第14話 決着


「……なんとか言ったらどうだ! 魔王!」


 俺と義信は剣を、義信は盾も構えて身構える。

 それに対する魔王は……


 無言で剣を構えることで応じた。


 次の瞬間、俺と魔王が同時に踏み込み、剣と剣が交差する。


 ガキイイインッ!!


 速い……っ!

 いままでの魔王は俺よりも遅く弱かった。その代わりに、道中の魔物は強かったのだ。


 このダンジョンは、明らかに魔物が弱かった。だから1日で最深部まで来れたのだ。

 恐らく、本人が強いタイプなのだろう。


 

 拮抗なんてする筈もなかったDP10000対20の差は歴然

 

 一瞬にして俺のブロンズソードがへし折られる。

 俺は瞬時に後ろへ飛んだが、腹の上部を深く切り飛ばされる。


「ぐわああああ!」


「す、須藤!」


「「「須藤くんっ!?」」」


「よそ見している暇があるのか?」


「なっ……ゴボァ」

 義信や、魔法使いたちがリーダーが一瞬で吹き飛んだのを見て驚愕の声をあげる。

 その一瞬の隙をついて、義信の眼下にたどりついた魔王は手に持つ黒紫の剣で義信の首を断ち切った。


 このメンバーになって初めての仲間の死に、全員が悲鳴をあげる。


 そんな中、治癒を受けている俺は手に握るブロンズソードだったものを見る。


 ブロンズソードは、あの剣にへし折られるどころか

 ほぼ根本から見える断面が恐ろしいほどに綺麗だ。


 ……勝てない。


 剣を切るなんてことをされ、一瞬でわかるはずの実力差を理解するのに俺は十数秒の時間を要した。

 だが、リーダーが戦いの最中に十数秒も武器を見つめて動かなかった代償は高くつく。


「きゃあああ!」


「いやっ、助けてええ!」


「死にたくないいいい!」


 俺と義信で守っていた5人の魔法使いが全滅したのだ。

 魔法使いは、前衛職と違って力のステータスが低い。そのため、避けることも、防ぐこともできないのだった。


 幸いにも、結奈は部屋の端にいたが、もう助からないのは明白だ。


 言葉すら発せず、冷酷に5人の首を跳ね飛ばした魔王。


 ガルーダと戦っていた2人、彰と春はこちらの悲鳴に隙を晒してその心臓に凶爪を突き立てられていた。


 一瞬にして、勇者組は全滅したのだ。


 その時、奥の暗い扉から1人の男が現れる。


「やあ、勇者くん。とりあえず……死んでもらおうか」


 その男は、そう言ったのだった。


=====


☆☆☆

 

 さて……上手くいったな。

 予想以上に、圧倒だった。

 ガルーダはボロボロだが、特に雄二が。


 魔剣ディメント……さすがに強すぎだろ……


 ユニーク武器の中で最も安いとはいえ、10000DPしたのだから武器としての格が違うのはわかる。

 だが、魔法を切るどころか斬撃まで飛ばせるとは……。


 俺はかっこいいと思ってやらせた行動が想像以上の効果を発揮して冷や汗をかいた。

もし威嚇として結奈たち魔法使い陣に向けていたら……


 信頼を失うとこだった。


「危ない危ない……約束は守るのが俺のポリシーなのに。」


 そうしているうちに、決着はついたようだな。


 俺は自ら、出向くことにした。そのために、命令して治癒士を生かしておいたんだからな。


「んじゃ、いってくる。」


 相変わらず敵の前に出るのは怖い。魔王として情けないかもしれないが、弱いのだから仕方ない。


「いってらっしゃいませ」


 だが、今回もこの一言が俺の足を動かす。


 ガイドが、ガルーダが、明るい未来──はわからないけど、待っている。


 そう思うと、自然に足が進むのだった。


=====


「なっ……魔王、?」


 俺は【威圧】を発動する。それは弱っている勇者には効果的面のようだった。

 須藤智彦はズザザザッと尻餅をついたまま後退りをする。


「いかにも。俺が魔王だが?」


 俺は自分のブロンズソードを振り上げる。


「ま、待ってくれ!」


「待ってやる義務も情けをかける義務もないんだが?」


「くそ……この外道がっ! なぜ俺たちを襲うんだ!」


 はあ? 

