第12話 【隷属】
「じゃあ、始めるぞ。」
「……ああ。」
俺は【隷属】の準備をする。
雄二がいかにも緊張しているといった様子だが、それよりも緊張してるのは俺の方だ。
初めて試す【隷属】だ。
うまくいくか不安である。
「マスター、これは恐らく誓いの言葉を言わせる必要があるので口上が必要だと思われます。」
そうか、誓いの言葉か……
どんな風にすればいいんだろうか?
「……どうした? 早くしろ。」
……悩んでいても仕方ない。
ものはためしだ。やってみるか!
「……えー、俺、王の魔王は雄二、そなたを配下として引き入れる。」
「……俺、雄二は魔王様の手足となって一生の忠誠を誓います。」
直後、雄二の下に直径1メートルほどの魔法陣が出現する。
……ってえ? 別に一生とか、そこまで言わなくても……
「うお!?」
そして、魔法陣が一際明るく輝き、シュウウウウ……と音を立てて消えていった。
雄二の姿には変化は見られない。
俺はスキルを確認する。
〜〜〜〜〜
【隷属】……人間、外部の支配を離れた魔物を対象とし、誓いの言葉を口にさせることで【奴隷】にする。【奴隷】は配下と同じく命令に逆らえず、ダンジョンの外に出られるが、意思疎通はこちらからしかできない。72時間に一度のみ使用可能。 残り72時間
〜〜〜〜〜
隷属の項目が灰色になっていて、説明の一番後ろに残り時間が記載されていた。
「こ、これは……」
──おい、聞こえるか?
「!! あ、ああ。……? こちらからは話しかけられないのか?」
おお。どうやら、説明通りこちらからは意思疎通が可能になるらしい。
「……なら、とりあえず、命令を下す。一つ、魔王、およびダンジョンコアに危害を加えないこと。一つ、俺の命令には絶対服従すること。一つ、許可なく俺の存在をばらさないこと。」
「!」
──自己紹介しろ!
俺は効果があるのか、試しに命令してみる。
するとすぐに、命令の効果は発揮された。
「佐々木雄二。20歳だ。職業は鑑定士で、レベル13だ。結奈は命よりも大事な恋人……って何言わせてんだ!?」
なるほど……どうやらいけるみたいだな。これなら大丈夫だろう。
「……いっ、おい! 聞いてんのか?」
「あ、ああ、悪い。試してみただけだ。ほれ。」
「えっ、おい! 投げんなよ! 危ねえだろ……!?」
俺は雄二に魔剣ディメントを投げ渡す。
危なげなく受け取った雄二はその柄を握り……目を見開いた。
その場でブルリと震える。
恐らく、狂気が雄二を襲ったんだろう。
攻撃しようとしてくるか……?
俺が命令があるのにも関わらず身構えていると、雄二は口元を裂けたように歪めた。
「あ“あ”……なんだこれ、力が湧いてくるゼ……」
雄二はいつもより語気を強めて、そう呟く。
だが……俺に攻撃しようとする素振りは見せない。
「……? 攻撃しようとすることすらできないのか?」
「あ“?」
命令は“攻撃しないこと”だ。こちらを睨みつけたり、剣を構えたり、何かしてくると思ったが……
「……おい、雄二。今、どんな気分だ。正直に言え。」
俺は雄二に“命令する”。
「あ“? 気分? なんでそんなこと聞くんだよ?」
「……!?」
命令無視……!? いきなり……!?
……なぜ、命令が効かない!? 俺は正直に言えと命令したはずだ。
……まさか俺を攻撃できるのか!?
「マスター! この者は……どうなっているのですか!?」
ガイドが俺が命令したのを見て、焦った声を出す。
明らかに命令が効いていないからだろう。
「……どうする……?」
俺はもう2部屋目を突破しかけている勇者組を見て焦る。
こいつが使えないとなれば……
その時、少し逡巡していたガイドが声を上げた。
「……魔王様の配下、雄二! 今すぐに私に攻撃しなさい!」
「……は!?」
ガイドはいきなり自分に攻撃しろと言い出したのだ。
そんなことして、もし攻撃できたら……
俺は最悪の結果を予想して、止めようとするが──
「ん? まあ……結奈と俺の邪魔をするなら……殺してやるさ」
「……ふん。攻撃しなければ結奈はどうなるか────」
「──あ“あ”!? 死ねッ!!」
──雄二がディメントをダンジョンコア目掛けて振り下ろす方が早かった。
……死ぬっ!
俺は砕けるコアを想像して、顔を背けながらギュッと目を瞑る。
だが、数秒経っても変化は起きなかった。
「……あ?」
雄二の気の抜けたような声が聞こえ、俺は恐る恐る目を開けた。
──雄二の振り下ろした凶刃は、コアの手前で止まっていた。
「……やはり、あらかじめした命令は無視できませんか」
ガイドの安心した声を聴いて、俺はガイドがなぜこんな奇行を行ったのかを把握した。
「……そういやあんたら、仲間だったな」
雄二は不意にそんなことを言うと、ディメントを持つ手をだらりと下ろす。
「なんだ……、暴走……?」
俺の目には雄二が暴走してるように見えた。
でも、さっきよりはマシに見える。
今なら命令できるか?
「雄二、跪け!」
俺が言うと、雄二はガクンと片膝を折った。
「……!? 何しやがる、魔王さん!?」
命令が……効いた?
俺は安心して、命令を解く。
立ち上がった雄二は不満を言うが、暴走してた自覚があるらしい。そこまで強くは言ってこない。
「……この武器、危なすぎだろ。理性を犠牲にって……まるで呪いの武器だな。」
まさか一時的に命令すら効かなくなるとは……
持ち直した雄二がふと、呟く。
「どうした? あと数分で勇者が来るだろうから準備しろ。ガルーダ! お前もだ! いつまでビビってんだ!」
『ヒィィィィ……怖いよおお! 今度こそ死んじゃうかもしれないんだよおお!』
「絶対に生き返らせてやる! そしたら特上の肉くれてやる!」
『ほんと!? よーし……肉のために頑張るぞ!』
普段は一日1回1DPで買える粗悪品を食わせてるからガルーダは張り切っている。
……だってDP全然ないんだもん……
その点俺の配下の×モンスターたちは食事要らずで助かる。
「……ん? どうした? ……暴走して結奈を傷つけるのが不安か?」
俺は剣を行く直前まで横に置いておくと言う雄二に声をかける。
「……はっ。暴走していても、俺が結奈を傷つけるなんてありえねえな。」
雄二は心配いらないとでも言うかのように、軽く笑った。
=====
「……そろそろ出口が見えるか……?」
「ああ……もう迷路は懲り懲りだぜ……お!?」
義信と彰が迷路を抜けて伸びをする。
「……どうやら、ここが最後のようだな。」
勇者である須藤智彦は、現れた墓地の奥に見える暗い扉を見て口元を歪める。
「何もいないようだけどお?」
「梨乃……ここが最後だ。何事もないなんてありえない。きっといつものようにボスがいるはずだ……!?」
須藤がそう言うと同時に、暗い扉から1人の……恐らく男が、歩いてくる。
その男は黒い仮面をしていた。
「嘘……なんで……?」
結奈がボソリというが、勇者組の中で聞こえたものはいなかった。
そしてその男の手には、禍々しい黒と紫の剣が握られている。
……明らかに普通の武器ではない。
その狂気すら感じるオーラは、須藤の持つブロンズソードですら存在を霞ませた。
「……魔王」
真希がそういうと同時に、仮面の男はくぐもった声を発する。
ただ一言。
「────死ね」
と。
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