第15話 掌上の出来事

『古継月一族 貢献多大鑑 此度失態 処不問

 汝精進一層 継月一族 尊名辱勿事』



いにしえより月を継ぎし一族の 多大なる貢献を鑑み 此度の失態は 不問に処す

 なんじ 一層精進すべし 月を継ぎし一族の たうとき名を辱める事勿ことなかれ』


現代語に訳すと、このようになる。



思い返すと、至らない点は山ほどある。


動揺して頭を上げそうになったり、

声を掛けそうになったのを我慢したり。


当然の事ながら、最上神は全て御覧になられていた。


幼馴染である辰弥が禁を破り、小次郎の肩に触れた事も。

また、小次郎にライターを返した事も。


それら全てを把握したうえで、

『これまでの一族の貢献に免じて、今回の失態については目を瞑ります。

 ですが一族の名を決して辱めてはいけませんよ。しっかり精進するのですよ』と、

当代である小次郎を鼓舞して下さっているのだ。



神事における出来事は到底隠し立てなどできない。

それはまるで、掌上の出来事のように。


『ちゃんと見ていますよ』

『頑張るのですよ』

『一族の誇りを忘れてはいけませんよ』


文面以上の重圧が伝わってくる。


一族の始祖と伝えられている『御方ツクヨミノミコト』をすっ飛ばし、

まさか最上位である黄泉津大神イザナミノミコト直々の書簡を賜るとは思ってもおらず、

小次郎は暫し放心していた。



「辰弥ぁ・・・何て事しやがったんだよぉ・・・とんでもねぇ事になったぞ・・・

 “尊き名を辱める事勿れ”なんて、完璧に問題児が叱られてるじゃんコレ・・・」


最後の一文が余程強烈なインパクトだったのであろう。

半ベソの様な表情になりながら幼馴染へ愚痴り、

そしてそのまま、へなへな、ぺちゃんと力なく座り込む。



・・・残念ながら“大いなる母”の意はうまく小次郎に伝わらなかったようだ・・・



不意に、さぁっと一陣の風が吹き、手に持つ葉っぱが風に攫われる。

それは高く舞い上げられた後、すうっと虚空へ消えていく。


「はぁ・・・親父の拳骨確定案件じゃないか・・・・」

帰宅後に行う父への報告と、その後の『教育的指導』も含め想像して

肩を落とし佇む小次郎は、どんよりとした雰囲気を醸し出していた。




「もぐもぐ・・・と、いうわけなんですよ。んぐ・・・ハァ・・・・」

詰め所に戻り、弥生と裕美子が準備していた遅めの朝食を食べながら経緯を話す。


「うわぁ、よりによって最上位からの書簡なんて、そりゃビビるよねぇ・・・」

「あまりにも想像を超え過ぎてて、私もうバグっちゃいそうですよ・・・」

気の毒そうな2人の視線が小次郎に向けられる。


「俺もう消えてしまいたいです・・・・」

至らぬ点をど真ん中直球で、しかも最上位の存在から書簡まで賜って、

恥ずかしいやら情けないやら。




その後はなんとか落ち着きを取り戻し、三人は宮内庁への報告内容について

数刻の間アレコレと相談をするのであった。

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