第19話 すべきこと


「はあ……まじかよ」


 俺はため息を吐いた。

 火の魔王……ダンジョンランクEであると推測される猛者とのダンジョンバトルを仕掛けられたのだ。


 わずか1ヶ月でEランク? 俺なんてずっとGだぞ!? どんだけダンジョン強化してやがんだ!


「マスター落ち着いて! 一時たりとも無駄にできないんですよ!」


「っああ。悪い。」


 再び頭を抱え出した俺を、ガイドが宥めてくれる。


 ……そうだな。嘆いても仕方ない。

 何かが起きてからでは遅いのだ。


 拒否できないだと? あの神……まともに話を聞いてやってたのに一言も言ってねえしガイドにもないぞ。


「30日も猶予あんだろ……? じっくり考えようぜ?」


「そっそうだよ! 私たちも頑張るから! 死にたくなんてないッ!」


 雄二と結奈がそう俺に言う。


「ああ……そうだな。ったく俺は配下に迷惑かけてばかりだな……」


「そんなことはありませんよ、マスター。」


 落ち込む俺に、水晶ガイドが声をかける。


「ガイド……」


「魔王様は気を使いすぎなんです。普通、魔王は私たちや配下を使い潰したりするのが常なのです。それを魔王様は……だから、自信を持ってください。私たちを頼ってください!」


 ガイドは今までで一番、語気を強めて言った。

 そうか……。配下を頼る、か。


 俺は配下に失望されないように……配下頼みなんて魔王らしくないから……と考えていた。上に立つ者として、配下を引っ張っていかないといけないのだと思った。

 だが、配下に頼っても……いい、のか?


「そうだよ! 私たち信頼されてなかったの!?」


 結奈が心外だ! とでも言いたそうに叫ぶ。


「ふん。お前は魔王らしくしとけばいいんだよ。こんなすごい剣くれたじゃねぇか。信頼の証だと思ってたが……違ったのか?」


 雄二は悪戯っぽく笑って、俺を見た。

 そして、ガイドは……


「……私に、名を与えてくださるのでしょう?」


「……!!」


 優しい声音で、そう告げた。


 ああ……そうだ。

 俺は弱気になっている暇はないんだった……!


「ああ……そうだな、皆。」


 雄二がこんなことを言うのは意外だが、結奈を助けたからか、最近仲が深まってきているのは確かだ。


「じゃあ、早速作戦会議でもするか!」


「「おおー!」」「はい、マスター。」


 俺が号令をかけると、収納しているガルーダ以外の仲間たちが返事を返す。


 よし、ダンジョンでもいじるか……


 ……と、その時。

 水を差す声がかかった。


「……あんたら……魔王と……馬鹿みたい」


「「「!!」」」

「……マスターの前ですよ、口を慎みなさい」


 ベッドの方を向くと、真希が起き上がったところだった。


「……真希? ダンジョンに残っていたのか……?」


 あれ? でも敵対勢力は強制排除って……


「……ふんっ。私は敵とすら見られないのね。……今すぐにでもこのコアを破壊したいのに出来ない無力さが憎いわ。」


 怪我をしていたから敵対勢力とみなされなかった……?

 それとも……


「……なーんて言って、協力的なんじゃないの? 真希ちゃん?」


「っ……何をっ」


 そう言う結奈に次いで、雄二が真希に向かって問う。


「……魔王を、信じてもいいか、迷ってるんじゃないのか?」


「っ……信じていいっていうの?」


「……ああ。信じろ、としか言えないけどな」


「……ふん。馬鹿みたい。」

 

 俺がそう言うと、真希は拗ねたように俯いた。


「……もう……何が何だか、わかんなくなってきちゃったじゃない……」


「? 真希ちゃん?」

 

 呟く真希に、結奈が心配して背中をさするが……


「っ触るなっ! あんたも……もう洗脳されちゃったの!?」


「きゃっ……!」


 真希は結奈を突き飛ばした。


「なっ……真希、お前いきなり……!」


 雄二が非難の眼差しを向けるが、真希のを見て言葉を詰まらせた。


「……ほんと、どいつもこいつも……」


「ま、真希ちゃん……?」


 困惑する結奈をよそに、真希は言葉の棘を吐き続ける。


「結奈、あんただって心の中で見下してんでしょ! どうせ私はブスよっ! 弱者よっ! あんたとは違うわ!」


「真希ちゃん……私、そんなこと……」


「もういいっ! 聞き飽きた! どうせ皆私を見捨てる! 須藤くんも、あんたたちも、神様でさえっ! 私に何も与えなかったっ!! 姿も、力も!」


「「!!」」


 真希は、精神が暴走しているようだ。

 それも仕方ない。世界が変わって、職業柄1人で何もできず、誰かに頼りっきり。勇者の須藤には裏切られ、魔王に囚われた挙句戦争に巻き込まれる。とんでもない不運だ。


「真希ちゃんっ……」


 これ以上結奈が何かを言っても状況と真希の精神は悪化の一路を辿るだけだ。

 そう判断した俺は、不器用ながら


「あ〜、ダンジョンどうするか迷うな〜、実際にじっくり見て来てくれる人がいればな〜」


「「っ?」」「マスター?」


 突然の俺の独り言に、皆が困惑した視線を向ける。

 俺は真希たちの方を一切向かずに、背を向けながら呟く。


「攻略側に立って見られる人間の配下がいたらな〜」


 俺は1人で、黙り込んでいる雄二と結奈に聞こえるように呟き続ける。


「改善点を容赦なく指摘して改良してくれる配下がいれば頼れるのにな〜」


「「「!!」」」


 さっき頼ってくれと言った手前だ。断るのは……鋼よりも硬いメンタルがいるだろう。


「お、おい魔王。俺、このダンジョンに何がたりてないか探してくるっ!」


「わ、私も!」


 雄二と結奈が威勢よく協力を申し出る。扱いやすくて助かる。


「お? そうか、ありがとう。コアも持っていけ、写真が取れたはずだ。こんな時くらいしか使えないしな。いや〜頼りになる配下だ〜」


「「えっ」」


「マスター!?」


 ガイドが驚いたように俺の名を呼ぶが、無視して雄二に命令を下す。

 ──コアを持っていけ!


 俺がそう命令すると、結奈と雄二はコアを持って1部屋目に向かっていった。


「……あんた」


「ん? 真希じゃないか。ここに残ってるってことは……手を貸してくれるのか?」


 俺は今気付いたかのように真希に声をかける。


「っ……誰が魔王に手なんか……!」


「おっと。そりゃ失礼。……あ、パンとご飯、肉と魚ならどっちがいい? もう起き上がれるくらい痛みが引いたなら食べれんだろ。食わなきゃ死ぬぞ」


「……へっ?」


 俺が真希の方を向かずにそう言うと、真希は気の抜けたような返事を返すのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る