第32話 VS炎の魔王8 防衛編 【暴走】


「な……何が」


 真希が剣を振るうと、炎の魔王の配下はさらにその数を減らし、すでに残りは20体程となっていた。


 そして当の真希は……


「真希! 起きなさい! 何をして……!」


「──」


 物言わぬ屍とかしていた。


『ディメントが真希を狂気で満たしました。』


 ドパッ! と、何もしてないのに真希の頭が炸裂する。


「……っ!」


「だから……何なんだ! お前らは!!!!」


 ビートは、訳のわからない状況の連続に、最弱魔王のはずの王の魔王の力を見せつけられて、思わずそう叫んだ。


 叫ばなければ、まともに脳が動かなくなっていた。


(王の魔王……一体何者なんだ?)


 ビートの配下であるレッドゴブリン──ネームドモンスターのリュークも、それのみが脳裏によぎる。


「しかも……余裕だと言って俺の部下たちを突撃させた挙句、結局押し負けて皆殺しにされた……!」


「あ? なんだ! 吾輩の決定に不服か!?」


 リュークはつい口に出してしまった、とハッとしたが、数瞬後には覚悟を決めて、上官的立ち位置であるビートに面と向かって言い争う。


「余裕だとか抜かしておいて、俺の部下を前線に出したのにこのざまは……たとえビートさんでも許されないぞ!! どう言うことなんだ!」


「舐めた口を聞くな! 我輩が予想できなかったのは当たり前! 王の魔王が卑劣な悪あがきを全力で行ったことは確かだろ! 明らかにおかしい点が多すぎる!!」


「だから一旦引きましょうといったじゃないですか!! なのに無理やり偵察もしないで無茶苦茶突っ込んで……それで俺の部下を真っ先に殺すなんてふざけてるにも程があるだろ!」


 リュークは、余裕で生き残ると、先ほどまで呑気にあくびをしていた部下のゴブリンたちを思い出し激昂する。

 炎の魔王の配下にはある形態があり、二人のネームドモンスターであるビート率いる魔法軍と、リューク率いる物理軍ゴブリンズに分かれている。


 普段侵入者が来ても大抵はリュークたちが戦って倒しているのだが……たまにビートたちが出てきて倒したりする……いわゆるローテーション制なのだ。

 普段はあまり顔合わせをしない……つまり面と向かって話し合う機会がない二人だ。そして、二人は自分達の“チーム”として部下たちの管理を任されている。リーダーとしてビートは魔王よろしく、配下は切り捨てて当然という考えをしており、リュークは部下は絶対死なせないと言う信念を持っている。


 そのため、二人は今分かる通り、仲が悪い。


 仲直りなんてする機会すらなく。顔を合わせる機会が少ないほど相手への感情は高まるものだ。


 炎の魔王の知らないところで、二つの派閥ができてしまっていた。


「低級が調子に乗りやがって……我輩と違って成長もできんただのゴブリンが! ちょっとご主人に認められてるからと言って思い上がるなよ!」


 リュークは、ごく低確率で優秀な魔物が生まれる現象──ハイボーンで生まれたDランクのゴブリン種、レッドゴブリンだ。


 人語を喋れはしないものの、高い知性を持ち、炎の魔王のお気に入りであるのは当然だった。


 リュークのチームの生存率は相当に高い。炎の魔王の好感度も高いのは当然。


 ただ、仲間を大事にするせいか、仲間が怪我を負った場合訓練兵を出さずに自分が最前線に出たり、慎重に戦うためかなり時間がかかったりするところはどうにかならんのか、といつも言われているが。


 短気なビートは特段、リュークが気に入らないわけだ。


「お前かっていつも偉そうに……! 部下のことを何だと思ってやがる!!」


 リュークは、今までの怒りをビートにぶつける。


「何だその口の聞き方はッ……!! “フレアキャノン”!!」


「!!」


 ビートがそう叫ぶと、ビートの腕から大きな砲台が作り上げられる。その銃口はリュークへと向いていた。


 ドオオオオオ!!


