第24話 魔王アイト


あの後。

 結果、5匹のスケルトンは約4分間、雄二を食い止めた。もうレベル20目前の雄二を、魔剣なしとはいえ、240秒も凌いだのだ。


 俺は骨を打ち鳴らせる槍スケルトンが、最後に剣を突きつけられた時、両手を上げて降参したのが最も驚いたが。


「はあ、はあ……こいつらほんとにスケルトンか!? 動きが的確すぎる! 俺では足元にも及ばないぞ!?」


「雄二を圧倒させる技術か……本当に、元々あった軍隊から引き抜いてきたような腕の冴えだったな」


「魔王様……“兵士”と言うのは、訓練をした人間です。【兵化】、だから訓練をしたことも刷り込まれたんじゃない?」


「おお……俺もそう思ってた所だ。さすが真希。……はいいとして、その敬語かタメなのか分からない口調、どうにかならないのか?」


「なっ……! これでも頑張ってるんだから!」


「へへへ……真希ちゃんいつも敬語不自由で注意されてたよね〜」


「敬語不自由ってなんだよ。……まあ、確かに天野は敬語が苦手だからな」


「あんたらねぇ……」


 真希の額にビキっ、と青筋が入る。

 追いかけっこをしだした3人を放置して、俺はガイドに尋ねる。


「もし……1000体の“軍人”が召喚できたなら……あいつにも、“炎の魔王”にも勝てるかな?」


「ええ……。もしかすれば……」


 俺たちは向かい合って、フッと笑う。


「……“約束”、守ってくれそうで安心しました────マスター」


「……フッ、当然だろ。……俺はそれまでは諦めないって、決めたんだ」


 見つめ合う(?)俺たちを、いつの間にか後ろで3人が覗き込んでいた。


「むう……あの水晶ガイド、なんか魔王様と通じ合ってる節があるのよね」


「ん〜? 真希ちゃん嫉妬? 確かにあの人(?)声女だもんね〜」


「なっあんた……!」


「おい、お前ら喧嘩すんなって……学校では仲良かっただろ」


「「ここ学校じゃない(よ)(のよ)!!」」


「だーお前らうるせえ! そこで何してんだ?」


 俺は3人に静かにしろと言い、炎の魔王について調べてみる。


〜〜〜〜〜

炎の魔王 魔王ランクB

ダンジョンランクD

固有能力:炎を操り、火魔法の上位互換である炎魔法を扱えるが、扱いはとても難しい。配下の魔物がほぼ火系統に限定される。


〜〜〜〜〜


 ランクB……かなり強くないか? それに、魔王本人も戦えるみたいだな。


「ってちょっと待て! ダンジョンランクがDに上がってやがる!!」


 この30日間……あっちも設備を整えたってわけか。まさかランクアップ直前だったなんて……


「……と言うことは、あのユニークモンスターは──“Cランク”」


 ガイドが声を押し殺して言う。Cランク……1ランクの差が大きいこの世界で、EランクとCランクの差は天と地ほどある。


(そんなのに、勝てるのか?)


 いくら洗練されたスケルトンでも……


(……いや。俺は、勝てる……勝つ!)


 弱気になりかけた自分を強引に阻止して、俺は勝てる要素を探す。


「マスター……。どうしますか?」


「これって……多分、勇者でも容易く葬るって噂のCランク……?」


 結奈が引き攣った顔で問いかける。


 以前、雄二からも聞いた。新潟の勇者が、ダンジョン深部でCランクの敵と会敵、瞬殺されたという噂だ。


 勇者のみを殺して他は逃したことから、経営についてはある程度理解している魔王っぽい。


(この話が確か“変貌”から10日ほど……岐阜うちみたいに規制していないとは言っても、成長が早すぎる。と言うことはやはり……)



「こいつのこと、か?」


 俺は本の一番上に名前を調べる。


〜〜〜〜〜

龍の魔王 魔王ランクSS

ダンジョンランクC

固有能力:自身が竜へと変化し、全能力値を引き上げることができる。また、よい魔物が創造されやすい。魔物は竜、蛇系統に限定される。


〜〜〜〜〜


 最初の頃からランクCだった異次元の魔王……“龍”。5人しかいないSSランク魔王であり、最強種族である竜を従える魔王である。


「はあ……いいよな、龍とやらは。俺のコンセプトなんて王? 意味わからんわ……!?」


 いや、ちょっと待てよ……! なんでに……


〜〜〜〜〜

王の魔王 魔王ランクX

ダンジョンランクG

固有能力:召喚できる魔物が最低ランクのGのみ。全ての生成するモンスターがxバッテン付きになる。まれに召喚する魔物が怪我を負って召喚される。


〜〜〜〜〜


 なんで俺が一番上にいる!?


