第13話 魔剣ディメント



「────死ね」


「……っ、構えろ!!」


 仮面の男が言葉を発すると、後ろの扉から大きな鳥が飛び出してきた。


「グルルルル!!」『うわあああ! こうなりゃやけだあああ!』


「う、うわああ! く、くるぞ!」


「あれはガルーダ! ユニークモンスターですっ!」


 ガルーダは情けない声を上げているが、そんな言葉の意味はわからない勇者たちは迫力のあるガルーダを見て足をすくませる。


 ……ほう。ユニークモンスターとかネームドの名前とかわかるんだな。


 恥ずかしい名前つけてなくてよかった。


 俺はコアルームから雄二たちの戦闘の様子を窺う。


──雄二! 剣を横の壁に向かって切り払え!


 俺は威嚇のため、雄二に命令する。

 雄二は俺の命令によって誰もいない壁に向かって剣を振るう。


 ビシィッ! と言う音がなって壁に傷がついた。


「ひいっ! 触れてないのに切られるぞ!!」


 その音を皮切りに色々な魔法が飛んできた。


 雄二の緊張が俺にも伝わる。

 そりゃあれだけの魔法に囲まれたらそうなるよな。


 俺は再び命令を出す。


──魔法に向かって剣を振るえ!


 雄二が剣を続け様に振るう。

 その軌道に合わせて様々な色の魔法が両断される。


 全ての魔法は雄二の後ろで炸裂した。


 ドオオオン! ドオオオン!


 雄二はなんでもないかのように歩みを進める。


「ひっ、ヒイッ!? 魔法が効いてない!?」


「違うわ! 魔法が……切られてる!?」


 勇者組は魔法なんて関係ないと言うように切り捨てながら、一歩ずつ迫る雄二に恐怖を覚えた。


「ぐう……喰らえッッ! “アイスバレット”!!」


 その時、不意にガルーダに剣を振るっていた勇者──智彦が被弾を代償に雄二に向かって、弾丸のような球を飛ばす。


 他の梨乃たちが放っていたファイアボールを切って進んでいた雄二は、斜めからいきなり飛んできた早い氷弾に腕を撃ち抜かれる。


 幸いにも、服が破れただけでかすり傷程度だったが、俺はその魔法に戦慄を覚えた。


 ファイアボールや、土の球──恐らくランドボール──とは違う魔法。

 それらよりも小さいが、速い。


 しかも、様子はもう少しずれていたら……と想像させる。


──あの速い球を最大限警戒せよ!


 俺は雄二に命令を飛ばす。


「何!? お前……アイスバレットを避けた……!?」


 ガルーダは……彰? と……誰かわからないな……1人の魔法使い、そして勇者によって足止めされていた。


 後ろの魔法使いが固まっている場所を狙うように言ったが、余裕のなさそうに見える。それどころか、着実に傷を増やしていっている。


 俺はガルーダに適度に上昇して回復するように命じ、再び雄二に目を向ける。


「……だからどうした」


「お前……俺のことを知ってるな!!」


 雄二が突然のアイスバレットを避けたのを見て、雄二が須藤の攻撃方法を知ってるとバレたらしい。


 普通に避けられた可能性もあるのに……絶対の自信があるんだろうな。


 その問いに対して、雄二は……


「……だからどうした?」


「なっ……!」


 仮面の上からでもわかる嘲笑を持って答えた。


「んなこと見れば分かんだろ……このクズがッ!!」


「テメェ……調子に乗るなよ!!」


=====


☆☆☆


「ちょっと結奈! あんたも攻撃しなさいよ!」


「何してんの! 死ぬよ!」


「……ぁ、す、すみません」


 私、結奈は、目の前に迫り来る仮面の男をみる。


 あの背格好……歩き方……


 どれをとっても、大好きな彼……佐々木雄二に重なって見える。

 そんなはずはない。

 大好きな彼が魔王の味方をするなんて……


 あれは、魔王。幻覚……魔王の変装……


 自分にそう言い聞かせるが、雄二と過ごした時間がフラッシュバックしては目の前の男に重なってしまう。


 掲げた腕は、上がりきらずに震えている。


 そんな……彼に……攻撃するなんて……


「……できない、できないっ!」


「ちょっと!? 大丈夫!? ……うっ、これ、毒霧……!」


「それでですか!“ヒール”!」


 勘違いした魔法使いの梨乃さんと治癒士の真希さんが、私に回復魔法をかけてくれる。

 確かに毒霧は辛かったので、助かる。


 ……!


