第17話 ようやく平常運転!?


あれから3日。俺のダンジョンにはちょくちょく侵入者警報が鳴り響いていた。


 勇者が1人で、それもボロボロになって帰って来たのだ。

 見にいってもらった雄二が言うには、極力隠すつもりだったがダンジョンから出てきたところを見られ、噂が広まったらしい。


 ──勇者だけに任せてはいられない! 自分の身は自分で守る必要がある! と。


 勇者が負けたことにより、人々は怯えるのではなく自ら力をつけようと動き出したのだ。


 正直、意外に気概があるんだな、と思ったがダンジョンに来てくれるのは大歓迎なので良しとする。


 今も、8人で入ってきたグループが迷路でスケルトンを倒しているところだ。


「他の魔王もようやく、って言った感じだろうな。奴ら絶対焦ってるんじゃないか?」


「連日、人が増えてますね、マスター。」


 日に日に俺のダンジョンは賑わっていっている。

 人類の目的は土地の奪還……つまり魔王の討伐だ。


 宝箱なども探すだろうが、大半の人間がダンジョンを残すなんて選択をしない。

 宝箱の中身が良くても、目の前に魔王がいれば生かしておくことなど考えないのだ。


 俺のダンジョンはどんどん人が増えていき、しまいには今日から人数規制がかかった。


「6〜12人で、二組までが同時攻略か。安全に経験値が稼げるから人気なんだろうな。」


 恐らく他の魔王は、ようやくきた客を逃すものかとかなり浅い場所で殺しているのだと思う。その点2生存率100%を誇るこのダンジョンは貴重だろう。

もしかすると、このダンジョンは残しておくことになるかもしれない。


「……魔王、終わったぞ。」


「うん。……やっぱり、殺したりするのは、まだちょっと……」


 3部屋目から雄二と結奈が出てくる。

 雄二は前と同じ黒い仮面に犬の耳がついた、お祭りで見るような仮面をしている。

 結奈は赤い猫の仮面だ。


 そう、3部屋目はこの2人が守っているのだ。

 結奈はまだ正式な配下……【奴隷】じゃないし、人を殺すことに抵抗があるようだ。雄二の手につく血を見ればどうしたかは明らかである。


「ああ。無理をする必要はない……と言いたいところだが、すぐでなくてもいい。いつかは慣れろよ?」


「……うん。それよりこの仮面……本当にふざけてないの?」


「あ、ああ……ぷっ……似合ってるぞ……」


「おい魔王。笑ってんじゃねえ! ったく悪ふざけしやがって……」


 前の無骨な仮面(1DP)にオプションとして、カラーチェンジや改造を施したのだ。(合計2DP)

 この方が不思議なイメージを持たせられると考えてのことだったが、思いの外面白くて笑ってしまう。


「……人でなしよ。人間なのに人間を殺すなんて」


「ん? そりゃ俺は魔王だし、俺がやらせてんだからな。こいつらは悪くねぇぞ?」


 真希は少し体調がマシになってきた……といっても痛みに慣れてきただけで、傷は残ったままだ。今のように、1日に数回は喋れるほどになっている。


「このペースならまた明日にでも10000DP超えるな。」


「おっ! じゃあ私も強い武器もらえるの?」


 結奈が雄二の腰にある魔剣ディメントを見て言う。


「……それはまだ無理だ。それは色々制約があるから、安かっただけで他のユニーク武器は100000DPとかする。雄二もの時以外触ってないだろ?」


「そういえば! 雄二、戦闘中ほぼ喋らないもんね。」


「ああ。だから15000DPで上級回復薬を買って真希の足を直そうと思う。」


 俺は向こうで寝ている真希に聞こえないよう小声で言う。


「おお! いいね! やっぱ魔王さんやけに優しくない? 最初神に教えられたのと全然違うんだけど!」


「まあ……結奈を助けてくれたし、皆が皆悪人じゃないってことだろ。」


「……まあ、自分のためだからな」


 俺は2人の会話を聞きつつ、水晶をいじる。


「マスター。地図をご覧ください。」


「ん? わかった……!?」


 俺はガイドに促されるまま地図を開く。

 そこには、少し前とは違う地図が映っていた。

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★……自分のダンジョン ☆……他のダンジョン ■……実際には地図には表示されていないが、人類が住むエリア。魔物が入れない。


