第12話 レオ様の成長(エルゼの日記)

◆エルゼの日記



(王国暦○○12年 ○○月○○日)


 本日はレオ様のお誕生日パーティーの日でした。

 本来なら一メイドである私が、華やかなパーティーに出席する権利はないのだが……行きたそうにしている私を見かねたのか、なんとレオ様が誘ってくれたのです!


 レオ様、マジ天使!


 しかもキレイなドレスを着させてもらって、レオ様には頭が上がりません。


 当日では令嬢たちがこぞって、レオ様に自分を売り込んでいました。


 以前は公爵子息ながら評判の悪かったレオ様ですが、徐々にそれも見直されつつあります。

 誰よりもストイックに努力し、自分磨きを怠らないレオ様は令嬢たちの目に好ましく映ったのでしょう。


 ですが、みなさん。露出の多い格好でレオ様に迫っていました。

 中には二十歳そこそこの令嬢も、レオ様に必死にアピールしています。


 まあ、レオ様は十一歳でも、そんじょそこらの大人に負けないくらいカッコいいし可愛いので、心を奪われるのも仕方がないような気がしますが……変な毒虫がレオ様に近付くことなど、私が許しません!


 レオ様もちょっと困っている様子だったので、私が間に入りました。

 戸惑っているレオ様も可愛くて、もう少し見ていたい気持ちになりましたが……メイドとしての仕事を放棄するわけにはいきません。


 その後、レオ様は一人の令嬢とダンスに興じていました。

 他の子に比べて、少し地味な女の子でしたが、レオ様はなにか感じるところがあったのでしょう。


 見た目で選ばず、中身を見ようとするレオ様はやっぱりご立派!

 彼に仕えることが出来て、私は本当によかったと感じるのでした。



(王国暦○○13年 ○○月○○日)



 レオ様も十二歳になられました。


 最近では三回に一回くらいは、模擬戦で私から一本取っています。

 レオ様の脅威的な成長速度には、毎日驚かされるばかりです。


 さらに厳しい剣術の稽古と並行して、レオ様は魔法の鍛錬も欠かしません。

 何人かの家庭教師も来ましたが、レオ様のストイックさに舌を巻きます。時にはレオ様の要求に付いていけず、逃げ出す者も。


 そうじゃなくても、レオ様は魔導士としても優秀で、すぐに家庭教師を追い抜いてしまいます。

 前は王宮から宮廷魔導士の方が来られましたが、「レオ様に教えることは、もうなにもない!」と言って、すぐに去っていきました。


 それからレオ様は高度な魔導書を読み、一人で勉強することが多くなりましたが……お体は大丈夫でしょうか?


 ただでさえ、私の剣術の稽古は厳しいものです。

 少し稽古の頻度を下げようかとレオ様に提案しても、彼は「このままで良い」と譲りません。


 レオ様が倒れられないか、私はちょっと心配。

 まあ、レオ様は全く疲れた様子を見せませんが。



(王国暦○○14年 ○○月○○日)



 十三歳のレオ様。

 すくすくと育つレオ様は、だんだんと大人の顔や体に近付いていき、私は目を奪われてしまいます。


 メイドでなければ、レオ様と添い遂げたいのに……。


 いえいえ、そんなことを考えてはいけません。私は一メイドとして、レオ様を近くで見守ることに決めたのですから。って! 私は日記でなにを書いているのでしょうか!?


