第9話 逢瀬

“還りし者”達を従え、小次郎は駅舎の外へと歩を進める。


一列になったまま篝火に沿って進んでいくうちに、

それぞれの“想い人”の前で、一人、また一人と列を離れていく。


そして、束の間の逢瀬が始まったのであった。



『ああ・・・・お父さん!』

『ずいぶんと大きくなったな・・・皆、元気でやってるか?』


『兄さん・・・・会いたかった・・・』

『とうとうお前に年齢越されちまったなぁ。親父やお袋は変わりないか?』


『母さん・・・母さん・・・』

『あらあら、白髪交じりになったと言うのに、相変わらずアナタは泣き虫ねぇ』



常世とこよより還りし者達と、現世うつしよに留まりし者達。

その両者が、一堂に会している。

通常では有り得ない事が、この場で起こっているのだ。


涙を流しながら笑っている者もいる。

ただただ泣きじゃくる者もいる。

笑顔で頷いているだけの者もいる。



小次郎はそれぞれの逢瀬を優しく見守りながら、

篝火に沿って順番に薪を追加していく。


『アナタ、見て。こんなに大きくなったのよ』

その声に、ふと視線を向ける。


『えぅ・・・・ぱぁぱ?』

母親に手を引かれた幼子が、目の前の父親を見つめる。


『おぅ、そうだ。パパだよ。抱っこしてやれなくてゴメンなぁ・・・』

そう言って残念そうに下を向いてしまった。



それは小次郎の言う『アイツ』

幼少期を共に過ごした、幼馴染であった。

小次郎は思わず声を掛けそうになるが、グッと堪えて唇を噛みしめる。



篝火の内側は常世とこよ

篝火の外側は現世うつしよ

小次郎が執り行う儀式により、本来なら交わる事の無い両者が逢瀬を果たす。


しかし、両者が触れ合う事は決して許されない。

文字通り、篝火の延長線が境界線となっているのだ。


そして、両者の間に他者が声を掛ける事も許されない。

例え・・・それが儀式を執り行う神職と言えども。



それでも、愛する人との再びの逢瀬を求める者は後を絶たない。

無論、望めば誰でも良いと言う訳ではない。厳格な掟があるのだ。


 ①ここ平坂の地にえにしのある者

 ②周囲との関係性が良好であったと認められる者

 ③秘匿事項を他言しない、信頼出来得る者

 ④地域の者2人以上より推薦を受けし者


そして最後は外部権力に対しての警告。

 ⑤外部からの如何いかなる力も、この神事への干渉を禁ずる


これらの条件を踏まえて神社の総代会で審議が行われ、

先代当主が存命であれば先代当主の権限によって最終選抜が行われているのだ。



(そうか、親父め・・・俺への最終試練って訳かよ)


通常であれば、誰を選抜したかというのは今代当主にも共有される。

だが、幼馴染の妻子を選抜した事だけは今の今まで知らされていなかった。


情に流されやすい小次郎の性格を把握した上での試練が課されていたのだ。




そして篝火へ薪の追加を何度か繰り返すうちに、


月は西に傾いていた・・・・

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