第22話

昼休みに弁当を食べながら、そういえばノイシュくんに言っていなかったなと思って世間話のつもりで話を振った。

「最近、みんなで食事する機会も増えたし女性職員に聞いた料理教室に行ってみようかと思うんだ」

「……ご相伴に預かり過ぎてすみません」

ノイシュくんが頭を下げた。

「いやいや、気にしないでくれよ。俺も楽しいんだし。むしろもっと食べていってくれよ」

笑ってノイシュくんの髪をぐしゃぐしゃに撫で回すと慌てて直される。

もうさすがに成長期じゃないけどノイシュくんにもリリィにもたくさん食べて欲しい。

バルロットさんやカシワギさんと酒を飲みながら食べる食事も楽しい。

「それにこの国や他国の料理のことも知りたいしなー。未だにメシ屋に行ってどんな料理か分かんないのもあるし、食べたら美味いやつもあったから自分で作れるようにもなりたいし」

どう扱っていいか分からん食材は馴染みの店で聞いたりしてるけど、食いに来て調理方法教わるのも申し訳ないもんなー。

「と、いう訳で俺の料理の腕が上がるのを期待していてくれよ!」

渾身のドヤ顔で言ったら少し呆れながらもノイシュくんは楽しそうに笑ってくれた。

「レパートリーに辛いの増えるの期待しています」

「案外辛党だよね、ノイシュくん」


そんなこんなでやって来ました料理教室の体験会。

前に来た時の事前予約の段階で思ってたけどやっぱり女性の方が多いな……。

なんとなく数名いた男性の側に近寄ってしまうこのアウェイ感。

早く始まって解放されたいと食材を眺めながら思っていると先生が入って来た。

「こんにちは。本日の体験教室を担当をします、リーシャと申します。今日は一日よろしくお願いします」

……えっ!?めちゃくちゃ好みなんだけど!?

久々の胸のときめきにドキドキしてきた!

お近付きになりたいと思っていたら周りの男性陣もリーシャ先生に目が輝いていた。

ライバルが多い!

そしてそんな俺達を見て女性陣はリーシャ先生にちょっと反発心が生まれてしまったみたいだった。

いや、女生徒さんも綺麗な方が多いけどリーシャ先生が好みドンピシャなだけなんだ。

「それではまずは手洗いから始めましょう」

リーシャ先生のその言葉で料理教室の体験が始まった。


綺麗に手洗い殺菌して食材を切っていく。

「サハラさんは手付きがいいですね。普段からお料理されてるんですか?」

「はい。食べることが趣味なので、自炊もしています」

「そうですか、素敵ですね」

微笑んでくれるその笑顔にキラキラしたエフェクトが掛かる。

「リーシャ先生は、どんな料理がお好きですか?」

本当は男性の好みを聞きたいが、そこまで親しくないしがっついていると思われたくない。

「そうですね…煮込み料理が得意ですし好きですよ」

にっこりと営業スマイルと分かっていても微笑まれて好きと言われると胸の辺りがギュッとなる。え。まじで惚れそう。

ドキドキしながら食材を切り終えて次の指示に従う。

切り刻んだ食材を下味付けた鍋に放り込む。

ぐつぐつ煮こむのを見ているこの時間がわりと好きだ。

……もしかしてリーシャ先生と共通点か!?

これで話を振れば話題に花が咲いて距離が縮むのでは!?

そう思ってリーシャ先生の方を見るとあちらこちらで少ないながら男性参加者に声を掛けられていて女性参加者からは白い目で見られていた。

この縮図、過去に参加した合コンで見たことある……。

この料理教室の体験会に参加した女性参加者は入会しないだろうな。

なんでリーシャ先生を体験会の教師にしたんだ、この料理教室は。

いやでも素敵な女性と知り合えるチャンスをくれてありがとう料理教室体験会。

しかし他の男性参加者に負けてはいられない!

女性参加者から白い目で見られても俺も参戦しなくては!

「リーシャ先生!すみません!煮込みはこのくらいでいいでしょうか?」

手を挙げてアピールすると、リーシャ先生が来てくれて鍋を覗き込んだ。

……なんか家庭を持ったらこんな感じなのかな…やっぱ婚活頑張ろうかな……リーシャ先生めっちゃ好みだし、料理教室通っちゃおうかな…。

「うん!とてもいい感じですね!」

褒められて悪い気はしない。それが好みの女性なら尚更である。

ぐつぐつ煮込まれる鍋を時折かき混ぜて、しばらく談笑した。

いいなぁ。こういうの。ていうか、リーシャ先生がいいなぁ。リーシャ先生目当てに料理教室に通って婚活、頑張っちゃおうかなぁ。

「この煮込み料理は私の好きな料理なので参加者の皆さんが楽しんでいただけたら嬉しいです!」

「そうなんですね。とても美味しそうで俺も出来上がりが楽しみです!」

いい会話のペースだぞ!これで入会して会う頻度が多くなればいけるかもしれない!

俺にも青い春が!!久々の青春!

なんて喜んだのも束の間だった。

「この料理は主人も子供も喜んでくれるんです」

リーシャさんは最高の笑顔で俺にトドメを刺した。

「……ご結婚されてるんですねー」

「はい!結婚十年目になります!」

「おめでとうございます」

なんとか祝福出来たけど、真っ白に燃え尽きたぜ……。

俺達の会話を聞いていた他の男性参加者も無言で俯いていた。

女性参加者はものすごく楽し気だった。

なんなら俺同様灰になった男性陣を相手にきゃっきゃと騒いでいる。

「はい。皆さんそろそろ出来上がったようですね。お皿に盛って食べてみましょう」

営業スマイルがこんな時でもかわいい。

……明日バルロットさんとノイシュくん巻き込んでやけ食いしてやろ。

出来上がった品を各自で食べたけれど、気持ち的にちょっとだけしょっぱい味がした。


失恋してまで通うのは辛い。

こうして俺の料理教室通いと恋は一日で終わった。


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