第18話 思わぬ客
10日後。
あと2日で世界変貌から1ヶ月が経過する頃だ。
あの悲惨な能力を知った後から1ヶ月か……。
「どうかしましたか、マスター。」
ガイドが感慨にふける俺に声をかける。
今は夜中11:00頃だ。すぐそばのベッド……は図々しくも真希が使っているので床に敷いた布団(10DP)で雄二と結奈が寝ている。
そんなにいるわけではないが、3部屋目に入ってくるやつがいたら結奈はともかく雄二は叩き起こすつもりだ。
10DPもしたのに買った理由は結奈が「新しい魔法覚えたからご褒美くれ!」と強請ってきたからだ。まああんな魔法覚えれるならもう少し奮発してやっても良かったが……
「マスター、ただの配下如きにもっと奮発しても良かったとお思いで?」
「……ああ。確かにDPは俺の生命エネルギーみたいなもんだけどさ、弱い俺からすればあいつらも変えの効かない命みたいなもんだろ。」
「気を効かせようとしたのか2時間ほど別の部屋のチェックをしてくる、とか言い出した時は本当に魔王なのかを疑いましたね。」
「……それは言うな。だってなんか邪魔そうだろ。最近真希も話してくれないし……」
俺がおんなじ布団に2人が入ったのを見て、何かすると思い部屋を出たことをガイドに言われる。
「……あの女はまだ生かしておくのですか? 怪我しているからか毎時4DPほどしか得られませんが。」
「真希か……仲間にしようと思ってな。治癒士だし。ガルーダも怪我した時直してもらいたいよな?」
『うん……ってまた僕を戦わせる気!? 復活したとこなのに!』
結局回復せず使い物にならなかったガルーダを一度殺し、2665DPで復活させた。前より高いのは上がったレベルのせいだ。
「そんな……正気ですか? 彼女は魔王様を憎んでいることが丸わかりの目をしていましたよ?」
ガイドが俺に警告を発する。確かに彼女は仲間を殺され、俺を憎々しげに見ている。だが、だからといって諦めてしまえばこの先誰も仲間にすることはできない。
彼女は裏切られた。
信じていた、勇者である須藤智彦に足を撃ち抜かれて身代わりにされたのだ。
人類の希望と言われる各市の勇者たち。
そんな彼ら“勇者”が自分たちを裏切ったというのなら、何を信じればいいのか。
きっと彼女は深く悩んでいるだろう。
毎度毎度卑怯とも取れるやり方だが、俺はそこに付け入る隙があるとみた。
こういう訳ありを責めるのがこれからも定石となるだろうな。
「マスター。焦る気持ちはわかりますが無理にこいつを選ばなくても……」
そう言うガイドに、俺の考えを説明しようとした──その時。
ビィィィィィィィンッ!!
「「!!」」
いつもより間延びした侵入者警報が鳴った。
急いでモニターを見る。
こんな夜中に誰だ……!?
「これ、は……」
俺はモニターを見て、目を見開いた。
そこにいたのは、空を飛ぶ燃える生物……人魂のようなものだった。
「……魔王様の配下、雄二よ! 起きなさい! あれの情報を!!」
俺が命令する前に、ガイドが大声で雄二を叩き起こしてくれる。
「んぁ……? ……っ!?」
雄二が目を擦りながらモニターの魔物に【鑑定】をかけて……息を呑んだ。
「……ユニークモンスターだ! 魔王、これはどう言う状況だ!?」
雄二がいうには、あの人魂は“ビート”というらしい。ランクはE。いや……ネームドってことは……D!?
「まさか、ダンジョンランクがEの魔王っ!?」
俺は一つの結論に辿り着いた。
それ以外には考えられない。
どこかの魔王が、ダンジョンを攻めてきたのだ。
宙に浮かぶ人魂……ビートは、迷路の上部にある僅かな隙間を通って1、2部屋目を素通りする。その際、見つけたスケルトンにファイアボールを放っていたことから魔法タイプだと推測する。
「って急がないと! ここまで来られちまう!」
俺は結奈を叩き起こして2人に仮面をつけさせ、3部屋目に出る。
するとちょうど、ビートが到着するところだった。
ビートは目のない体で俺たちを見るように回転すると、その体から誰かの声を発した。
『ガハハハハハハ!! なんて、なぁんてついてるんだ、俺は!』
恐らく魔王のものだろう。魔王は、ひとしきり笑った後、俺に向かって話しかける。
『なあ。王の魔王だろ、お前。』
「……だからどうした」
俺は道中の魔物全てに×がついていることから誤魔化せないだろうと踏んで魔王に問う。
『ガハハハハ!! やはりか! 雑魚しかいなかったもんなあ! ×の魔王さん?』
「……っ!」
『それだけに不思議だぜ……×の魔王如きが強い人間を2人も従えてんのは。それに、数万近い魔王が死んだ中生き残っているとはな。』
「……当たり前だ。俺は諦めない。タダでくたばってやるわけないだろうが。」
「なんだかよく分からねぇが、他の魔王か? 俺と結奈の安全を脅かすなら……殺すッ!」
「やっ雄二かっこいー!」
……こいつら案外余裕なのか?Dランクとかいう俺が一生作ることの出来ないだろう高ランクの魔物なのに。
雄二は魔剣ディメントをビートに向ける。
その魔剣ディメントを見たビート、もとい水晶の向こうの魔王は興奮した声をあげる。
『……なんだ!? その剣はっ! そんなレアもの……なぜお前如きが持っている!』
「ああ? なんだ、まともな武器すらないのか?」
『クク……クハハハハハハ!!』
「あ“? なんだ?」
突然笑い出した魔王に、雄二が反応した。
『ク、クク……その剣まで手に入ると思うと、笑いが止まらないわっ!』
魔王がそういうと、ビートの体が一瞬光ったように見えた。
すわっ、攻撃か! と身構えたのも束の間、すぐに光は消え去った。
『ハハハハハ! 王の魔王よ! 我が火の魔王は、お前にダンジョンバトルを申し込む!』
「は? 断るが?」
こいつがディメントを手に入れられるとは、といったのは俺がダンジョンバトルに応じるとでも思ったからか? まだ5ヶ月も期限はある。ギリギリまで戦力を拡大するに決まってるだろう。
だが、そんな俺の目論見は予想外に聞こえた“天の声”によって潰された。
『直接会ったり、話した魔王の宣言は拒否できません。火の魔王とのダンジョンバトルを受理しました。30日間ダンジョンを閉鎖します。』
「…………は!?」
直後、ダンジョンの入り口の方でゴゴゴ……と音がした。
急いでコアルームにいるガルーダと感覚共有し、水晶で様子を確認すると……ダンジョンの入り口が閉まっていた。
豪快な火の魔王の笑い声が響く。
『ガハハハハ! また30日後に会おう! まあ、お前はその時に死ぬんだがな! ガハハハハ!!』
『敵対反応を駆除しました。準備を開始してください。』
ビートは、その声と同時に瞬間移動でもしたかのように消える。
「な、なあ……魔王。これって……」
「も、もしかしてまずい……?」
雄二と結奈が俺に向かって聞く。
「拒否できない、だと……!?」
それに応えることなく、俺はコアルームへと急いで戻った。
=====
「マスター!!」
「おい! 直接あったから拒否できないって……どういうことだ! 書いてなかったぞ、そんなこと!」
「落ち着いてください! 私も存じ上げておりません!!」
これが落ち着いていられるかッ!?
────30分後。
とりあえず俺は、雄二と結奈、ガルーダにガイドの4人に宥められて平静を取り戻したのだった。
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