第23話 【王威】


「魔王様!」


「!!」


 俺の前に、真希が現れた。


「真希……」


「魔王様! その……っ」


「……お前だけか?」


 真希の言葉を遮り、俺は真希の周囲を探る。

 だが、気配は感じられない。


「え、ええ。そ、その……魔王様」


「一人にしろって言っただろ?」


「……はい」


「なんできた。他のやつがいないのを見ると……独断だろ?」


 俺は視線を下にむけ、静かに問う。


「……聞こえた」


「は……?」


 だが、真希は、それに答える前に、自分の話を始めた。


「できることなんんてない、って」


「……俺が成長できないからな……」


「……魔王様は、私に、と言ってくれたでしょ?」


「! ……ああ。俺は諦めたくなんかない性分なんでね。でも……」


「できなくても、やれるだけやるの。自分の信じたことを。……魔王様は、教えてくれたでしょ?」


 真希は、普段よりも柔らかに、そう告げる。


「……」


「……悪いのは誰だッ!!」


「!!」


 俺が黙りこくったのを見て、真希が一息置いた後、叫んだ。

 

「あなたですかッ! 私ですかッ! 仲間たちですかッ!?」


「真希……お前……」


 真希は、滅多に叫んだりするような人じゃない。

 少なくとも、俺が知る限り、仲間になったあの日に泣き喚いたのが最初で最後だ。


 声は標準よりやや小さめな真希が、全力で叫んでいる。

 