 彼は、大丈夫なのか?

 仮面はしているが、息をしている以上絶対に吸い込んでるはず……


「ちょっと! 治りませんか!?」


「……今は1人でも戦力が欲しいとこなのにっ! しんどいなら端で休んでなさい!」


「ぁ、ぁぁ……すみ、ません……」


 狼狽える私に、少し前で鳥と戦う勇者……須藤くんが声をかける。


「結奈! 無理はしないで。君に何かがあると大変だ!」


 須藤くんは心配してるのか口説いてるのかわからない声をかけてくる。


 何度も断ってるのに……しつこい……


 私は、連日夜の誘いすらしてくる彼に辟易していた。

 でも、彼……雄二がすぐに前線組に追いついてくれると思って、なんとかかわしつつ我慢していたのだ。


 だが、その彼は座り込む私の視線の先にいる。


(どういう、こと……なの……?)


 彼のことなら、何か理由があるはずだ。

 私はまた彼といられることを願いながら、今だけは、勇者組が敗れることを祈るのだった。


☆☆☆


「クソッ……このままじゃ、魔王に義信までたどりつかれるっ!」


 俺……中津川の勇者と呼ばれる須藤智彦は、今までで一番の強敵であろう魔王に焦りを覚えていた。

 どんな魔物も一瞬で木っ端微塵にしてきた6人の魔法……それを一斉放射されて無傷なのだ。

 魔王だから耐えるとは思っていたが……無傷なんて。

 魔王の手には禍々しい、魔法すら断つ剣が握られている。


 ……あの剣……欲しいな。


 装備をしている魔物は倒せば当然その装備を落とす。


 俺のは市長にもらったんだが、義信が持っている鉄の盾と剣はそれでゲットしたものだ。

 彰も鉄の剣を持っている。


 なら……この魔王を倒せば……


 俺は強い武器がゲットできるチャンスににやりと笑う。


「おいっ! 彰! 春!」


「あん!?」「な、何っ?」


 俺は飛ぶ厄介な魔物……ガルーダと対峙している仲間の名を呼ぶ。


「あの魔王は勇者の俺が食い止める! お前らはそいつを倒して加勢してくれっ!」


「了解だぜっ坊主!」「わ、わかった!」


「はあ……勇者の俺に坊主はやめろって…………ありがとう、行ってくる!」


 彰は大人だからって俺を坊主と呼ぶ。……やめろと何度も言ってるのにな。まあ、今の俺は新たな武器を前にして機嫌がいい。許そうじゃないか。

 俺はガルーダを仲間に任せて男の方へ向かう。


 俺たちは、負けるなんて一ミリも思っていないのである。


「おいっ魔王! 喰らえ! “アイスバレット”!」



「魔王ではな────」


 俺の放った必殺の魔法に素早く反応してかわした魔王は、何かを言いかけたが、まるで強制的に閉ざされたかのように口を閉じた。


 俺はもう魔王のすぐ近くにいる義信の隣に並び立って、後ろの魔法使いたちを庇うように言う。


「ここから先は、勇者である俺が一歩も通さない!」


「俺もだぜ! 魔王!」


「キャー! さすが須藤くん!」


「流石勇者だわああ!」


 ふっ……歓声が辛いぜ……。でも俺は今、結奈を狙ってるんだ。


「……なんとか言ったらどうだ! 魔王!」


 俺と義信は剣を、義信は盾も構えて身構える。

 それに対する魔王は……


 無言で剣を構えることで応じたのだった。

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