第21話

「と、いうことで過去の人が作った対魔王リリィ用の武器は俺の家でハンガーラックの上部になっています」

一応、国のものだしバルロットさんとノイシュくんに報告しておかなきゃいけないかなと思って昼休憩の時に弁当を食べながら報告したらバルロットさんもノイシュくんも途中から顔を伏せた。やっぱまずかったかな?

「サハラさんって、そういう人ですよね」

「ええ、そういう人ですね」

二人は揃って顔を上げると眉間に出来た皺をほぐすように揉んだ。

そういやこの二人叔父と甥なんだよな。

顔も似てるとこあるしこういうところで血縁関係感じるよな。

「これも勇者の運命なのか単なる偶然なのか……どちらにしても今あっても問題の種になりかねません。サハラさんにお預けします」

バルロットさんがそう言うなら俺がこのまま預かろう。元からリリィを傷付ける品なんて他の人間には危なくて預けられなかったからちょうどいい。良かった。バルロットさんと口論にならなくて。

そのことをバルロットさんとノイシュくんに言ってから改めて宣言する。

「俺は、リリィを傷付けたくないです」

魔王を倒す勇者である俺が言うべきセリフじゃないかもしれない。

でも、リリィも大切な友人だ。争いたくない。

「こちらとしても今更魔王を倒すなんて考えていませんよ」

バルロットさんは息を吐いた。

俺達のやりとりを見ていたノイシュくんが小さく笑いながら言った。

「対魔王用の他の武具もサハラさんなら見付けてしまうかもしれませんね」

そうか。武器だけだと生身の人間が魔王であるリリィに勝てる筈がない。

身を守る防具とかもあるんだろうな。

それもリリィに危害が及ぶようなら回収して俺が管理したい。

でも、大昔のデザインなんてダサかったらどうしよう。

武器はハンガーラックで活躍してくれているけど防具なら着る物だよな。…置く場所あるかなぁ。ていうか部屋に馴染んでくれるかなぁ。

でも、どこにあるか分からないなんて。

「国で管理してなかったんですか?」

バルロットさんは難しい顔をした。

「あの頃は色々あったと聞きますし、どこか安全な場所に隠したのでしょう」

それはリリィからリリィを倒す武具を守る為に、だろう。

そして今は魔王を倒す筈の勇者である俺がリリィを倒す武具を回収してリリィに危害を加えないようにしようとしている。

昔の人の思惑と大きく外れたな。

でもまぁ、難しい事は後回しだ。

とりあえず。

「今夜はうちに来て鍋しません?」

誘ってみたらノイシュくんが食い付いてきた。

「僕、土鍋でお肉と野菜を蒸した料理が好きです。ちょっと辛いソースをかけて食べると美味しいですよね」

「じゃあ今日は蒸し料理だな。バルロットさんも来ます?」

「そうですね…急ぎの仕事もないですしいいお酒が入ったのでお邪魔させていただきます」

「いいお酒!バルロットさんが言ういいお酒は本当に美味いやつだから楽しみです!」

「そこまで期待されると困りますね」

なんて言うが本心では困っていない。

何故なら本当にいい酒を持ってくる気だからだ!

こうなったら食材も肉を奮発しよう。

土鍋、大活躍だな。作ってもらって良かったな。


なんて思っていたらリリィとカシワギさんがまた帰宅を待ち構えていて俺のそんなに広くないアパートで土鍋を囲んだ小さなパーティーになるなんて思っていなかった。

だけど、やりたかったことが出来た!

みんなで土鍋を囲んで料理を楽しむ。

ソファを買っておいたおかげで全員座れる。

それにしてもノイシュくんとバルロットさんとリリィとカシワギさん。

みんなでわいわい出来るのなんて本当に奇跡みたいなもんだよな。

人間と魔族でも、こうして一緒の料理を楽しめる光景をずっと見ていたい。

俺が今更勇者として召喚されたのは、こういうことなんじゃないんだろうか。

「リツ!何をぼさっとしているのだわ!お肉が無くなりそうなのだわ!」

「はいはい。継ぎ足しまーす」

残りの肉を入れてまた蒸す。

その間に各々が喋る。

楽しいな。

こうしている時間が俺にはなにより大切だ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る