 

 俺は苛立って頬をひくつかせる。


「お前らが俺が静かに暮らしてんのに侵略してくんだろ。俺からすればお前らの方がよほど外道だね。」


「ふざけるな! 魔物で世界を征服しようとしてるくせに!!」


 これ以上話すことはない、と俺は剣を振り下ろそうとする。


 だが、俺が剣を振り下ろす前に、須藤は驚きの行動に出た。


「くそ……クソクソクソクソクソ!! 死んでたまるかよッ!」


 土壇場で須藤は“アイスバレット”を2発放った。


 魔法を同時に撃つのは魔力回路を傷めるから……よくわからんがかなりリスキーかつ難しかったはずだ。


 1発は雄二に、そして1発は……治癒士に。


「っ!?」


「えっ……きゃあああ!」


それらはいきなり強襲し、雄二の顔面に直撃……仮面の左半分を吹き飛ばした。


 そして治癒士は……


「うあああ!! “ヒール” “ヒール” “ヒール”!!」


 太腿を貫かれ、倒れ伏していた。


「なっ……!?」


 俺が須藤の奇行に目を見開いていると、須藤はたたらを踏んだ雄二の隙を見て逃げ出した。


 ……速いっ!


 とてもレベル1の俺では追いつけはしないだろう。

 あいつ……まだそんな力があったのか!


「ははっ! そんなやつくれてやるよ! ブスなんて、勇者の俺に比べれば軽い命だ! 治癒士なんてまた見つかる! “魔法剣士”の俺がここで死んでたまるかっ!」


 なっ……!? なんてやつだ……

 助かるために仲間を見捨てていきやがった!

 しかもご丁寧に足まで潰して。


 さすがに治癒士といえど貫通した穴は塞げないらしい。

 必死に“ヒール”をかけているが、塞がる気配はない。心なしか出血が減ったように見えるだけだ。


 須藤は、出口に向かいながらこっちを振り返り、追いかけてくる雄二を見て息を呑んだ。


「お前……っ」


 須藤が雄二だと気づくと同時に、雄二がディメントを振るう。

 不可視の斬撃が来ると予想したのだろう。


 咄嗟に身を投げ出して避ける。


 だが、雄二もそれを追って斬撃を飛ばしまくる。


 今、雄二は軽い興奮状態だ。

 うるさいから黙らせてるが、本来なら普段とかけ離れたドスの効いた声で叫んでいてもおかしくない。

 そのため、人を殺すことになんの躊躇いも持っていないのだ。


 そんな血走る眼をした雄二を、結奈は茫然と見つめている。その口は小さく、どうして……と呟いているかのようだった。



 ついに、須藤は部屋の隅に追いやられる。


「っ……!」


 須藤は近づく雄二を見て震えるが、すぐそばに1人の少女……結奈がいることを確認して、口角を釣り上げた。


 ……まさかっ!


「雄二!! 結奈を!!」


 だが、須藤と結奈はもう目と鼻の先だ。今更警告しても無駄だった。


 須藤は結奈の首元を掴み、自らの盾にするように構える。


「……な!?」


「きゃっ……!?」


 雄二が驚いて振り下ろしかけた剣をだらりと下げる。


「ヒヒっ……ついてるゼェ……動くなぁ! 結奈がどうなってもいいのか、雄二ぃ!」


 須藤は、懐から包丁を取り出して結奈の首元に添える。


 あろうことか、中津川市の勇者は自分の仲間を人質に取ったのだ。

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