第25話 デート?


 そして、翌日、カリスト様と一緒に出掛ける日になった。


 カリスト様が「昼頃に迎えに行くから家で待っていてくれ」と言ってくださったので、午前中は家でのんびりしていようと思った。


 精霊樹の枝をどう使うか昨日からまた考えていたけど、特に思いつかなかった。

 今日はカリスト様と魔道具店を回る予定だから、出来ればその時に良いアイディアが思い浮かべばいいけど。


 そんなことを考えながら朝食を食べ終わって、また精霊樹について考えようとしたところ、家のドアがノックされた。


 誰かしら? ドアの叩き方がカリスト様ではないわね。


「アマンダ様、イーヤです。朝早く失礼いたします」

「えっ、イーヤ?」


 男爵家にいた頃から仲良くしていたメイドのイーヤ、彼女の声が聞こえてきて驚きながらもドアを開けた。


 開けるとイーヤと共に数人のメイドや執事もいて、少し大きめの馬車が家の前に停まっていた。


「イーヤ、どうしたの?」

「本日、アマンダ様の身支度を任されましたので、お伺いしました」

「身支度? え、なんで? 誰に任されたの?」

「理由はアマンダ様が本日、カリスト様とお出かけをなさるからです。誰に、というのは、キール様です」

「キールさんに?」


 なぜイーヤが私とカリスト様が出かけるのを知っているのかと思ったけど、キールさんなら知っているだろう。


 だけど別に身支度くらいは自分で出来るけど……。


「なんで普通に出かけるだけなのに、キールさんはここまで手配してくれたのかしら?」

「普通に出かけると言っても、相手はビッセリンク侯爵家の当主、カリスト様です。街で侯爵様を知っている方がいらしたら、お連れの女性、つまりアマンダ様に目がいきます。その時にアマンダ様が相応な格好をしていなければ……」

「なるほど、カリスト様に迷惑をかけるってことね」


 そこまで考えていなかったけど、確かにその通りだわ。


 カリスト様には家にいる時の格好とか、素材採取しに行く時の格好を見られているけど、他人の目は意識していなかった。


「ですがそれは表向きの理由、ということでした」

「えっ、表向き?」

「はい、キール様の本当の理由は『アマンダ様の綺麗な姿をいきなり見せられて、狼狽えるカリスト様が見たい』ということでした」

「……よくわからないわね」


 なぜキールさんがそんな悪戯をしようとしているのか。

 それとカリスト様が私が着飾った姿を見ただけで狼狽えるのか。


「とにかく、本日は私と数人のメイドでアマンダ様の身支度をさせていただきます」


 キールさんが言った本当の理由というのはよくわからないけど、表向きの理由はよくわかった。

 だから自分で身支度をするよりかは、イーヤ達に任せた方がいいわね。


「ええ、お願いするわ」

「はい、では今から馬車に積んである数十着の服から、着る服を選んでいただきます」

「えっ、そんなにあるの?」

「正直私も驚きましたが、キールさんが用意してくださいました。侯爵家の力とはすごいものですね」


 イーヤと話していると、他の使用人の方々が服を私の部屋の中に入れていく。

 えっ、服だけじゃなくて宝飾品もあるみたいだけど……。


 いや、それも当たり前ね、侯爵様とお出かけするのだから。


「ではやっていきましょうか、アマンダ様」

「ええ、よろしく」


 その後、いろいろと試着をして、宝飾品も付けていった。

 私は正直何がいいのかよくわからなかったので、イーヤやメイドの方々に意見を聞いて、服と宝飾品を決めた。


 社交界に着ていくドレスよりも少し落ち着いたデザインで、緑を基調とした動きやすいドレスになった。


 宝飾品も多くはなく、青の宝石が付いているネックレスを選んだ。

 これだけ準備をしてもらったのに、最終的には結構落ち着いた服や宝飾品となった。


 それらを着て、あとはイーヤ達にメイクなどをしてもらう。


「これで大丈夫かしら?」

「はい、アマンダ様はもとから美人なので、シンプルなものでいいのです」

「そう?」


 イーヤの言葉は嬉しいけど、カリスト様に気に入っていただけるかしら?

