第8話 還りし者

チリン・・・・

チリン・・・・

チリン・・・・シャン・・・


チリン・・・・

チリン・・・・

チリン・・・・シャン・・・



線路の先にぼうっと灯りが見え始めると共に、鈴の音が聞こえて来た。

それは徐々に此方側に近づいて来る。


灯りの正体は、提灯を手に持った白装束姿とおぼしき一団。

しかし、その身に纏う雰囲気はこの一団が現世うつしよの存在にあらざる事を示していた。


線路の上を進み、灯りがホームの端から上がって来たのを確認すると、

小次郎は祭壇の中央に配置してあった一振りの剣を手にする。

そして祭壇に背を向けて改札の手前まで進み、静かに目を閉じた。



鈴の音はどんどん小次郎の背後に近付き、

『シャン!』『シャン!』『シャン!』と3度、大きく鳴ってその音を止めた。




鈴の音が止んだ後、一拍置いて小次郎は手に持った剣を抜き、

身体の前に立てて、口を開く。



常世とこよより 束の間の逢瀬を求め 還り来たりし先達よ


ツクヨミの導きにて 貴殿達の願いを 引き受けたてまつ


願わくば 現世うつしよに留まりし者達へ 一廉ひとかどの安息を


願わくば 常世とこよより還りし貴殿達へ 一廉ひとかどの安息を


護り手として 御願おんねがい申し上げたてまつ




“御迎えの儀”としての言葉を述べ終えると、小次郎はゆっくりと目を開き、

剣を立てたまま、改札を抜けて駅舎の中へ進んだ。



小次郎が手にしている剣。刃長は2尺2寸。

左側には太陽、南斗六星、南神朱雀東神青龍が刻まれ、

右側には月、北斗七星、北神玄武西神白虎が刻まれている。


歳在庚申正月歳は庚申正月に在り 百済所造くだらのつくるところの 三七練刀

南斗 北斗 左青竜 右白虎 前朱雀 後玄武

辟深不祥深く不祥を避け 百福会就 年齢延長 萬歳無極万歳極まり無し


漢文でそう銘打たれている剣は、その名を日月護身之剣じつげつごしんのけんと言い、

かつては三種の神器とともに代々の天皇へ受け継がれてきた宝剣であった。


歴史上は、960年(天徳4年)村上天皇の時代に起こった朝廷の内裏火災によって

焼けたと伝えられているが、実は密かに如月家へ受け継がれていたのである。



小次郎が改札を抜けると、背後で提灯と鈴を持った先頭の白装束が向かい合い、

後ろに続いていた白装束が、一人また一人と、その間を通り駅舎の中へ進む。


改札を抜ける瞬間、淡い光と共に白装束から普通の服装へと変化を見せ、

小次郎の背後に一列に並ぶ格好になった。

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