第30話

あの後、俺がなんでモテないか居酒屋で聞いて回っても「サハラさんだから…ですかね」とみんな一様に顔を逸らして言った。

なんでや。

それはそうと俺が米が食べたいばかりにバルロットさんに駄々をこねて干渉せず微妙な関係だった近隣国であるサカラハ国とナタハリ国との関係は、いい方向に進んでいっているらしい。

三ヶ国はお互いの国に無いもの、有るもの、知識や物資を交易したりして少しづつ以前のようになりつつあるとのことだった。

おかげで白米はサカラハ国の移住区域や移住者だけじゃなくイグニクス国の人々も気軽に手に入るようになったし、俺も食品店で購入して食べられるようになったり居酒屋でも気軽に食べられるようになった。

あの時、白米が食べたいばかりにそれらしいことを言い並べて駄々を捏ねて良かった。

俺、チーズと土鍋しか布教してないし過去の味噌や醤油を広めてくれた地球の日本人より調味料的に役立ってないと思ってたけど三ヶ国を友好にしたりと世界規模で役立っている!偉い!

俺が自画自賛しながら街の食堂で白米と海苔と味噌汁と焼き魚の定食を食べているとノイシュくんも入店してきた。

「おー!ノイシュくん!」

「サハラさん。…相席いいですか?」

昼時とあって混んでる店内を見回したノイシュくんは俺が座っていた二人掛けの席に人を分けてきた。

「いいよ。今日の定食は焼き魚だよ」

食べている定食を見せながら言うとノイシュくんも同じものを定員に注文した。

「休日に偶然会うなんて久々ですね」

「俺もノイシュくんから教えてもらった店を足掛かりに色々開拓して行動範囲広くなったしなー。この店はノイシュくんが教えてくれたんだっけ。ありがとうな」

「どういたしまして」

なんて話をしているとノイシュくんの分の定食が届いたので食べ始めた。

「そういや昨日、精霊と契約したんだよね」

「……サハラさん。そういう重要な事はきちんと報告してくださいね?」

ノイシュくんが箸を置いて説教モードに入る。

やばい。これってきちんと報告するべき話だった?いや、今言ったし許されたい。

「ちなみになんの精霊ですか?火属性?風属性ですか?」

「そういや聞いてなかったわ」

「サハラさんって本当にサハラさんですよね」

渋い顔で味噌汁を飲むノイシュくんに、このままだとバルロットさんにもチクられて二人揃っての説教コースだ。

精霊って契約したらいけなかったのか?

「セイ、いる?」

「いるぞ!」

セイが突然現れたのを目の当たりにしたノイシュくんが味噌汁を気管支に入れてしまったらしく咳き込む。

「大丈夫か?」

ティッシュを差し出すと、ありがとうございますと礼を言いながら口の周りと周囲を拭く。

「そちらが契約した精霊ですか?」

「そうだぞ!リツと契約してセイと名付けられた!新しく見る人間だな。リツの知り合いか?」

「そうそう。友人で仕事の同僚」

「……ノイシュと申します。よろしくお願い致します」

ノイシュくんが深々と礼をする。

この言動。

もしやこちらの世界的に人間より精霊の方が上なのか?

「サハラさん。精霊は普通の人間には見えません。このままでは我々は何もないところに話し掛ける不審者二名になってしまいます」

「よし分かった。うちに行こう」

俺の適応力も慣らされたものだ。

二人で急いで定食を食べ、セイも白米と焼き魚を少し食べてみて「クッキーが一番だな」と言いながらパクパク食べた。


揃って俺の自室に戻ると契約した時のこととついでに黒い魔女であるノアくんと会った事、セイとリリィはもう顔合わせ済だということも言っておいた。

黙っておくと怒られそうだし…て思ったのにもう既に正座で怒られた。

「報告、連絡、相談!基本でしょう!」

「いや、全部つい昨日とかそんなレベルだしそんなに怒ることでもなくない?ノアくんもそんなに悪そうな子じゃなかったよ」

「問題はそういう事じゃないです!」

プンスカ怒るノイシュくんにノアくんとセイ用のクッキーを差し出したら怒りながら食べ出して次第に大人しくなった。

…凄いな、クッキー。万能薬じゃん。

これからは数種類買い溜めておこう。

「もぐもぐ……まぁ、済んでしまったものは仕方がありません。今後このような重大な事が起きたら僕かバルロットさんに知らせてくださいね!」

「分かったよ」

セイもクッキーを小さな体で食べている。

やっぱりペット的な癒しがある。リスとかハムスターってこんな感じだよな…。

しかし、すっかり馴染んでしまっていたけど、俺ってば異世界に来ちゃってたんだよなぁ。

白米、海苔、味噌汁、焼き魚があっても異世界は異世界なんだ。


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