 レオ様のことになったら、『冷静沈着』と称される私もちょっと取り乱してしまうようです。


 あっ、そうそう。

 とうとう模擬戦で、私はレオ様に勝てなくなってしまいました。


 いずれこの時が来ると確信していましたが……実際、来るとなったら嬉しい半面寂しさも感じてしまいます。

 だって私から、レオ様に教えられることはもうなくなったのですから。


 だから剣術の指南役として、私はもうお払い箱。


 ……そう思っていましたが。



『なにを言う。俺の剣の指南役はお前しかいない。お前からはまだまだ学ぶことがある。これからも頼むぞ』



 とレオ様は言葉をかけてくれました。


 その時、嬉し涙を流しながらレオ様に抱きついたのはちょっと反省。


 とはいえ、その言葉に甘えてしまってはいけません。

 レオ様がさらに優秀な剣士になれるように、なにか考えておかなくては……。



(王国暦○○15年 ○○月○○日)



 先日、レオ様は十四歳になられました。

 そこで私は前々から考えていたことを、レオ様に伝えました。


 それは彼を冒険者として活動させること。


 私ばっかりと戦っていても、戦術の幅が狭くなり、レオ様の成長を止めてしまうことになると思ったからです。


 私は昔、お世話になっていたギルドマスターに頼み込み、レオ様のために冒険者ライセンスを発行してもらいました。


 とはいえ、レオ様が冒険者として活動されるのは、学園に入学するまでの二年間だけ。

 一時的なものなので、正式なランクは与えられませんでしたが──彼は冒険者としてもすぐに頭角を現します!

 Aランク冒険者でも難しいとされている依頼も、一人で颯爽とこなしていました。


 レオ様はもっと難しい依頼をやりたそうでしたが、さすがにそれは時期尚早。

 万が一にでもレオ様に怪我をしてもらうわけにはいきませんでしたから、それは私から止めました。


 瞬く間にレオ様は冒険者ギルドの中でも、一・二を争う実力者となり、ギルドマスターも舌を巻いていました。

 先日は「学園を卒業したら、冒険者になってくれ!」というようなことを、レオ様に頼み込んでいました。


 しかしレオ様は将来、ハズウェル公爵家の後継となる身。


 命の危険が伴う、冒険者にさせるわけにもいきませんでしたが、それはレオ様の自由意志にお任せしましょう。

 私がレオ様の将来を決めるだなんて真似は、おこがましいのですから。



(王国暦○○16年 ○○月○○日)



 十五歳。

 レオ様はすくすくと成長しています。

 最近では(とはいえ、前まで全くやらなかったというわけでもないのですが)、勉強の方にも力を入れられています。


 レオ様もあと一年で学園に入学ですからね。


 入学試験で必ず一位を取る! ……とレオ様は意気込んでおられますが、剣と魔法の実技試験だけでも、既に他の者たちより突出しているような?


 ですが、ストイックなレオ様のことです。

 実技だけではなく、勉強でも一位を取るおつもりなんでしょう。


 それだけではありません。


 十一歳の誕生日パーティー以来、レオ様は男爵家のジルヴィア様と親交を深めていったのですが、もうこれが見ていてヤキモキします!

 なにをしても、あれだけそつなくこなす──いえ、誰よりも上手くやり遂げてしまうレオ様ですが、恋愛に関してはちょっと奥手みたい。

 ジルヴィア様とちょっと肌が触れ合うだけで、ビクッと体を震わせ、気まずそうに視線を逸らしてしまいます。


 そう。

 四年もあったのに、ジルヴィア様との仲は『友人』止まりのままなのです。


 レオ様が他の女の子に夢中になるのはちょっと寂しいけれど、ジルヴィア様になら私も納得が出来ます。

 何故なら、この四年間でジルヴィア様は美しさに磨きをかけられ、今ではどこに出しても恥ずかしくない美少女に変貌を遂げていたからです!


 やっぱり恋をすると、女の子は変わるものですね。


 お互い意識し合っているのは明確なのに、どちらも一歩を踏み出せないもどかしさ。

 力を貸してあげたいけれど、恋愛に関しては私も二人に負けず劣らず初心者。

 このまま、二人の関係を見守るしかないのでしょうか。



(王国暦○○17年 ○○月○○日)



 そして今日。

 レオ様は十六歳となり、とうとう学園の入学試験当日を迎えました。


              〈続く〉

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