第17話 四人一組を作ってー
翌日。
天気は快晴。
俺たち『Aクラス』はオリエンテーションのため、校舎から少し離れた森に集合していた。
「──ルールを簡潔にまとめますと、森の中に設置してあるチェックポイントを通過し、一番先に森の出口に到着したチームが勝ちです。
では、好きな人と四人一組になってください」
みんなの前で、俺たちのクラス担任がそう説明する。
「レオ君、一緒に組みませんか? 足を引っ張らないように気をつけますから」
「ああ、もちろんだ。俺の隣にはお前──ジルヴィアがふさわしい。よろしく頼む」
「隣には……私がふさわしい……」
ジルヴィアが俺の言葉を反芻して、頬を赤らめる。
レ、レオらしい台詞を心掛けたつもりだったが、まさか変な風に思われてしまったか!?
前世でモテてなかったのもあって、こういう時の距離感が未だによく分からない。
「お、俺とジルヴィア。あとの二人は誰にするか……」
彼女に動揺を悟られては余計に引かれると思ったので、露骨に話題を逸らす。
みんなは早くも、他の人たちと四人一組のチームを組んでいたりする。こういうのは早く動かないと、自分が余ってしまうと考えたのだろう。
く……っ! 出遅れたか!?
だが、いきなり声をかけて不審がられたらどうしよう……。
レオなら無理矢理にでも誰か引っ張ってくるんだろうが、俺には出来ない。本質的にぼっちなのだ。
とはいえ、二の足を踏んでは事態が悪化するのみだ。
勇気を振り絞って、誰かに声をかけようとすると……。
「レオ様、よろしければ僕と組みませんか?」
「エヴァンが行くなら、あたしも行くわ」
救いの声が聞こえた。
エヴァンとイリーナだ。
「お、おう、二人か」
ちょっと予想外。
このあたりはゲームで詳しく描写されていなかったが、少なくともエヴァンはレオと組まなかったからだ。
しかし特段、断る理由もないだろう。
「もちろんだ。特にエヴァンに関しては、実力もよく知っているしな。貴様となら俺も安心出来る」
「レオ様にそうおっしゃっていただけて光栄です」
恭しく頭を下げるエヴァン。礼儀正しい男だ。
これからのことを考えたら、第三王女のアデライドとチームと組むことも考えたが……彼女は既に他の人たちとチームを組んでいた。
人気者の王女様である。
どちらにせよ、探知魔法を使えば彼女の居場所は分かる。
わざわざ俺がチームを組む必要もないだろう。
「せっかくだから、一位を取るわよ!」
「うん、そうだね」
「頑張ります」
イリーナの快活な声に、エヴァンとジルヴィアが共に頷く。
一方、俺はなにも反応しなかった。
「では、頑張ってくださいね。先生は森の出口で待っています。もちろん、なにかトラブルがあった際には、すぐに駆けつけます。では……スタート!」
長閑な雰囲気の中、オリエンテーションは開始された。
「レオ様? 少し歩くスピードが遅いような気がしますけど、大丈夫かしら?」
チェックポイントに向かって優雅に歩いていると、途中でイリーナが訝しむような視線を向けてきた。
「わざわざ走る必要もなかろう。そんなものは弱者のすることだ。こんなところで体力を使うのは愚の骨頂だ」
肩をすくめて、俺は彼女に返事をする。
その言葉を聞いても、彼女は納得していないのか唇を尖らせていた。
「さすがレオ様。僕たちには思いもつかない、深い考えがあるのですね」
一方、エヴァンはキラキラとした純粋な瞳を向けてくる。
入学試験以降、こいつが俺を見る視線がなにか
まるで恋する乙女のような表情をする。
しかしエヴァンはれっきとした男だ。そんな表情をする必要はないし、やはり俺の思い過ごしに違いない。というか、そうであってくれ。
「で、でもレオ君。もう、他のチームは随分先に進んでるみたいだけど? このままじゃ負けちゃいますよ」
不安そうに声を零すのはジルヴィア。
まあ……ゆっくり歩いて、チェックポイントに急ぐ素振りを見せない俺に対して、疑問を覚えるのは当然である。
わざと負けにいっているのでは? ……と。
その考えは正しい。
何故なら、俺はこのオリエンテーションで勝利しようとは考えていないからだ。
「ゲーム通りなら、ここくらいで……」
そう呟いた時であった。
辺りが夜になったかのように、暗くなってしまったのだ。
「え……なんで?」
ジルヴィアが空を見上げ、首をかしげる。
それも仕方がない。さっきまで頭上には突き抜けるような青空が広がっていたしな。
エヴァンとイリーナも不思議そうな顔をしている。
しかし俺だけは疑問に思わず──既に駆け出していた。
「レ、レオ君!?」
後ろからジルヴィアの声。
しかし構っている暇はないんだ。
この
「……やはり、なにか考えがあったようですね」
だというのに。
あらかじめ予想していたのか、エヴァンがすかさず反応し、俺の隣を並走する。
「……まあな。しかしここから先はお前らを巻き込めん。詳しく説明している暇はないし、言っても信じてもらえるとは思えない。貴様が付いてくる必要はないんだが?」
「水臭いですよ。僕とレオ様は
そう言ってから、エヴァンは「しまった」という顔をする。
俺のことを『友達』とつい言ってしまったことを、失言だと思っているのだろう。
だが、彼の言葉に俺は笑みを浮かべていた。
友達──か。
そういや、前世では本当に信頼し合える友達というのを作ることが出来なかった。
まさか転生して……しかもゲームの主人公から言われるとはな。
「分かった。しかし俺の足を引っ張るなよ? 危なくなったら、すぐに逃げろ」
「逃げるかどうかはともかく……分かりました」
とエヴァンが首肯する。
「レ、レオ君! 私も行きます!」
「エヴァンを守るのは、あたしなんだから」
彼と話しながら走っていたためか、ジルヴィアとイリーナも後ろから追いついてきた。
本当は単独で行動するつもりだったが……これはこれで悪いことばかりじゃない。
俺は
ならば、近くにいてもらった方が、幾分か安心出来るというものだ。
「ふんっ、勝手にしろ。どちらにせよ、全員俺が守ってやる!」
そう言って、俺は走る速度を上げた。
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