貴族学院での日常と非日常の始まり

 貴族学院。それはベーエアデ王国に存在するありとあらゆる貴族家の子息子女が、王国中から集まり勉学に励む場所。また別の言い方をすれば、一種の参勤とも呼ばれる行為であった。

 そんな学院生活は、特に緊結の事由が無い限りは、十五歳から二十五歳迄の十年間を学院都市で過ごす事になる。

 この十年と言う歳月の中で将来、貴族として活動する為の基盤作りをするというのも、この学院に通う理由であったりもする。

 私ことヘェッツ・ディートリヒは、そんな学院に入院する為に今は二週間以上に渡る馬車旅の最中である。ヴェーテファン姉様と一緒に。

「姉様…近くないですか?」

「そうかしら?」

「そうです。私も健全な男児ですから押し倒してしまいますよ?」

「あら?そんな度胸が貴方のあるのかしら?」

 私は挑発されたので押し倒してあげた。


「…」

「何時までも子供だと思わない事ですね」

「…」

「しおらしくなって、可愛いですよ姉様」

「…バレたらどうするつもりですか」

「バレなければ良いのですよ。馬車での旅路は長いです、しっぽり愉しみましょうね、姉様」

 馬車は毎日揺れた。


 姉様との関係が変わった旅路も終わり、ベーエアデ王国の首都に到着。一般的には王都とも呼ばれる、首都グフォースアーティグシュターツへと無事に到着した。

 無事にとは言っても、道中魔物に襲われもしたのだが、ベーエアデ王国の田舎町に住んでいる私達からすれば、それは最早日常の一幕でしかなく順調な旅路であったのだった。

「まずは邸宅に向かいましょう」

「ですね、馬車に揺られっぱなしで疲れました」

 姉様の言葉に応え、残り僅かとなった馬車旅を楽しむ。


 貴族学院を囲う様にして存在する学院都市。そこは貴族学院に通う子息子女が生活をする為の場所で、警備の関係から外部との接続が絶たれた場所であった。

 この学院都市に入れるのは、学院に通う本人とその従者と護衛のみとなっており、学院都市では彼ら彼女らが生活するに十分な環境が整えられているのであった。

 学院都市へと入るための諸々の手続きを終え無事に都市内へと入り、ディートリヒ男爵家で借りている邸宅へと移動する。

 田舎貴族とは言え貴族は貴族、それに多くの魔剣士を排出してきた関係で、男爵家としては潤沢な資金を保有する我が家であった為、寮ではなく邸宅を借りての生活である。

 今日からここで私と姉様との生活が始まるのであった。

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