第12話 遺される、託されると言う事

「そんな馬鹿な・・・何故コレがここに・・・・」

近付き、ライターを手に取る。


間違い無い。

2年前の夏の日、アイツに貸したライターだ。


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『なぁ小次郎、ちょっくらライター貸してくんね?』


『お前、またかよ。いい加減にマッチ使うのやめりゃ良いのに』


『だってよぉ、映画のシーンみてぇで格好イイじゃん。なんか渋いし』


『・・・ったく、ハードボイルドに染まりすぎだっつの。ホレ、ちゃんと返せよ?』


『悪ぃな、後で必ず返すよ。オイルも補充すっから』


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そのまま、アイツは現世うつしよを去ってしまった。


子供が生まれたという一報を受けて、妻子の元へ急ぐ途中に。

病院の目の前で、飲酒・信号無視の暴走車に撥ねられ、呆気なく。


『小次郎、小次郎!オレ、とうとうパパになるんだぜ!』

『エコー見たけど、男の子らしいぞ!』

『なぁ小次郎、名付け親になってくれねぇか?』


そう、言っていたのに。



「・・・そう、か。そういうことだったのか------」


儀式の際のイレギュラーが、全て繋がった。

御送みおくりの儀式の際、肩を叩いたのは幼馴染だったのだ。


触れることが許されていないのに、その禁を犯してまで自分の肩を叩いた。

遺したい物、どうしても伝えたい事が有ったのだろう。


”しばらく借りっぱなしだったけど、返すぞ”

”嫁さんと息子の事、見守ってやってくれよ”

”頑張れよ”


全てが繋がった今、手の中のライターから想いが伝わってくる。


「なんで逝っちまったんだよ・・・辰弥・・・」

ライターを握りしめ、常世とこよへ旅立った幼馴染に想いを馳せる。



半刻ほど後、着替え終えた小次郎は駅舎の外に向かった。


境界線の役割を終え、燃え残っている篝火は夜明けと共に小さくなっている。

着替えて出て来た小次郎の姿を見て、人々は篝籠の脇を通り中央に集まっていた。


「今回の儀式も滞り無く、無事終える事が出来ました。炎天の中お集まり頂き、

 皆様の御理解と御協力に深く感謝いたします」

小次郎はそう言って人々へ深く頭を下げる。


「御当主様、お疲れ様でございました。」

「御役目、ありがとうございました」

「ようやくあの人に逢えました」

人々は口々に感謝の言葉を述べる。


異質な力を受け継ぐ自分だけでは儀式は成立しない。

地域の理解と協力、何より助けが無いと継げる物も継げなくなってしまう。


実際、外部からアレコレ詮索が入る事も珍しくは無い。

そのような、いわば“外敵”から地域全体で如月家をガードしているのだ。

ある意味、“平坂という地域全体が如月家の護り手”であると言えよう。



儀式後の語らいを終え、人々は三々五々、帰路につく。


祭壇の準備・撤収は当主の役目だが、篝籠の撤収は地域の者も協力して行うため、

かなり早い時間で終える事が出来た。

小次郎はそれを見送りながら、幼馴染辰弥の妻子、亜紀とかけるに声を掛けた。


「亜紀さん、儀式の最後にアイツが置いて行きました。使うか使わないかは

 判らないですが、いつかコレを翔くんに渡してあげて下さい」

そう伝え、手渡す。


受け取ったライターを愛おしそうに掌の中で見ていた亜紀であったが、

ある事に気付き、悪戯っ子を見るような、優しい笑みを浮かべる。

そして渡されたライターを小次郎へ差し出し、ニッコリ笑って

「小次郎さん、コレは貴方が持っておくべきですよ。裏を見て下さい」と言った。



「裏って・・・・え・・・・?」

小次郎は手元に戻されたライターを引っ繰り返し、裏側を見てみる。



そこには、こう書かれていた。



【相棒 またな!】

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