第27話 それぞれの想い
(エヴァン視点)
「強くならないと……」
学生寮の自室で、僕は今日のことを振り返っていた。
楽しいはずのオリエンテーションで、まさかあんなことが起こるとは思っていなかった。
レオ様はなにか察しているようだったが……彼は彼なりに考えがあったのだろう。
きっと彼が相談してくれなかったのも、僕たちの力不足のせいだったからだ。
もし僕がもっと強ければ、彼は協力を求めていたに違いないから。
「今の僕ではなにも守ることが出来ない」
それは何度も呟いた言葉。
僕の中に未知なる力が目覚めていることは、入学試験の際に判明していた。
デスイーターとの戦い、僕はレオ様の力を借りることによって、この力を使いこなすことが出来た。
少しは僕も強くなれたと思う。
しかし魔神には全く通用しなかった。あの力が直撃してもなお、魔神は無傷だったのだから。
そんな強敵相手にレオ様は圧勝していた。彼の底知れない強さに、僕は感動で震えた。
それでいて、レオ様は驕る様子がない。
魔神を倒しても次のことを見据えているのか、彼は浮かない顔をしていた。
「レオ様はまだなにか知っている」
それはこの先の未来かもしれない。
とはいえ相変わらず、彼がそれを打ち明けてくれる様子はない。
「いつまでもレオ様の背中を見てちゃ……ダメなんだ!」
レオ様と並び立つような存在にならなければならない。
「だからそのためには強くならないと」
ぐっと握り拳を作る。
先ほどまでの後ろ向きな考えはなくなっていた。
(エルゼ視点)
「レオ様……」
私──エルゼは屋敷に帰ってきた時のレオ様の表情を思い浮かべながら、そう呟きました。
魔神が現れた。
そのことをレオ様のお父様──ご主人様から聞いて、かつレオ様が戦いに巻き込まれていると知った時、私は心臓が止まってしまったかと思うくらいに衝撃を受けました。
魔神の話は、冒険者として活動している頃から聞き及んでいます。
いわくSランク冒険者が束になっても、魔神には勝てない。
いわく魔神が次に現れたら、世界は今度こそ滅ぶ。
『零の剣舞士』として名を馳せていた私でも、魔神とは戦いたくない──そう常々思っていました。
それは他のSランク冒険者も同じだったことでしょう。
なのに、レオ様は魔神と戦い見事勝利をおさめました。
「私はレオ様を守ることが出来るのでしょうか?」
レオ様に一生お仕えすると誓いました。
そしてレオ様の命に危機が訪れた時、絶対に私が彼を守る──ということも同時に。
しかし今はどうでしょう。
私とレオ様の強さは完全に逆転してしまいました。
今では、模擬戦をしてもレオ様から一本取れるイメージすら湧きません。
そんな私がレオ様を守る?
勘違いも甚だしい。
もし魔神がもう一度現れた時、守るどころか私はレオ様に守られる存在となることでしょう。
冒険者を引退し、一介のメイドである私としてはそれで当然なのかもしれません。
百人いたら百人、そう答えます。
しかし……それでは私の気が済みません。
「仕方がありません」
そう言って、私は屋敷内の物置部屋に足を踏み入れます。
そして部屋の一番奥、埃が被っている
メイドとしてハズウェル公爵家で働くとなった時、この剣はもう二度と使わないと決めました。
だけどこれは
簡単に手放すことも出来ません。
少々未練ったらしいですが、私は物置部屋にこの剣を置かせてもらうことにしました。
そして……ようやく封印が解かれる時が来たのです。
「
幾多もの賊や魔物を斬り伏せてきた剣。
私以外では誰も扱うことが出来ず、一歩間違えれば周囲に被害を及ぼしてしまう可能性もある魔剣です。
これを使わなければ、レオ様を守ることが出来ない。
氷刀を握り、刀身にそっと口づけするように私はこう囁きます。
「
(ジルヴィア視点)
「レオ君、すごかったなあ……」
実家の自室で、私は彼に思いを馳せる。
レオ君の前では、世界の災厄と称された魔神も紙屑のようだった。レオ君が強いことは分かっていたけど、彼は戦うたびに予想以上の姿を見せてくれる。
「みんなも無事でよかった。だけど……」
あの時のことを思うと、私はずしーんと重い気持ちになる。
怖くてレオ君にも言えなかった。
しかし……周囲の雰囲気が変わった際、あれは魔神が出現した
『──貴様は適正がある』
……と。
あれがなんだったのかは分からない。
最初は空耳だったと思い、特に深く考えはしなかった。
しかし後々になって思うのだ。
あれは、禍々しい存在なのではないか?
現れた魔神が私の心の中に、直接話しかけてきた──と。
それは理屈ではない。直感として分かるのだ。
「……っ、そ、そんなわけないよね。私の考えすぎだ」
しかし首を左右に振って、考えを振り払う。
そうしないと不安で押し潰されそうになってしまうからだ。
私は柔らかいベッドに体を預け、目を閉じる。
疲れていたからなのか、すぐに眠りにつくことが出来た。
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