第7話 御迎えの儀

月光のように淡い光に包まれた、小次郎。


次第に明るさは増していき、周囲を優しく照らす程になった。



「わわわゎ、せ、先輩、凄い!凄いですよ!」


「ユミちゃん、しっ!気持ちはわかるけど、今は我慢よ」


初めて目にする光景に、裕美子は驚愕している。

弥生は神事の妨げにならぬよう、懸命に裕美子を窘めていた。



一方、篝火の傍に集まる人々の大多数は全く驚く素振りを見せていない。


光の衣を身に纏った小次郎の姿を初めて目にするであろう少数は、

裕美子と同様に「凄ぇ・・・」「うわぁ・・・」と驚愕の声を上げているものの、

同行者に窘められていた。


それ以外の人々から聞こえてくるのは、

「嗚呼・・・御当主様・・・」「月読様・・・」と有難がる声。

年配者にあっては合掌し頭を垂れている人も居る程だった。



半円状に設置された篝火に沿って、言葉は発せずにゆっくりと歩く。

人々はその姿に魅入られたかのように、小次郎を目で追っていた。


篝火を回り終えて駅舎へ向かおうとした所、母親に手を引かれた幼子が目に入った。

年の頃は2歳前後といったところだろうか。


(アイツが去ってから、もうそんなに経つのか・・・。道理で大きくなってる訳だ)


友人の顔を思い浮かべ、懐かしさに口の端を緩ませつつ、小次郎は駅舎へ向かった。



日も落ちた駅舎の中は明かりも点いておらず真っ暗。

唯一、祭壇脇の提灯だけが朧ろ気に周囲を照らしている。


その中を、光を纏った小次郎はホームへ向けて改札を抜け進んで行く。

その歩みは厳かに、かつ神々しく。



そして、ホームに設置してあった祭壇の前で立ち止まり、先程のものとは

異なった祝詞を奏上し始めた。



掛巻かけまくも かしこき 伊邪那美乃大神いざなみのおおかみの 大前おおまえに 


かしこみ かしこみ も まをさく


大神おおかみの たかき とうとき 大御稜威おおいみづを 


したい まつり おろがまつる このさまを そなわして


いまも さきも 大神おおかみ


ひろき あつき 恩頼みたまのふゆを かがらしめ


まもり まもりに まもり さきわえたまへ と


かしこみ かしこみ も まを



祝詞奏上を終えると、再び辺りは静寂に包まれた。


不思議な事に、先程まで聞こえていた虫の鳴き声すら聞こえない。



それから、どれ程の時間が過ぎただろう。


山側に延びた線路の延長線上に、ぼうっと小さな明かりが灯った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る