 メイクや髪形のセットも終わり、約束の時間に近づいてきた。


 楽しみではあるけど、少し緊張してきたわ。

 そのまましばらく待っていると、家のドアがノックされた。


 叩き方でわかる、カリスト様だ。


 私はイーヤと視線を合わせて、頷き合う。


「はい、今出ます」


 少し大きな声で家の外にいるカリスト様に声をかけてから、ドアを開ける。


「アマンダ、待たせたな……っ!」

「いえ、時間通りだと思います、カリスト様」

「……」

「……あの?」


 カリスト様が私を見て目を丸くしたまま固まってしまった。

 その後ろにはキールさんがいて、意地悪そうにニッコリと笑っている。


「カリスト様? 大丈夫ですか?」

「っ! あ、ああ、大丈夫だ……」


 カリスト様は頬を少し赤くしながら、私から視線を逸らした。

 ボーっとしていたけど、どこか調子が悪いのかしら?


 もしかしたら午前中の仕事が大変だったのかもしれない。


「本当に大丈夫ですか? 具合が悪いのなら、また後日でもいいですが」

「いや、問題ない。ただアマンダの姿に驚いただけだ」

「そうですか?」

「ああ、本当だ。まさかそんなに美しい姿でいるとは思わなかったからな」

「あ、ありがとうございます。イーヤやメイドの方々に手伝っていただいたのです」


 美しいと言われて少し照れながら、後ろにいるイーヤ達を紹介した。


 イーヤ達はカリスト様に一礼する。


「そうだったのか……もしかして、アマンダが頼んだのか? その、俺とのデートのために……」

「あ、いえ、キールさんが準備してくださったのです」

「なに? キールが?」


 カリスト様は振り向いて、ニコニコと笑っているキールさんを見る。


「そうなのか?」

「はい、腐ってもカリスト様は侯爵様なので、街に出かけるならお相手の女性も着飾っていただかないと」

「俺は侯爵だとバレないように、いつも通りコートを着ていくつもりだが」

「ああ、確かにそうですね。忘れていました」


 そういえば、影を薄くするような魔道具の服があるんだった。

 それなら街に出かけても、カリスト様が侯爵だとバレることはほとんどないだろう。


「ですが困りましたね、カリスト様が魔道具のコートを着てしまったら、とても綺麗なアマンダ様が一人でいると周りの人は思ってしまいます。男性に声をかけられるかもしれませんね」


 えっ、いや、そこまで綺麗になってはないと思うんだけど……なぜか後ろにいるイーヤが大きく頷いているのがチラッと見えたけど。


 だけどそれなら、私は今からでも地味な格好に着替えた方がいいかしら?


「キール、お前……仕組んだな?」

「はて、何がでしょう? 私はお二人が楽しくお出かけが出来るように動いただけですが」

「それなら事前に俺に言わなかった理由は?」

「驚かせたかったので」

「なるほど、本音は?」

「面白い反応が見たかったので」

「この野郎……」


 なんだかよくわからないけど、やはりお二人は仲が良いわね。

 だけどまず聞かないといけないことは、私の格好についてだ。


「カリスト様、私は着替えた方がいいですか? この格好だと迷惑をかけてしまうようなので……」

「いや、大丈夫だ。その格好で問題ない」

「そうですか? 着替えるくらいならすぐですが……」

「本当に大丈夫だ。確かに顔を出して街を歩くと面倒なことになるかもしれないが、それよりも綺麗なアマンダと共に出かけたいという気持ちが勝っている」

「っ、あ、ありがとうございます」


 そんなに真剣な表情で「綺麗」と言われると、やはり照れてしまう。


「いつもの格好でも美人だったが、やはりアマンダは着飾ったらさらに美しくなるな」

「ほ、褒めすぎだと思いますが」

「偽りない本心だ」

「っ……」


 まさかここまで褒められるとは思わず、恥ずかしくなって視線を逸らす。


「アマンダがそこまで美しくなるとは知らなかったから、俺はいつも通りの格好で来てしまったな。誰かが教えてくれていれば、もう少し着飾っていたのだが」

「それは残念でしたね、カリスト様」

「ああ、本当に。誰のせいだろうな、キール」

「誰のせいでしょう? わかりませんが」


 お二人の会話を聞いて、思わず笑ってしまった。


「ふふっ、大丈夫ですよ。カリスト様はいつも素敵なので、そのままの格好でも」

「そうか? ふっ、アマンダに言われると嬉しいな」


 私とカリスト様は顔を見合わせて笑い合った。

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【書籍化&コミカライズ】無能と言われて家を追い出されましたが、凄腕錬金術師だとバレて侯爵様に拾われました shiryu @nissyhiro

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