 俺はその迫力に押され、話に聞き入る。


「違う! あなたは……魔王様は、“神”だと言った!!」


「──!!」


 俺は真希に言った言葉を思い出す。

 そうだ……本能のまま口から出た言葉は……


「……神、だったな」


「……ええ。奴らが悪いんじゃ、なかったの?」


 “神”。そう名乗るものが、突然世界をこんな風に変え、俺を魔王に仕立てあげた。


 どう考えたって、たとえ人間の行いが原因だったとしても、悪いのは……“神”だ。


「私は……神をも倒すつもりで仲間になりました。魔王様は、違ったの?」


 真希は所々素に戻る独特な敬語を使い、俺の瞳を真っ直ぐに見つめる。


「……よりによってお前に目を覚まされるとはな」


「なっ……フン! 別にあなたのためじゃ……」


「……フフ、そうか。でも、ありがとな。」


「〜〜!」


 真希は顔を赤らめてそっぽを向いた。

 最近これがツンデレってやつか? と記憶を取り戻しつつある。なぜこの記憶が消されているのかはわからないが……


「そうだ。俺はお前の、お前たちの“王”だ。魔王だ!」


「魔王様……」


「俺がこんなんじゃ、だめだな。ああ……俺はっ!」


 俺は、ガイドに言った言葉、名前を与えるについて、思い出して、天に向かって宣言した。


「俺は……諦めないと、誓った!!」


 俺は天を睨みつける。ダンジョンの天井の先、はるか雲の上にいる“神”に向かって。


「……無様なところを見せたな。真希。」


「う、ううん……別に……あんたはシャキッとしてればいいのよ」


「フッ……さて、帰るか。謝らないとな……!?」


 俺はそこまで行って踵を返し……頭に響いた声にその足を止めた。


『やっと“王”であることを自覚したか。』


「!? だ、誰だっ!?」


「え、魔王様!? 天の声……かしら?」


 違う。天の声のような無機質な声じゃなくて……とんでもない威圧感を放つ、“男”の声だ。


『お前が“真の王”にどれほど近づけるのか……今日はその門出ってとこだな。まあ……楽しませてもらうか』


「は……っ? お前! 誰なんだ!?」


『【王威】の使用が一部開放されました。』


 だが、俺の問いに返ってきた言葉はいつもの、無機質な天の声だった。


「魔王様……? 一体何が……」


「俺も……わからないが……」


 俺は自然に体がブルリと震えたのを感じた。

 だが、俺はニヤリと笑っていた。


「これなら……勝てる」


「え……?」


=====


「で……作戦変更ってどう言うことだ?」


「まあ見てろよ……【王威】」


 俺はみんなに謝ってから早速、【王威】を発動する。

 対象は……目の前のスケルトン×(1DP)。


「ケタケタケタケタケタ!!!!」


 すると、普段しゃべれもしないスケルトンから不吉な叫び声が放たれる。


「なっ……なんだ!?」


「マスター……何を?」


「見てろって……『兵化』!」


 俺がそう言うと、スケルトンは黄金の光に包まれた。


「な、なに!?」


 そして、光が晴れた先には……


「カカカカッ」


 左肩が鋭く伸びている、どこか凶悪な顔つきの×スケルトンがいた。


〜〜〜〜〜


スケルトン× Eランク

【王の兵】


〜〜〜〜〜


「い、Eランク!?」


 スケルトンの説明を見て、流石に驚いた。

 ×付きの魔物は大体、2ランク分の能力を低下させる。そのため殆どの場合使い物にならないが……


 【兵化】したスケルトンはそうではなかった。


「フォ、4ランクアップ……!?」


「お、おいガイドさん、なんか凶悪になってるんだが……あれ、すごいのか?」


「凄いなんてもんじゃないです! 1ランク上げるということすらとんでもない能力なのに、4ランクなんてありえません!」


「えっ、じゃあ魔王様、最強の能力持ってたってこと? これで私たち生き延びられる!?」


 たしかに、デメリットも今のところ無いし……いや。


(×しか出来ないから、というのがデメリットなのか?)


【兵化】……自分で創造したモンスターのランクを4上げる。 1/1000


「ふむ……1000匹か、1000回しか無理なのか?」


 後者の場合はかなり困るのだが、実験したところ1000匹のようだった。


「なるほど……“王”だから兵士を作って突撃させる、兵士じゃないのを戦場に出しても役立たず、だから×がつく、ってわけね?」


「真希……お前、頭回るな。」


「エッ! あ、うん……あ、ありがとう……」


 次から何か検証するときは真希にも見てもらったほうがいいかもな。

 とりあえず、たった1DPでEランクが手に入るということで、俺は嬉々として兵力強化に努めた。


=====


「よし……雄二、戦ってみろ!」


「……魔剣は使ったらダメなのか?」


「当たり前だろ。チリにする気か? あ、でも手加減せずころしていいからな。5DPだし」


 今、雄二は5匹の【兵化】スケルトンと模擬戦をしている。その手に持つ剣はブロンズソードしつこく言うが15DPだ。

 流石にEランクだから瞬殺だろうと思っていたが、あることが判明して模擬戦の形を取ることとなった。


「カカカカッ!!」


 最初に召喚したスケルトンが口元の骨を打ち鳴らすと、5人の、スケルトンが武器を構える。


 剣、盾、レイピア、籠手、そして槍。


 武器に興味を示したスケルトンたちに、武器を持たせてみると、驚くことに彼らは即座に使いこなしたのだ。

 なんでスケルトンに武器を持たせたことがないのかって? 持ち上げた後その重さに耐えきれず、潰されて自爆するスケルトンが多発したからだ。


(さすが×付きとは違う性能だな……。てか、まずEランクのスケルトンなんて普通存在しないよな?)


 貴重なランクアップを2回もスケルトンに使う物好きはいないだろう。つまり、全員油断するのは仕方ないこと。


「せっかくだから隠しておきたいが……まずは目の前の戦争に勝って生き残らないとな」


「ああっ雄二! もうっ、なんでそんなに苦戦してるの! やっちゃえ!!」


「だから結奈さん、もう少しマスターの方も応援してくださいな……」


「ぐっ……こいつらっ、どうなってんだ!? 隙が……ねえっ!」


 おっと、戦闘に集中しないと。

 今は……特に両方ダメージを負った様子はない。盾を持ったスケルトンが雄二の攻撃をドッシリと構え、受け止める。その隙に剣とレイピアを持つスケルトンが攻撃を仕掛け、回避先に置かれた籠手使いの強打を受ける。

 さらに、槍のスケルトンが骨を打ち鳴らすと、雄二の剣に向かって槍を突き出す。


「くうっ……なんだこいつらの洗練された動きはっ! これじゃまるで……」


「「歴戦の兵隊と戦ってるみたいだ(みたい……)!」」


 呆然と雄二たちの戦いを見ていた真希と、雄二の声が重なる。


 確かにな……武器を取った時から、最初から分かっていたかのように扱っていた時から、初めての戦闘なのに仲間内で意思疎通が取れている時から、違和感を感じていた。


「兵隊……【兵化】……」


 俺は能力で劣っていながら素晴らしい連携を見せたスケルトンたちについて、疑問を感じ、しばらく頭を悩ませた。

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