 前は一番後ろだった。ランク×で悪目立ちして……


 そして、もう一つ。



 俺の記述の下には、一言。


 ────王だ。


 と書き足されていた。


「マスター? っ!? これは一体!?」


 ガイドが覗き込んで、驚愕の声をあげる。ガイドも知らなかったわけだ。


 普通はランク順に並べられているんだが……なぜ一番上に?


 ランクは×のに?


「どう言うこ──」


「だからね! 名前が必要なんじゃない? ってことでしょ!?」


 俺がガイドに相談しようとしたその時、真希の声が割って入ってきた。


「? 真希どうした?」


「あっ……ご、ごめん……その……」


「魔王さん名前ないから、名前つけよって話してたの!」


 真希が何か躊躇ためらっている横から、結奈がなんでもないかのように告げた。


「あんたもう少し遠慮とか……」


「名前か……」


 相変わらず結奈は俺に対する敬意がない。それにしても、名前か……


「確かに、名前ないってのは不便っちゃ不便か」


「でしょ!? でね、今のとこ“キング”とか“カイザー”って出てるけど……」


「いや、ちょっと待てそれなんの捻りもないただの英訳じゃねえか!」


「ほら。あんたらネーミングセンス無さすぎだって。」


 真希が雄二と結奈に向けて毒吐く。


「だよな、あれはない……」


「“フィクサー”とかどうかしら?」


「てめえもネーミングセンス皆無かよ!」


「!?」


 誰が黒幕だ。てか、なんの黒幕だ。


「はあ……というかお前ら余裕か。死ぬかもしんねえんだぞ? ほらほら、さっさと……」


「…………アイト」


「「「「えっ?」」」」


 俺が目の前のことに集中しろと言おうとした瞬間に、また声が被せられた。

 だが、被せたのは最も意外な人物……いや、物だった。


「マスターは、“アイト”なんてどうですか?」


「え、ガイド……お前?」


 ガイドがぽつりとこぼすように呟く。


「いいね! すごいいい! 採用で!」


「さすがコアガイド……人間とは違うのか……」


 雄二と結奈が俺より早く、勝手に決めだす。


「いや、ちょっと待て、お前ら──」


「マスターは、私に名を与えてくれるんでしょう?」


「っ……!」


 ガイドはほんのりと赤く点滅しながら、言葉を紡ぐ。


「なら……先に、と……失礼します」


「……お前」


 俺は自然に口角が釣り上がったのを感じた。

 ガイドは、俺がこの地を統一してガイドに名をつける……詰まるところ、“神”の支配から解放することを信じて疑っていないのだ。


 最初に自分でも馬鹿だと感じる宣言をしたことを思い出す。


 あの時は“戯言を”って感じの、それでも期待するような、答えを返したガイドだが、


(今こいつは……疑ってない!)


 それほど、信頼されたのだろうか。


「ふん……なに、通じ合っちゃって。まあ……先輩だし……」


 真希が不貞腐れたようにそっぽを向いた。


 なに? お前俺がちょくちょくガイドと話すたびに機嫌損ねるのなに? 俺のこと好きなんか?


 俺の疑問が真希の核心をついていたとわかるのは、もう少し先の話。


「じゃあ、真希ちゃんも賛成したっぽいし、魔王さんは今日から“魔王アイト”ね!」


「っておい! マジで!? そんな軽いノリで決めんの!?」


「マスター、アイト様」


「……っ、だーわかった! わかったから今は目の前のことに集中しろ!!」


「きゃー、アイっちの鬼―!」


「その呼び方はするんじゃねえ!」


 そうしてなんとも締まらないまま、俺の名前は“アイト”に決定した。


 一世一代のことなのにな……


 ってそんなことしてる余裕あるか!!

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