第26話

 紗良が44歳の時、涼真の出所が真帆の18歳の誕生日の日に決まりました。真帆は既に女子高の3年生になっていました。

 私は店を休んで前の日から真帆と東京へ出てきていて、当日は朝から出口近くまで迎えに来ていました。10時過ぎに門が開いて涼真が姿を現しました。

 その瞬間、真帆が「ぱぱぁー!」と大声で叫んで、はちきれんばかりの笑顔のまま全速力で走って涼真の首に飛びついたのです。涼真もバッグを置いて笑顔で真帆を抱きしめぐるりと一回転、その目には涙が溢れていました。

私も涙を流しながら涼真に抱きついて「おかえりなさい」そう言うのが精一杯でした。涼真の胸に顔を埋めて泣きました。

涼真も何かを言おうとしたようでしたが、涙で言葉が詰まったようで、頷いて私を強く抱きしめてくれました。

3人で大泣きしました。抱き合って再会を喜んだのです。涼真の姿が消えてから9年目の事だったんです。これまでの辛く長かった日々が一瞬にして何処かへ飛んで行ってしまいました。

今日中に一緒に札幌の新居に戻る予定になっていました。

 

 一心は離れたところからその様子を見ていた。つられて涙が滲んだ。一緒に来た静も泣いていた。

「これで、良いんだよな。探偵としては不満だが、その前に俺は人間だし、父親だ。不幸の続いた家族がやっと一緒になれたんだ、9年間も離れ離れで苦労したんだ、これからの幸せを願ってあげよう、なぁ、静」

静はハンカチで目頭を押さえながら「そうどすなぁ、ほんに幸せになって欲しい思いますわ」そう言いながら俺の手を引いて、「さっ、帰りまひょ」と浅草への道を歩き始めたのだった。

 

 

        終わり

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穢れの代償 闇の烏龍茶 @sino19530509

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