第20話

「はぁ……」

昼食時に盛大なため息を吐いた俺をノイシュくんが心配してくれる。

「どうしたんですか?サハラさん。食あたりですか?」

「ノイシュくんは俺をなんだと思っているのかな?」

「冗談ですよ。それよりも、本当にどうされたんですか?」

お茶目な顔から少し心配そうな顔になって、俺はため息の理由を話すのが申し訳なくなってきた。

「そんなたいしたことじゃないんだけど…婚活が上手くいかなくて……」

俺が言い終えるとノイシュくんは微妙な顔をした。ほらみろ!そういう顔をすると思った!

「冒険者の女性でも駄目なんですか?サハラさんに気後れしそうな方はいそうにありませんけど」

その言葉に頷く。

「うん。みんな飲み仲間になっちゃった」

また微妙な顔をされた。されると思った!

「それになんかこう、結婚を意識出来る女性じゃなくて仲間意識が芽生えちゃって駄目なんだよなぁ」

「コンカツなんて不純な動機で冒険者登録するからですよ」

「でも美味いよ、ギルド飯」

「胃袋は掴まれたんですね」

作ってるマスターは男だけどな。

俺は再度ため息を吐いたが、今度はノイシュくんはなんの心配もしなかった。

しかもその晩に上着をハンガーラックに掛けようとしたら上部のところが真っ二つに折れて俺の衣類がドサッと真ん中に雪崩れ込むように落ちた。

ため息のタネが増えたなぁ。

新しいの買うか、適当な棒でも買ってきて代用するか……幸い、サイドが斜めに重なるようになっている上に棒を乗せただけのハンガーラックだったので上部の棒をなんとかすれば買い替える必要もなさそうだし、いいのがなければ適当に棒で代用しよう。


婚活に失敗していても冒険者として活動するのは楽しい。

知らない事や場所がまだまだ多くて地図付きでどこに何があるか教えてくれるから重宝している。

その日もギルドに行ったら受付のお姉さんが申し訳なさそうに依頼書を出してきた。

「サハラさんにお願いするような依頼じゃないんですけど、他に引き受けてくださる冒険者がいないので…」

斡旋された依頼は初級の初心者ダンジョンの最下層に自生している薬草を摘んでくるという簡単な物だった。

「最近魔獣が活発していて薬草もそれを使用して作成するポーションも足りてないんです。お願いしてもよろしいでしょうか?」

魔獣が活発しているって、リリィは大丈夫なんだろうか?

平和を望む魔王が魔獣の活発化を見過ごしているとは思えない。

「喜んで引き受けるよ」

なによりこれは人命に関わることだ。

俺はすぐに指定されたダンジョンに向かおうとしたが、顔見知りになった冒険者に声を掛けられた。

「サハラさん、ダンジョンに行かれるんですか?」

「うん、そう。薬草集めの依頼を受けたんだ」

「サハラさん程の実力がありながら…!いやでももしかしたらサハラさんなら出会えるかもしれませんよ」

耳をよこせとジェスチャーされたので素直に従う。

「実は、伝説の武器っていうのがどこかのダンジョンに眠っているらしいですよ」

こっそり伝えられた噂話に眉を顰める。

「伝説の武器?」

またそんな眉唾な話を……と思ったがここはファンタジーな世界だ。

あるかもしれない。

リリィも昔の人間が対魔族用の武器を開発したとか言ってたしな。

それが伝説の武器として伝わったとか?

伝承なんて出自もあやふやなもんだしな。


そんなわけでてくてく歩くと街から然程遠くないダンジョンに辿り着いた。

こんなところに薬草が自生するダンジョンがあるなんて知らなかったなぁ。

単身乗り込んだダンジョンの途中の階層でふと風の流れが違うところを感じた。

行ってみると隠されるように蔦が生茂り、奥に何かありそうな雰囲気だった。

ここまで来たし、せっかくだから全部探索してみるか。

俺は蔦を切り中へと進んで行った。

しばらくすると開けた場所に出て、真ん中に一本の剣が岩に突き刺さっていた。

なんかこう、いかにもって雰囲気でダンジョンの中なのに剣の周囲だけ光って見えていた。

「やっべー。これ、伝説の武器だったらどうしよう」

とりあえず抜いてみようと柄に触るだけで凄まじい力を感じる。

あ、これ伝説の武器だ。

本能でそう感じた。

抜けるかな。抜けそうだな。よし、抜こう!

「よっこいしょ」

剣は伝説というわりに簡単に抜けた。

これは俺が勇者だからだろうか?

しげしげと見ると鞘も柄も意匠が込められていてそれだけで作品のようだった。

だけど、これは駄目だ。

「本来魔王を退治する勇者である俺が、魔王であるリリィを倒すために作られた武器を入手したと分かると悲しむよな」

俺がリリィに危害を加えないと言葉を尽くしても、結果として俺は剣を手に入れてしまった。

やはり、これを見なかったことにしてここに戻すか。

いや、俺なんかが見つけたくらいだ。他の誰かも見つけるかもしれない。

そしてその誰かがリリィを傷付けるかもしれない……。

「……それは、嫌だな」

この剣は俺が預かろう。

平和的に、扱わないように、部屋の片隅にでも置いておこう。

ごめんな、過去に魔王を倒そうとした人々。

それでもリリィは悪い奴じゃないんだ。信じてこの剣を預けてくれ。

俺は言い訳がましく剣を持ち元来た道を戻ってダンジョンの最下層まで探索した。

依頼の薬草を規定分摘んでリュックに詰めるとギルドからのミッションは無事達成出来たし思わぬ物を手に入れられたので今日の探索は大成功だろう。


「これでよし!」

それにしてもジャストサイズだったな。

伝説の剣は、俺の部屋でハンガーラックの上部として使われている。

衣類も掛けられていてとても伝説の武器には思えない。

ごめんな、伝説の武器。

来月の給料が出たらちゃんと新しいハンガーラック買うから。


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