 比較的俺から離れたとこにあったダンジョンが4つ、なくなっている。


 これは……もしかして……


「はい、マスター。おそらく“勇者”須藤が行ったと思われます。」


「……このダンジョンに復讐するため、レベル上げってことか。」


 須藤は結奈を人質にして逃げたが、突然結奈がいなくなったと思えば一般人に敗北を知られてしまうという醜態を晒したわけだ。何がなんでも挽回しようとするだろう。


「それで……3日で4つ? いや、ひとつくらい他の“調査隊”とかが解放してるだろうし……大体1日1つ!?」


「はい。……恐らく高性能なスキルか、仲間を手に入れたと思われます。」


 須藤……気の抜けないやつだな。腐っても万能な“魔法剣士”の勇者か。


「だが……もう結奈は、俺たちの仲間だ。……俺に、俺の仲間に手を出したことを後悔させてやる。」


 俺はきっとまた会うことになるであろう須藤に対して、不敵な笑みを浮かべたのだった。


=====


「よし……ここから先は、3部屋目。帰ってきたやつはいないとされているが、奥に最深部への扉があるのは確認済みだ。今日俺たちでこのダンジョンを解放し、世界に平和をもたらすのだ!」


「「「おおおお!!」」」


 王の魔王のダンジョン、3部屋目に警告を無視して7人の人間たちが足を踏み入れる。


 彼らが3部屋目に一歩を踏み出したその時、奥から3人間が出てきたのが見える。

 その中の、唯一顔を隠していない男がこちらに向かって語りかける。


「ようこそ、俺のダンジョンへ。申し訳ないんだが、帰ってくれるかな?」


「なっ……人間!?」


 いかにも魔王であるかのような物言いの男は、どこからどう見ても人間だった。

 そういう魔王も普通にいるというのに分からないのは、彼らが魔王に会うのが初めてであることを物語っている。


「どう言うことだ……? 後ろのどちらかが本体? 普通は魔王が顔を隠すんじゃないのか……?」


 先ほど号令をかけていたリーダーらしき人が、俺を見てつぶやく。

 代わりに、他の団員が叫んだ。


「誰が帰るか! 消えるのはお前だっ!」


「我々の土地を取り返すぞっ! みんな!」


「「「おおおお!!」」」


 団員は次々に雄叫びをあげ、棍棒やら鉄の剣やらでこちらへ走ってくる。


「……残念だ。チャンスは与えたと言うのに。ならば……死ね。」


 ──逃すな! 残さず血祭りにあげよ!

「結奈! 雄二の援護をしろっ!」


 俺は後ろの2人に命令を下した。

 直後、雄二が床の土を巻き上げながら、猛スピードで相手のパーティに突っ込む。


 ドパァッ!!


 相変わらず速ぇな……


 パーティが気づいた頃には、雄二が彼らの懐で右手に持つ剣──ディメントを振るっていた。


 スパンッッ!!


「な、ぇ…………」


「う、うわあああ! 化け物──ゴボッ」


 1人の上半身と下半身が泣き別れし、それに気を取られた4人の仲間が回転する雄二の持つディメントによって同じ末路を辿った。


 命令から数秒。結奈の手から放たれたがリーダーの足を打ち抜き、俺が残りの1人を切り捨てる。(ブロンズソード:20DP)


 7人の人間たちはリーダーを残して全滅した。


「なっ……!?」


 そして命令通りリーダーを殺そうとした雄二に止まるように命令する。

 ディメントを持っている今の状態なら、強い意志があれば命令違反できるが、基本的に俺に忠実になってきた配下だ。

 命令通り雄二はリーダーの目の前で剣をとめた。


 俺はリーダーに向かってブロンズソードを突きつける。


「ヒッ……ヒイッ! た、助け……」


「……残念だなぁ。帰れといったのになあ。」


「え────」


 命乞いをするリーダーを無視して、俺はトドメを刺す。


「どうだ? 何かしたいことがあったみたいだが……」


「ん? ああ。配下と俺、どっちが倒しても俺に経験値は入る。だが、やはり直接倒した時の方が倍近く高かったな。」


「そうなのか? 俺は特に半分になったとかそういう感じはないがな。」


 そう、俺は経験値の入り方を見るために自ら敵にトドメを刺したのだ。

 結果はやはりと言うべきか、自分で倒したほうが高かった。


 実は雄二が侵入者を撃退しすぎてレベル20に到達しており、焦りを感じていたところなのだ。魔王として、突き放されるわけにはいかない。


「ねえ! 新魔法“ファイアアロー”どうだった!?」


 そんな俺の気持ちなど露しらず、結奈が新魔法の感想を求めてくる。


「ん? ああ。すごい威力じゃないか。」


「凄いぞ、結奈! さすがだ! トドメを刺してない分レベルの上がりが低いのに、練習してスキルのレベルを上げるなんて!」


 スキルは使っているとレベルが上がるらしいな。……俺のもかな?


 そんなこんなで今日も平和は守られ、その後しばらく平和が続くのだった。

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