第18話 重要イベント発生!
『アデライド王女の悲劇』
それが今回のイベントに付けられた名前である。
親睦を深めるためのオリエンテーション。
本来ならなにも起こらず平和的に終わるはずのだが、突如として事件が起こってしまう。
森の中に大量に魔物が召喚され、楽しいオリエンテーションが阿鼻叫喚の地獄絵図と化してしまうのだ。
イベントの始まりは、空が暗闇に包まれてしまうことから始まる。
無論、夜になってしまったのではなく、これは
その結界魔法の名は【夜の帷】。
攻撃を加えて、結界を壊すことは困難。
普通は【夜の帷】を壊すために、結界を張った術者に結界を解除しなければならない。
問題はこれにり外部からの救援を妨げられてしまうことだ。
先生の救援もなしに、入学間もない生徒たちは魔物たちと命懸けの戦闘を始めなければならなくなってしまう。
そしてこの戦いの最中、魔物によってアデライド王女が殺されてしまう。
ゆえに付けられたイベント名が『アデライド王女の悲劇』。
ゲーム序盤にいきなり出くわすイベントは、ゲームのプレイヤーたちにトラウマを植え付けることになった。
これによって主人公──エヴァンは自らの弱さを再認識し、強さを求めて邁進することになる。
だが、ゲーム内においてアデライドの死亡を防ぐ手段がたった一つだけ存在した。
それはオリエンテーション自体をやめてしまうことだ。
ゲームの二周目以降に取れる選択肢で、オリエンテーションのその日にエヴァンが姿を眩ますことが出来る。
生徒一人が行方意不明になっているのに、オリエンテーションをわざわざ開く必要もない。
なのでオリエンテーションは中止。魔物の大量発生もなくなるし、アデライドが生存のまま物語は進む。
しかしこれはゲームの製作者側が仕掛けた罠だった。
アデライド王女を殺せないことによって、敵側は強硬策に出る。
それは街全体を巻き込んだ魔神復活である。
『アデライド王女の悲劇』の時とは比べものにならないくらい、強い魔物が街中にわんさか湧いてくる。
魔神や魔物を前に人々はなすすべなく、世界は敵側の手に落ちてしまう。
しかし最後の最後、エヴァンはアデライドの手を握り、「死ぬ時は君と一緒だ」と告げ死ぬのだが……これがアデライドルートの正史となる。
ビターエンドどころじゃない。
ただのバッドエンドだ。
「だからオリエンテーションを中止にするっていう選択肢は、ないんだよなあ」
「レオ様? なにかおっしゃいましたか?」
「い、いや、なんでもない」
思わず呟いてしまった声をエヴァンに拾われ、俺はすぐに誤魔化す。
アデライドを魔物に殺させる気はない。
だからといって、オリエンテーションを中止にしてしまえば、それ以上の悲劇が起こる。
ゆえに俺は事件が起こるのを分かっておきながら、オリエンテーションに参加し、敵側が動くのを待った。
ゲーム通りに進むのかはちょっと心配だったが……結界魔法【夜の帷】が発動した。ここまでは計算通りだ。
しかしここで問題は敵側の正体と目的が分からないことだ。
『ラブラブ』は神ゲーなのだが、投げっぱなしで物語内では回収されない伏線もいくつかある。
レオが混沌魔法を習得した経緯も、その中の一つだ。
おそらく製作者側は追加コンテンツで回収するつもりだったんだろうな。全く、商魂たくましい。
そういった事情はあるが、俺は少しワクワクしていた。
だってゲームで分からなかった謎が究明されるかもしれないんだぜ?
無論、アデライドが死ぬ可能性があるかもしれないが、それは問題ない。
「俺が敵側を皆殺しにすればいいんだけなんだからな」
ニヤリと口角を吊り上げる。
くくく……悪役貴族らしくなってきたじゃないか。敵側に情けをかけるつもりはない! 俺の力で蹂躙してやろう!
「……ここだな」
開けた場所で俺は立ち止まる。
魔力を逆探知してここに来たが、一番強い魔力の反応がある。
結界の震源地は間違いなくここだろう。
「レ、レオ君……? どういうことなの。なんにもないみたいだけど──」
とジルヴィアが言葉を続けようとした時であった。
「「「!!」」」
俺以外の三人、ジルヴィアとエヴァン、イリーナが身構える。
なにもない空間に突如として、大きな斧を携えた骸骨が現れた。裾の長いローブを身に纏い、ゆらりと揺れている。
俺以外のここにいる生徒全員分の魔力をかき集めても、この魔物の百分の一に満たないだろう。
その死神──正しくは魔物なのだが──は、佇んでいるだけで三人の思考を停止させた。
「あ、あ、あ……」
決闘で俺に挑んだほど勇気があるエヴァン。
しかし彼は死神を前にして恐怖で震え、後退してしまっている。
おそらく無意識なのだろう。
体が「この死神には勝てない」と認めている証拠だ。
すぐに逃げなければならない。しかし本能でこの死神からは逃げられないと分かってしまっている。
動けなくなってしまっている三人を見て、死神はケタケタと不気味な笑いを零した。
だが、それが死神の
「俺が見えていないのか? それとも、俺との実力差がかけ離れすぎていて、自分が勝てないことを自覚していないと?」
右手に氷魔法で作った魔法剣を錬成し、地面を蹴り上げる。
一瞬で死神の懐に入り、下から上へと剣を一閃した。
『!?!?!?』
死神はなにが起こったのか分かっていない様子。
両断され、体の再生を試みようとするが、俺の
三人を絶望させた死神は、たった一発で俺の手によって消滅してしまったのだ。
「運が悪かったな。俺がいなければ、貴様一人だけで生徒どもを全滅させることも可能だったというのに」
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