5. 創作で許される演出

 創作物において、全て現実の法則通りに描かれるとは限りません。

 言語・法律・物理法則・思考形態、創作物では現実に即さないまでも、創作物だからこそ許されている表現があるかと思います。

 例えば、

・車を撃ったら爆発炎上

・刀で斬られて即死

・主人公には当たらない銃弾(でも敵には当たる)


 だいぶ偏ってますが、上のことってあまり言及されることは少ないと思います。

 これは「リアルさ」よりも「演出」が重視され、且つ真っ向から批判するほど違和感のある現象が起きているわけではないせいかと思います。

 

 例をひとつずつ見ていきます。

 車を撃って爆発する演出は、もうお約束のひとつですが、あれはぱっと見ておかしくなさそうと思う方もいらっしゃるかと思います。

 弾が当たると火花が散って燃料に引火して爆発する。

 特におかしくなさそうに聞こえるかもしれませんが、弾が燃料パイプや燃料タンクに当たるか、そのルートに火花が散らないとまず爆発しません。しかも、運よく燃料タンクに当たったとして、燃料が多く残っていると爆発は難しいです。大学時代に先生が言っていましたが、「一番危ないのは燃料満タンじゃなくて、カラになっているとき」です。どういうことかというと、カラの燃料タンクには残留している燃料が気化し、空気と混合しているため、少しのエネルギーで爆発が起きやすいのです。逆に燃料満タンなら、発火して燃えることはあっても、爆発するのはその発火から時間が経って、気化したガスが外気と混合した時です。

 映画『ラストアクションヒーロー』ではシュワちゃんが「派手な爆発見せてやるぜ」と言って車を撃つも、一向に爆発しないとかやってましたね。

 これは、もしかしたら知らないで映画が撮られていた可能性もありますが、最近でも描かれていることを見るに、『演出重視』で爆発させてるんじゃないかな~、と思っています。その方が見栄えがいいですからね。


 続いて、刀で斬られて即死についてです。

 時代劇では今も昔も変わらず、斬られればその場で倒れて動かなくなるのが定番になっています。特にモブ相手には。

 断っておくと、刀で斬られても死なない、ではありません。

 斬られれば当然出血しますし、内臓を損傷することもあるでしょう。ですが、それって斬られた瞬間死ぬかという話なんですが、失血死にはまず時間がかかります。太い動脈を斬られた際にはその時間が極端に短くなりますし、致死量の出血よりも先にショック症状を起こして死ぬ場合もあります。時間はかかりますが。

 内臓を斬られても、即死するわけではありません。苦しみながら、助かる見込みないままじわじわ死んでいくことでしょう。でないと、切腹の時に介錯なんていないです。

 首が切断される、心臓を一突きなどされれば生命維持できずに時間を置かずに死ぬでしょう。ですが、背中を袈裟に斬られても痛いだけで、斬り合いの後にそのまま家に帰った人もいたらしいです。

 なので、本当にリアルに描こうとするならば、斬り合いの後の現場には「うぅ…」「いてぇ」と呻き、「おれ、このまま死ぬのか…」「苦しい、いっそ殺してくれ」みたいなのばっかりにした方がいいのか……。演出次第ですね。

 これは、知識どうこう以前に、「斬られたから死んでおけ」みたいな方が都合がいいからそうしているに過ぎないのかと思います。

 拳銃弾受けても当たり所悪くなければ死ぬとは限らないよ、みたいなことあるので、銃にも同じこと言えるかもしれません。(銃弾の種類によります)


 最後に、主人公には銃弾が当たらない。

 これはもう物語進行の都合でしかないですね。

 ただ、味方の銃弾は当たる、の部分についてはひとつ思っていることがあります。

 現実には制圧射撃という手法があります。

 これは、マシンガンなどで継続して射撃することで、敵を威嚇・釘付けにしてプレッシャーを与えることで友軍を援護することを言います。

 あくまで相手への牽制目的なので、「敵を射殺する」ことではなく「撃たせない」ことや「出てこさせない」ことを目的にしています。

 ですが、映画などでいくら撃っても全然当たらない。それどこをか、顔を出してもいない敵に向かって延々と撃ち続ける様は「画にならない」わけです。

 だから、味方の弾が当たるというのは、進行上仕方ないかなと。

 敵の弾が当たらないことをご都合主義という人もいますが、恐らくその辺りの「お約束」を緩めると、『レッドウイング作戦』みたいな隊員19名戦死、のような作品ばかりになるのではないでしょうか。(私は本作好きですが)



 以上、いろいろ書きましたが、「本当はおかしいこと」が創作物で起きても、専門家ではない人からすれば「そうかも」と思い、そのまま享受されているわけですね。

 過去の項目でも書きましたが、結局「8割がおかしいと思う現象」は批判され、「1割だけおかしいと思う現象」は「オタクが騒いでる」と思われるんでしょう。




 ちなみに、私は映画を見るときに「装弾数以上撃ってるじゃん」とか何発撃ったか数えたり、「なんで昔の映画って腰溜めに突撃銃構えるんだよ」とか言う面倒くさい人のひとりです。

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