよね。

 ある程度事前情報があっても、まず信じられないし。てか熱すぎるわユミちゃん」


裕美子の勢いに圧倒される小次郎、半ば呆れ顔の弥生。


「だって先輩、これは熱くなりますよぉ!神話の中だけと思っていた事が

 現実に起きてたんですからぁ!」


「わかったわかった。でも少し落ち着こう?一応コレ宮内庁直轄トップシークレットなのよ?」


「うぅ・・・わ、わかりました・・・そうですよね・・・スミマセン」

現実に引き戻す弥生の言葉に、シュンとなる裕美子。



「まぁまぁ弥生さん、それ位にしてあげましょう。興奮するのも理解できますし。

 俺も初めて見た時は似た様なものでしたから」

 (最も、俺の場合は後から親父にしこたま説教食らったけどな・・・)


如月家のお役目を父から聞かされ、実際に目にした時の自分の姿を思い出し、

苦笑いしながら小次郎は助け舟を出す。


「そう?小次郎君がそう言ってくれるなら良いんだけどね。内容が内容だし、

 ユミちゃんが極秘中の極秘って事を再認識してくれればそれでOKとしましょ」


「はい・・・肝に銘じます・・・」



「ん、いきなりアレ見ちゃって興奮するのは仕方ないからね。俺は大丈夫だよ。

 落ち着いたトコで、改めて概要のレクチャー進めて良いかな?」


裕美子が落ち着きを見せた所で、小次郎は話を切り出す。


「は、はい!よろしくお願いします!」

「ん。それじゃザックリだけど説明するね」

胡坐から正座に座りなおし、如月家の由来と儀式の概要を説明し出した。



三貴子みはしらのうずみこの一柱、月読命ツクヨミノミコトをその始祖に持つと伝えられている

“月を継ぎし一族”、如月家。

いにしえより『月の如き』と称されたその力は、読んで字の如く一族の苗字となった。


儀式において特級の正装を身に纏うのは、今代のツクヨミとして必要である事。

無論、歴代如月家の長子全てが身に纏えたわけではない。

歴史上、力を持ってはいるがその領域にまで及ばず、といった当主も存在した。

また、武士の時代には儀式が行えない『空白期間』も存在したのだという事。


儀式の性質上、現代の道具は使用不可である事。

それ故に、篝籠へは火之迦具土神カグツチの助力を得て点火を行い、

駅舎を起点として常世あちら現世こちらの境界線を作り出した事。


月待之祓つきまちのはらひ奏上による『御浄おきよめの儀』を行った後、

黄泉津大神イザナミノミコトへの奏上による『御迎おむかえの儀』

それによって“還りし者”達は泉津醜女ヨモツシコメに導かれて来るという事。

日待之祓ひまちのはらひ奏上をもって『御送みおくりの儀』の締め括りになるという事。


---そして---


御送みおくりの儀の最中は決して顔を上げてはいけない。

禁を破れば『常世に連れていかれる』という事。


---------


「・・・とまぁ、一族の由来と儀式の概要はこんな感じです」


「・・・・・・」


「ゆ、ユミちゃん?」

「あ、あれ?大丈夫ですか?」

微動だにしない裕美子の姿に、小次郎と弥生は心配そうに顔を覗き込む。



「あ、スミマセン!余りにも話の規模が凄過ぎて・・・なんというか・・・」


「アハハハ、そう来たか!」

「神代の話を知っていたとしても、確かに普通の話とスケール違いますからね。

頭から湯気が出ても不思議ではないなぁ」


「んもぅ、二人ともからかわないで下さいよぉ・・・」


そして3人は誰からともなく、大きな声で笑い出した。



「ひとつ気になった事があるんですけど、聞いていいですか?」

不意に裕美子が切り出す。


「(´・ω・)ん? 別に構いませんよ。答えられる事ならば」


「それだけの力を継がれてて、神社を大きくしようとか考えなかったんですか?」

なんとも、ズバッと切り込んだ質問である。


「あ、ソレは私も前から気になってた。なんで普通規模の神社なのかなって」


「う~ん・・・・何て言えば良いかなぁ・・・・」



暫しの後、小次郎は口を開く。

「継いだ力は地域の為に注いでこそ、だからでしょうかね。ガワだけ大きくして

 観光客を呼ぶ目的があるわけでも無いですし。地域の皆さんに護られてこそ、

 俺の代まで途絶えず続いて来た訳で。

 それに、この土地でなければいけないという理由もあるんですよ」


「「理由・・・?」」


「弥生さん、今更ですが、ここの駅の名前は何ですか?」

「平坂駅・・・だよね?」


「そう。それでは裕美子さん、神話において常世へ通じるとされる道は?」

「道・・・ですか?うーん・・・黄泉比よもつひ・・・あ・・・」


「あぁぁ!そうか!そういう事だったのね!」

全て合点がいったと、弥生が大きな声で叫ぶ。


「はい、お二人とも御名答です。」

小次郎はニコニコと微笑んでいる。



常世と現世を繋ぐ場所。

還りし者達が逢瀬を果たす場所。

平坂という地域が、“月を継ぎし一族”如月家を護ってきた理由。

如月家が、代々この土地で安息を護ってきた理由。


単なる地方の一地域だから、ではない。


平坂駅、ではなく。

すなわち --- 【平坂黄泉比良坂】 ---

かつてそう呼ばれたこの地域だからこそ、一族が根を下ろす理由になる。


イザ(ギ)・イザナの2柱を名付けの由来に持つ、鳴見神社。

その神社を継ぐ一族如月家として、この土地でなければいけないのだった。

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