 轟音と共に、炎の砲撃はリュークの顔を掠めてダンジョンの壁に直撃する。


「何をっ……!」


「黙ってろ! 我輩がいなければ全滅して被害どころか敗北するぞ!」


 ビートは、数多の屈辱に自制心を失って暴れ出す。


「……ならここまでだ! 俺たちはお前みたいに勝手なやつにはついていかない! いくぞ!」


「あ? てめぇ、そんな裏切り行為が許されるとでも──」


「知ったことか!」


 リュークは残った数匹のゴブリンを引き連れると、最後の間から飛び出した。


(たしかに俺たちはもう処分は免れないだろう。敵前逃亡なんて魔王の配下として最も禁忌の行動だ。でも……)


 リュークは、心のどこかで王の魔王に期待を抱いていた。本来の予想ならあり得ないほどの戦果を挙げた王の魔王の力に。


 スケルトンたちも、それぞれが捨て駒として使われることなく配置や役割を持っており、連携も含めて部下を大事に扱う魔王なのだろう。


(どうせならこういう魔王の手下に産まれれば……)


 だが、考えても無駄だ。

 リュークは、残された一縷の望みに賭ける。


 これ以上、部下をゴミのような消耗品としか考えてない炎の魔王とビートなんかには付き従えない。ならば、自分はのだ。


 奇跡のような戦果を挙げた王の魔王が炎の魔王に勝ち、水晶を叩き割れば、自分は無所属の魔物となる。その時点で抵抗は出来なくなるが、仲間に入れてくれと頼み込めばもしかしたら配下になれるかもしれない。


「だから……王の魔王、配下の人間達……勝ってくれ」


 そしてそのリュークの願いは────



「──らあ゛ッ!!」


「ガフ……ッ!?」


 ビートの悲鳴によって応えられた。


「テメェ……よくも……ッッ!!」


「きさ……ま、生きて……ガハッ!」


 真紅のオーラを吹き上げ、意識を取り戻した雄二が、フラフラとコアルームへ向かっていたビートの胸を突き刺し宙に持ち上げていたのだ。


「……!」


「アアアアアアアアア!!」


 雄二は、ヘルムの内から真紅の眼を光らせる。


〜〜〜〜〜


【暴走】……体内うちに眠る魔剣士の力を一部呼び起こす。この世で最も狂気に溢れ、そしてこの世で最も愛を捧ぐ者にのみ宿るスキル。平常時はこのスキルを見ることは出来ない。


〜〜〜〜〜


「『結奈を……天野をッ返せッッ!!!!』」


「グアアアアアアア!!!!」


 その手に取り戻されたのは、魔剣ディメント。

 雄二が腕を振り払うと、その動きに合わせてビートの体が豆腐のように寸断されて吹き飛ぶ。


「……っ、ふっ!」


「『消えろ──【零の殺害者スレイヌル】』」


 魔力も尽き、瀕死のビートに向かって雄二は剣を大上段へ振り上げた。


「まっまってくれ! そうだ! ご主人……炎の魔王の弱点を教えます! 王の魔王様に忠誠を誓いますから! どうか──」


 ビートは、必死に命乞いをする。

 だが……


「『ユニークモンスターのお前が命乞いをするのなら、それは何か企みがあることに他ならない。そして俺には……』」


「ま──」


 雄二は、剣を振り下ろす。


「ぁ──」


「『頼みを聞く義務がない』」


 ユニークモンスターは、死んでもDPで蘇生出来る。大方、王の魔王に負けて帰るとなると怒られるだろうし、あわよくば隙をついて雄二を殺そうとしたのだろう。


 今の雄二には迷いの一切も無かった。


「……ぐっ!?」


 だが、流石に【暴走】まで発動して、雄二も限界だ。

 真紅のオーラをも消え、気を失いかけてなんとか膝をつく。


(結奈は……無事だ。良かった……でも、天野は……)


 それを見ていたリュークは、頭を悩ませる。


(今なら……あの人間を殺せる。そしたら、炎の魔王にも……)


 奴を殺せば魔剣も手に入り、ビートよりも高い立場になれるだろう。


(──でも!)


 あんなところに戻ったって、得られるものなんて何もない!


「……誰だっ!」


「っ!? 見つかったか!」


 リュークが頭を振ると同時に、雄二が壁の向こうのリューク達に気づいたらしい。

 雄二は、ガクガクと体を揺らしながらも、ディメントを持つ手に力をいれる。


「来いよ……何が何でも、ここから先は通さねぇ!!」


 瀕死のはずの雄二の覇気に、部下のゴブリン諸共リュークは気圧される。


「いや、俺は……!」


 リュークが戦う意思はないと言おうとした、その時だった。

 世界が揺れたのは。


「!? なんだ!?」


『王の魔王が水晶を破壊しました。ダンジョンバトルを終了します。』


 直後、聞こえたのは、王の魔王の勝利を告げる声だった。

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現代にダンジョン!?勇者!?え、俺魔王? 星影 迅 @Lvee

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