第12話 プロローグ

 一通り走り回り、桜坂さんを発見したのは近くの公園だった。

 住宅街にひょっこりと存在する簡素な公園。滑り台と、砂場。鉄棒にベンチがある。


 朝の時間帯だからか、周囲に人の気配はない。ベンチに座って、試合に負けたボクサーみたいにどんよりと重たい空気をまとった女子高生。


 桃色がかった黒髪は、ふんわりとウェーブが掛かっている。彼女は俺の足音に気がつくと、ゆっくりと顔を上げた。


「あ……ゆーくん」


 泣いていたのか、目の下が赤くなっている。

 制服の袖で、ゴシゴシと擦りながら笑顔を繕った。


「えっと……まぁなんつーか悪かった。もう少し言い方があったと思う。ごめん」


 髪の毛を掻きながら、謝罪を口にする。


 桜坂さんはふるふると首を横に振った。


「う、ううん。ゆーくんは悪くないよ」


「そういや、名前教えてもらっていいか?」


 彼女のフルネームは知っている。

 だが、今回はまだ聞いていない。誤って呼んでしまうリスクを避けるべく、名前を聞いておく。


「あ、そうだよね。今日はまだ名乗ってなかったね」


 困ったように頬を掻く桜坂さん。


 彼女はふわりと微笑むと──確かに、そう──口にした。


「桜坂明里。もう、六回目の自己紹介になるね。最初のラブレターをカウントしていいなら、七回目か」

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